騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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 冒険者の一式は、冒険者御用達の店ですぐに集まった。
 簡素な皮の胸鎧と手甲、スネ当てと靴のセットだ。何の皮かは知らんが新品があったのでそれを購入。サイズは紐で調整できるから問題なかった。
 丈夫な服も購入。これは中古だ。二人の私服も購入し持たせておく。
 俺のお古は、返ってこなかった。

「では行くぞ」

 ダンジョンの入口で受付を済ます。ギルドカードを銀の板に当てるだけの簡単な作業だ。
 姉妹も俺を真似て同じことをする。

「ご武運を」

 いつもの門番が俺を、いや、俺たちを見送る。
 日によって人が変わってるかもしれないが、興味がなさすぎて覚えていない。


 ダンジョンを奥へと進んでいく。
 まずは様子見の上層からだ。

「上層は大きく分けて四つ。虫ゾーン、ゴブリンゾーン、草ゾーン、湿地ゾーンだ」
「はい」
「う、うう……」

 俺の講義を聞かないとはなにごとだ、シス!

「おトイレ行きたいです……もっちゃいそう、お腹痛い」

 ……俺は頭が痛いわ。

「では、しょうがない。まず冒険者が真っ先に覚えるべき二つのうち一つ、排便についてだ」
「小さい方! 小さい方だから!」
「じゃかましいわ! 関係あるか! それと真面目な話で命にかかわるから、黙ってきけ!」
「ふぁい……」

 ダンジョン内での出したものの処理は、何もしなくてもいい。ダンジョンが勝手に掃除をする。最悪、道のど真ん中でしても問題はない。
 だから気を付けるべきは、そのタイミング。

「男女問わず、冒険者装束はマタが開いている。ファールカップを外せば、あとはズボンのケツ側にあるひもを引っ張れば、まる出しだ」

 冒険者はパンツをはかない。
 それは緊急時に用を足せないからだ。騎士も似たような理由で、紐パン。早飯早ぐそも芸の内は、冒険者と騎士共通の教訓でもある。
 そしてズボンは、こかんの所だけふんどしのように、布をグルっと回して、後ろ側で止めているスタイルだ。冒険者装束は後ろから見ると、微妙に生ケツが見える。エロスは全く感じないがな。

「それはいい。それで、用を足すときだが、必ず前を向け」
「それって……」

 そう、それはつまり、壁ではなく、人の方を向けということ。

「魔物が待ってくれるはずないだろ! 常に警戒し、最善をつくせ!」
「はい! 分かった!」

 俺に人の排泄をのぞく趣味はないからな。だからシスはそんなうれしそうな顔で俺の方を向くな!


「はぁ、すっきりです」

 それはなによりだな。だが、待て。

「はい? ま、まさかこんなところで!? キャー! やだー」

 うれしそうな声を出すな!

「用を足したら、局部は水で洗え。そうしなければ病気になる危険がある」
「そ、そうなんですか!?」
「渡しておいた専用の布をぬらし、それでふいてせいけつに保つ。そうしないものは遠からず、病気になる。最後には手も洗え」

 その病気の名は、インキンタムシ。簡単に言うと、こかんの水虫だ。すごくかゆくなる。
 ダンジョンという閉鎖空間で走り回り、飛び回るのだ。不潔にしていたら当然なる。下着を着用していないのもよくない。アカなどの汚れがヒフに付着したままで、あまりきれいではない。
 いずれは俺もこいつらも紐パンを用意するつもりだ。並の冒険者たちと違い、このパーティは三人とも亜空間を持っている。本来ならかさばる衣服も持ち放題だ。慣習にならい下着をつけないなんて愚策は選ばない。
 今は単に、売っている店が大店すぎて近寄っていないだけだ。騎士御用達となれば、それは貴族御用達とイコールだからな。

「帰ってからも言うが、靴の手入れは万全にしろ。キャンプを張る場合も、靴を脱いで中をきれいにする。専用のアルコールがあるから、布で丁寧に中をふくんだ」
「い、意外と冒険者という職業はマメなのですね」
「体が資本だ。それを壊さぬようにするのが冒険者としてもっとも考えるべきところだ」
「はい、分かりました! そして終わりました! 手もきちんと洗いました!」

 身だしなみを整えたシスが俺に近寄ってくる。
 俺たちのパーティは水の心配もしなくていいからな。
 他のパーティだと、水属性を扱える戦士を一名入れてやりくりする。昨日俺に走り寄ってきたあいつも水属性持ちだったのだろう。水属性持ちはその事情によりほかよりも魔力の消費が多い。だからああいう時は戦力になりにくい。

 水にはスタミナ向上なんて効能もあるからな。雑用係にするにはうってつけだ。

「……思い出した。風の属性について教えていないな」
「そもそも、私たちはどうやって戦うのでしょうか?」
「剣なら習ってたよね。でも、通用するかな?」

 剣士に見せかけるために、三人とも腰には剣をたずさえている。俺は長めのソード、二人は短めのソードだ。どれも直刃で扱いやすく、切っ先だけ鋭利にみがかれていて突きの威力もなかなか強い。
 そして前衛としての素質だが、キャスはともかくシスには荷が重いかもしれないな。
 これは先に魔法について教えておくべきだっただろうか。
 いや、面倒だな。

「実戦で練習だ」
「は、はひ……」
「分かりました!」

 そうなると、進む先は相手として分かりやすいゴブリンだ。
 少数の群れで行動するあいつらは、単体がとても弱い。しかも短気だから扱いやすい。
 ただしドロップはほとんど金にならない。

「練習相手はゴブリンだ。とにかく戦ってみろ」

 俺もそうだが、大半の者はまず前衛であることを前提に、幼少のころから訓練をかさねる。
 だからこいつらも戦えないはずはない。
 それに……。

「あの先にいやがるな。獲物だ!」

 おっと、ついいつもの調子が出てしまった。
 こう、血が騒ぐというか、そんな感情だ。
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