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第一章
13
しおりを挟む「では始めるか」
何気ないその合図で、俺に疑問を持つ全員が身構える。
おい、数が多くないか?
五十人とか、そんな規模だぞ。
「お前に疑問をもつヤツがこんなにいるんだよ」
「ギルドの全体の一割ですね。とんでもない人数です」
あっけらかんと嫌われ者だと告げる残酷なギルマスと、平然と数字を述べるいつもの受付。
「ちったぁ俺の心配しろよ!?」
さすがにこの人数を魔法無しでさばくのはきついぞ!
いや、まさかと思うがそれが狙いか?
俺が魔法使いだと知らしめて、なんかこう、どうにかする?
「てあああああああ!!」
考えごとをしている暇がない!
まず最初に突撃してきたのは、七等級の少年冒険者四人組か。
中央の男は片手剣と小型の盾持ち。
左右のは、気にしなくていいか。
そもそもこいつらは分析するに値しないな。
一番目に来た戦士のアゴを蹴り上げ、右の男を蹴り飛ばし、その勢いで左の男を蹴り飛ばす。
呆然としている最後尾の男を、蹴り飛ばす。
「さぁ、次は? 六等級、お前か?」
「あ、ああ……あの、ギブアップとか」
「それはならんぞ! ギルドの方針だからな! 疑ったのであれば、身の潔白を証明してやるのも家族の努めだ! 具体的には、やられてこい!」
「ギルマス、そんなぁぁぁぁ!!」
もうすでに初手で俺に敵わないと悟った六等級以下の数十人が白旗を上げるが、ギルマスが許さない。
参加したのだから屍役になれと。
つまり、ボコられるのが、ギルド公認だと。
「たまにはヒゲハゲも役に立つじゃないか」
「それ、オレのことか!? ギルマスと文字数変わらんのに言い換える必要あったのか!?」
名前を知らんのだから分かりやすい特徴で表現するしかない。
別に悪意は、そこまで乗せてはいない、そこまでは。
「次、次だ。歯ごたえがない!」
千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す。
五十人いたとしても、全員が一度に襲ってくるでもない。魔物と違ってお行儀よく順番に来るから怖くなかったな。
結局残るは二組か。
これは困った。
「久しぶり、カイ」
「ああ、そうだな」
まさかの三等級のパーティが一つ残っているとはな。
それともう一つ。
「見かけたことは何度かあるよな。俺たちが分かるか?」
「知らん」
「なんだと!!」
「そっちの男は見たことある。昨日、警告をしてくれたヤツだ」
「あ、ああ」
こっちは昨日助けた四等級のパーティだ。
結構なケガをしていたはずなのに、昨日の今日で復帰とは恐れ入るな。
「なぁ三等級さんよ。俺たちから先でいいか?」
「何やら事情がある様子だから、どうぞ」
「ありがとうよ」
格下の四等級側がやや小生意気な感じで譲れと言い、三等級側は気にするでもなく応じる。
はー、やっぱ三等級ってのはこうだよな。ご立派ご立派。
で、こいつらは俺に何の用だ?
「なぁ、これに見覚えはないか?」
「あ?」
差し出されたのはポーション瓶。
俺特製のポーションを入れていたヤツだろう。
さて、ここは白を切るか。
なんて思っても、そうは問屋が卸さなかった。
この場合、企んでいたのはギルマスだが。
「カイ、これ、何だと思う?」
「ああ? なんだヒゲハゲ? って、げぇ! それはまさか!」
ギルマスが高々と掲げているもの、それは
「ウソ発見器! お前が嘘をつくと、真っ赤に燃える! すごく燃えるぞ! 修練場が火事で焼けてしまうほどだ!」
そのままお前だけ燃えてしまえ!
燃えあがるウソ発見器なんて持ち出してまで、この腐れギルマスは一体何を考えているのか。
仕方ない。
装置に引っかからないていどにはぐらかして答えるか。
「ポーションの瓶だろう?」
「ああ、そうだ。特殊なポーションの瓶だ」
特殊と言われてもな。
実はこのポーション、ギルドにも卸している。回復量が劣る割に値段が倍ほど高いが、それでも売れている。その利益はもちろん俺にも入ってくるから、ギルドも俺も大儲けだ。
「これを買えるのが五等級以上なのは知っているよな?」
「……瓶自体はありきたりの物だから、中身のないそれを聞かれても困るが?」
そしてこいつは何を言いたいのか分からない。
「俺たちは昨日、魔物をせん滅してくれて、貴重なこのポーションまで分けてくれた人物たちを探した」
そうかい。ご苦労なこった。俺なんざすっかり今の今まで忘れてたのによ。
「そして俺たちが知る五等級以上の連中に聞いたんだ。昨日、昼頃にダンジョンの中層にいたかと」
これは、なんとなく読めてきたぞ。
消去法ってヤツか。
知ってるヤツを手あたり次第当たって、それでも該当がなかったから、五等級以上らしい俺に目を付けたと。
「だから聞こう。これは、お前のか?」
しかしまぁ、前衛連中のなんと頭の悪いこと。
そんな聞き方じゃ、あの装置は反応しないな。
「知らんな」
チラリとギルマスを見る。
装置を抱えて震えているが、特に異常は見られない。
反応しないならしないで問題ない。したらしたで、あいつが燃える愉快なようすが見れたんだが、ちょっともったいなかったか?
「カイ! 頼むからわざとウソをつかないでくれ! オレが危ない!」
しらんがな。
「そ、そうか……」
状況証拠的には俺だろう。あの場にいて、唯一見かけたのが俺なんだし、実力的にも五等級以上なのは証明済みだ。
だが、甘い。
それを認めても俺には何の益にもならない。逆に不利益を被るだけだ。そこまでの想像力がない時点で、俺が気にかけるべき連中ではない。
「もういいか?」
「ああ、分かった。なら全力で叩き潰す!」
勢い込んできた四等級は、十把一絡げだった。
「弱い。あんなのが四等級かよ」
昨日はもっと歯ごたえのある連中だと思ったんだが、見当違いか?
もはや容姿を覚える気すら湧かない。
「彼らをせめないでよ、カイ。まだ傷が癒えていないのに、命の恩人に礼がしたいってずっと駆けまわっているんだ」
「そうか。ならその当人が名乗り出ないのだから、それが迷惑になっていると気付け、と伝えておけよ」
「それを自分の口から言ってあげればいいのに。あいかわらずツンデレだねぇ」
ツンデレちゃうわ!
ツングレだわ!
ツンツンしていて、しかもグレてんだよ、こっちは!
「それで、お前はなんでこんなとこにいるんだよ。こんなの三等級のパーティが出てくるような事態とは思えないんだが?」
「いやだな。そんなの……分かるでしょう?」
ゾクリとするほど鋭い視線を向けてくる細目の男、三等級パーティのリーダーは俺に殺気を放ってきた。
他の面々も武器を構えている。
このパーティは珍しく、魔法使いを組み込んでいる特殊なパーティだ。
魔法使いは、四六、つまりキャスと同じ才能の持ち主。
そう言う意味では、キャスの見本となる人物の手の内を見られる絶好の機会だ。
だが、この場で俺が本気を出すか?
バカを言え。
パーティ全体で保護されているあっちの魔法使いと違って、俺は一人だ。
キャスとシスは俺を守るどころか、飛び火で延焼する。
衆人環視の中で魔法なんざ使えない。
そうなると、もはや俺に勝ち目はない。
ならばそう、精々初手で強烈な一撃を見舞って、後は俺がやられるだけだ。
「茶番かよ! くそったれ!」
ここまでシナリオ通りだったのか。
やってくれたぜ、ギルマス!
俺は低い姿勢から走り出し、渾身の力を込めて模擬剣を振り抜く。
それを受け止めたリーダーは、勢いを殺しきれずに後方へと飛ぶ。
「あーれー」
そしてそのまま地べたに這いつくばった。
「は?」
しかし戸惑う暇もない。
左右から痛烈な殺気を浴びた俺はほぼ反射的に剣を振り抜く。
両方へ対処するため、先ほど振り抜いた姿勢を元に体に力をためて、一気に回転斬りを仕掛けた!
「おーやー」
「わあー」
なんて棒読み。
三等級のパーティたちが次々と倒れていく。
お前らに役者の才能はない。
「痛くしないでね?」
知るか!
最後の女魔法使いの腹に掌底を当てて昏倒させた。
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