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第一章
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しおりを挟む「不正疑惑というと、あの?」
「そう、その。不正をしてるんじゃないかって疑惑だ。かいつまむと、悪い事してるだろって疑われてる」
なんでだ!?
俺は一切不正などしていない! 公式データの改ざんなんて、そこまで落ちぶれていないぞ!
そんなことをしたら、俺を故郷から追い出したあの連中と同類になる! やるからには真正面から全力でぶっ潰すのが、今の俺の信条だ!
「分かってる。皆まで言うな。お前さんがそんな輩だとは、俺は思っちゃいない。なんだかんだ言って、お前さんはいつでも真っすぐだ」
その言葉に、なぜか姉妹が頷いている。
調子乗んなよ?
「俺を信じてるのに、なんで不正疑惑なんて言葉がお前の口から出てくるんだよ」
そして姉妹は俺の両腕を左右から拘束するな。抱き着いているようだが、連行されるさまにも見えるだろ!
ハ・ナ・セ!
「ああ、いけずです」
「ちょっとこの人、こわいから……」
キャスの反応は妙だが、シスはそうか、そういうこともあるか。このハゲは一般常識を持つシスにはこわいと見えるか。
だが、だからと言って主の腕を掴むな! 姉にでもしがみついとけ!
「はっはっは! ずいぶんと慕われてるな」
「笑いごとじゃないぞ」
姉妹のことも、俺の不正疑惑のことも、全然笑えない。
一体全体、何がどうなっている?
「簡単だ。お前さんの等級がばれた」
「はぁ!?」
ギルドでの立場を表す等級は、基本的に公開だ。メリットは、パーティや連合を組みやすい。一人より二人、二人より沢山の精神で、みんなでそろってダンジョンを攻略するって考えだ。それに、指名依頼も受けやすいから収入が安定する。だからギルドも基本は公開を推奨している。
だが、俺の場合は非公開にしてある。当然だ。デカデカと魔法使いと書いてあるのだから。天狐姉妹にも隠すように伝えてある。
それなのに、なぜ?
「いやいや、お前の成果がすごすぎて、本部の査問会から実力を見てくれと言われたんだよ」
「……それがどうして俺の等級バレにつながる?」
「一つはお前さんの才能。もう一つは……」
才能。つまり魔法使いだからこんなに強くないだろ、と思われてるのか。
それは、ありそうだな。
面倒だが一般的な考え方だ。融通が利くギルドであってもその点はそうも違わないらしい。
ギルマスが俺の耳元でささやく。どうやら周りには聞かれたくない話らしい。
こっそりサイレントフィールドの魔法で周囲にもれないようにしておく。
「もう一つはな、お前さんが実はもうちょっと上の実力者なんじゃないかって疑惑だ」
「そうか」
三等級でもこの都市なら数名しかいない英雄的ポジションなのに、領地や小国レベルの大英雄である二等級である可能性か。
それは……
「は? お前、ボケたのか?」
「ボケてないぞ!? お前に対する正当な評価と、正しい結果を本部に報告しているだけだ!」
それが、本部が魔法使いの俺を二等級だと判断した理由?
「笑えない冗談はよせ」
「笑える真実なんだよなぁ、これが」
笑えねぇよ。
「だが安心しろ。お前さんの等級が高いってところしか、ここのみんなは知らんし、どう問題があるかもみんな知らん。しかし本部には、俺の権限で三等級にしてたのがバレたんだ。内緒にしてたのはお前さんの希望だったし、何よりうちの虎の子だからな」
「そうかよ。意味が分からんが、どうでもいい。俺はこのままギルドを、この街を去ればいいのか?」
「ば、バカを言うな! そんなことしたら俺が殺されるわ!!」
元二等級が殺されるわけないだろ、ばーか。
いや、なんだよ。なんでそんな今まで見たことのない泣きそうなツラしてるんだよ。
マジなの? マジなのか? 殺されるって、マジか!?
「散々痛めつけられ、辱めを受けた挙句に殺される。カミさんに」
お前の奥さんにかよ!!
毒殺か? 料理に毒でも混ぜるのか?
いや、こいつ、体が頑丈だし毒なんて効かんだろ。
「いっとくが、カミさんも俺と同じ元二等級だぞ。実力だけなら向こうの方が上だ」
「マジかよ。世界ってのは広いようで狭いんだな」
「等級違いで結婚するほうがマレなんだよ、この冒険者って世界は」
そうなのか。
そしてショックを受けたような姉妹の顔がなんかちょっと引っかかる。
「なんて顔してるんだ、お前ら」
「あ、いえ、その……」
「が、がんばる! がんばるから!」
いや、だからな?
何をそんな必死になってるんだよ。
「モテる男はつらいねぇ。ま、そんなわけだ」
「何がそんなわけだよ。肩をつかむな」
「いや、こうしてないとお前、逃げるだろ?」
「逃げるかよ。ここには世話になってるし、そこまで不義理じゃないぞ」
故郷を追われ、森林をさまよい、辿り着いたこの地は、俺にとってはもはや故郷も同然だ。
捨てるとなればためらわないが、捨てなくてもいいのであれば、可能な限りは大事にしたいと思ってるくらいだ。
気持ち的には俺の肉体的才能程度だがな、はっはっは。
「ならよかった。おい、お前ら!」
「はい、ギルドマスター!」
「こいつの等級に疑問があるヤツ、全員集めろ!」
「はい!」
はぁ?
ギルドに併設されている酒場でたむろってた連中に、何言ってんだ?
そもそも俺の等級、公開してないんだろ? 公開されてない等級の何に疑問を持つってんだよ。
「あいつ、いつも個室で清算してるから五等級以上なんだよな?」
「おかしいだろ、たった一人でそこまでやれるなんてよ」
「いつも手ぶらで帰ってくるし、貴重品に限定してたって言ってもおかしい」
……そうか、そういう疑惑か。
俺は魔法使いだから亜空間が使えるが、戦士のこいつらは使えない。
ダンジョンで長期の滞在になれば、荷物持ち/ポーターの魔法使いを雇うくらいだ。魔法使いと言っても、才能は五五で肉体も鍛えている連中だが。
俺は全部の報酬を一人占めできる。連中は四人から十人と、それだけの人数で分ける。
こいつらと比べて最低でも二倍、多ければ十倍以上の成果を出せている。
しかし俺は、そのカラクリである俺の素性、魔法使いであるとは公表していない。
「これは確かにうさんくさいな」
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