騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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「いやー、参ったよ。さすが強いね」
「はぁ、お前、何を言って……ハッ!?」
「ウソ発見器は反応していないぞ。今のはアベルの心からの本音だ。ギルドマスターである俺も保証しよう」
「チッ!」
「なんでそこで舌打ちなんだよ!」
「ギルマスとかいうヒゲハゲが燃えればいいと思ったのに」
「は? ウソ、ウソだよな? カイ、お前がそんなこと思うはずが……」
「いえ、ギルドマスター。ウソ発見器は反応していません。今の言葉はカイ様の心からの本音のようですよ」

 いつもの受付職員のトドメの一撃で、ヒゲハゲが轟沈した。
 どうせその程度の装置が燃えても、お前、無事なんだろ?
 だったらいっそ、トリを飾って華々しく燃えるのもよかったんじゃないのか?


「おめでとうございます、ご主人様!」
「旦那様、強い! すごい!」

 修練場の端で様子を見守っていた天狐姉妹が駆け寄ってくる。
 駆け寄ってくるが、おい、勢いを止めろ。
 そのままだとぶつかるぞ!

「ご主人様!」
「旦那様ー!」

 避けたい。だがその後が読めない。
 くそっ、だから女は嫌いなんだよ! 何を考えているのかさっぱり読めん!

「ムギュッ!」

 避けなかったら抱き着かれた。
 固い。
 多少は柔らかくなっているが、やはり基本は骨と皮だ。
 もう少し太ってから抱き着けっての。
 いや、人前で抱き着くのはナシだ。面倒くさい。

「離れろ」
「はい!」
「はいー!」

 素直に言うことを聞くのはいいが、この調子ではなぁ。

「カイよ。とにもかくにも無事にこれで証明されたわけだ」
「カイの身の潔白は、僕ら清流戦団が保証します。実力もね」

 ……なに?

「お前ら、やっぱりグルか?」
「グルだなんてそんな。カイ、ボクは元々このギルドのサブマスだよ」
「は?」

 現役の三等級冒険者が、ギルドのサブマスター?

「やっぱり知らなかったんだね」
「興味がないからな」
「そうだね、君はそうだよね」

 邪険にされてるのに、なんでうれしそうなんだよ。
 気味が悪いヤツだな。

 一歩引いた俺に対して特に思うことはないのか、終始笑顔でそいつはうなづいていた。
 意味分からん。


「疑惑も晴れた! さぁ、お前ら撤収だ!」

 パンパンとギルマスが手を叩くと、遠くで見守っていた連中は何も言わずに退場していく。
 あれだけボコったんだから当然か。
 しかしこれで今度は逆の意味で目立つな。天狐姉妹のこともあるし、身を隠せる用意をしておくか。

「カイ~~~! お前はこっちだ!」
「なんだ? もう用事は済んだのだろう? 俺は忙しいんだよ!!」

 天狐姉妹をこれから鍛えて、ひとかどの冒険者にするんだよ。
 そのためには、時間が惜しい。

「彼女らのためにも従っておけ。お前が認められれば、彼女らも多少は暮らしやすくなる」
「そのために俺が晒し上げられるってんなら、お断りだ!」
「名前は伏せる。居場所も伏せる。ただ、ギルドは新たな二等級冒険者が魔法使いであるとは公表する。これでどうだ?」

 ……俺にどんなメリットがあるっていうんだ。

「二等級冒険者は、貴族で言えば子爵級だ。これはこの国も認めている。お前が子爵以下の貴族の頼みを断っても、何も問題にならなくなる。むしろ国がその貴族を問題視するようになる」
「なんだ、その優遇措置は?」
「当然だろう? 二等級冒険者は決戦兵器でもある。優遇されない方がおかしい。この俺のようにな!」

 そうか、この男は結構優遇されているのか。

「その頭でか?」
「頭は関係ねーよ!? 剃ってるだけだしぃ!」
「力説すると、かえってあやしいな」
「あやしくないわ!」

 どうだか。

「そんなことよりも、だ。そのお嬢さんたち、アレだろう?」

 両掌を広げ、頭の上に添えておいでおいでと手招きをする。
 まるで、そう、獣の耳に見立てたような動き。

「ハゲたオッサンがやると、キモいな」
「ギルマス、それはないですね。ちょっと向こう向いていてもらえます? カイにはボクから話をしますので」
「さぁギルドマスター。カイ様の教育に悪いのでこっち行きましょうね」
「なんでだーー!!」

 なんでだ、じゃないわ!
 いい歳をして自分を客観視できないヤツめ!


 それから色々と書類を書かされた。
 不正はしていません。ルール守ってます。
 そんな感じ。
 だが、この程度で俺の身分が守られるのであればやらないこともない。少なくともギルドは俺にそう思わせるだけの実績を積んできた。それを評価する。

 ようやく全てが終わったころには、昼を過ぎたくらいだった。
 ギルドを出て、姉妹と昼食を適当に食べてから俺たちは街を出る。

「この辺でいいか」

 人があまり寄り付かない、魔物も少ないその広場で俺は二人と対面する。

「お前たちを鍛える」
「よろしくお願いいたします!」
「がんばるます!」

 シスは敬語、もうあきらめろよ。

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