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第一章
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「ゴブリンの数は三、俺が一匹を始末する。残りはおまえたちでやれ」
こんな雑魚はすぐにけちらし、次に行く。頭に予定を描き、ターゲットを次々と捕捉していく。魔法は便利だ。見えないこの先でも魔物を探知し、その動向を教えてくれる。
「出てきました!」
曲がり角の手前で待ち構えていると、ブラブラと歩いてきたゴブリンたちが姿を現す。
こちらにはまだ気づいていないようだが。
「ほらよ」
近寄り頭をけり飛ばす。けっている理由は、武器の温存と、手を開けるため。足はヘタをするとバランスを崩して危ないが、使えるならこうやって両手をフリーにできる。
冒険者に足グセが悪い者が多いのはこういう事情だ。だからキャスは俺をそんな目で見るな!
「修練場でも思いましたが、ご主人様は手よりも足が出る方なのですね」
「合理的だろう!?」
そしてなぜ焦る、俺!
そんな指摘されて動揺するな!
「えい!」
俺がキャスから冷たい視線を受けていたその時、シスが動いた。
ぎこちない動きからの、固い一閃。剣がゴブリンのもっとも硬い頭部を直撃し、跳ね返される。
「あ、あれぇ!?」
「ゴブリンは頭が一番硬いんだ! 他を狙え!」
「ほ、他ー!?」
頭でっかちの三頭身じみたゴブリンの頭以外は、確かに狙いにくい。上から振り下ろせばその頑強な頭部に当たってしまう。だから俺は頭をすくい上げるようにけり飛ばしたのだが、あまりにもあっさりしすぎていて悪い見本となったみたいだな。
「システィ! 下がりなさい! はぁぁぁぁ!」
シスと違い、低い姿勢で走り出したキャス。
まるで忍者だな。女だからクノイチか?
そして俺のその感想そのままに、キャスは逆手に持ったソードをゴブリンの首めがけて一閃した。
ゴブリンの頭と胴は、それでお別れだ。
「あ、うん! 分かったよ、お姉さま!」
シスも真似る。キャスよりは完成度が低いものの、同じような所作で首を刈り取る。
なかなかやるじゃないか。
なんだ? キャス?
「あの、今までよりも体が軽かったのですが、支援魔法をかけていただけていたのでしょうか?」
「あ、それね! わたしもそう思った!」
かけていないと言えば、かけていない。かけたと言えば、かけたな。
「それは腰の『サモンボール』の影響だ。今二人は無意識に風属性と闇属性をまとっていた。それをわずかに強化したからだな」
と、調子のいいことを言っているが、俺とてこれを実験したことなどない。
理屈的にこうなんじゃないかと思って、こいつらに『サモンボール』を押し付けているだけだ。
俺の理論は正しかったと、ここで証明されたわけだ。
そんな裏事情は伝えんがな。
「わぁ、そうだったのですか! これは、本当に生まれ変わったかのようです」
「そうだね、お姉さま! 私なんてほら、ジャンプしたらダンジョンの天井に手が付くよ!」
はぁ!?
ダンジョンの天井って、三メートルくらいあるぞ!?
いくら俺製の『サモンボール』でも、そこまでの効果はない。常人が作ったもので一パーセントの向上を、俺なら二パーセントにできる。そんな誤差レベルの補正だ。
それが、何だ?
キャスも天井に手が届いている、だと?
「魔法も武術も使わずにこんなことが出来るなんて! すごい! 旦那様、とってもすごいよ!」
「ええ、まさかこのような素晴らしい技術をお持ちとは、ますますホれてしまいます」
ホれんでいい。
しかしなぜ、このようなことに?
俺が自分に使っても、ここまでにはならない……。
……。
「とう!!」
飛んでみた。
なんだか悔しくて、飛んでみた。
いつもなら魔法で体を強化するが、それはナシで。
「あ、届いた」
まさか『サモンボール』の支援すらなしで届くとは。
何が原因だ?
「分からん。ほっとこう」
面倒になった。
「次行くぞ」
「は、はい!」
「分かったー!」
その後俺たちは深く考えるのをやめ、黙々とゴブリンを狩り続けた。
結果としては、稼いだ金額はゴブリンとしては多く、六等級として当たり前程度の稼ぎとなった。実績は、やや上。
天狐姉妹は期待のルーキーとして、ギルド職員内では名が上がりつつあった。
その日の夜。
俺はけん命に、神と出会ったときに取っていた自分の能力を思い出していた。
「アレは違う。コレもたぶん、違う」
自我を取り戻してから、思い出してできる限り書きとめておいた俺のスキルリスト。それとにらめっこしつつ、今日どうしてあのような事態となったのか調べた。
そして……。
「絶倫、お前だったのか」
仲間が増えるほど、自身の能力が向上する。
正体も分かったので、軽く検証してみた。
以前と比べ、どう能力が変化しているのか……。
神もいいスキルだと言っていたが、確かにこれはチート級だ。
「レベル上限突破と同じ、底上げ系か。しかも割合強化の分も絶対値で底上げ」
身体能力については、俺の元の能力が低いから影響が大きかった。
そして、姉妹への影響だが……。
「俺の『サモンボール』の影響が、二パーセントから四パーセントに上がっている」
常人のものが一パーセントなのだから、四倍。しかも俺の使用しているのは『デュアルボール』。闇属性もどうように上がっているなら、上がり値は合算して八パーセントだろうか。
「八パーセントも全体の能力が上がったら、確かに別物だな。あとは属性相性で二倍の二倍、三十二パーセントか?」
属性相性の経験値を増やすだけの世間的にはゴミ魔法だった『サモンボール』が一気に化けた。
『絶倫』、恐ろしいスキルだ。
これはぜひとも、有効活用しないといけねぇなぁ!
こんな雑魚はすぐにけちらし、次に行く。頭に予定を描き、ターゲットを次々と捕捉していく。魔法は便利だ。見えないこの先でも魔物を探知し、その動向を教えてくれる。
「出てきました!」
曲がり角の手前で待ち構えていると、ブラブラと歩いてきたゴブリンたちが姿を現す。
こちらにはまだ気づいていないようだが。
「ほらよ」
近寄り頭をけり飛ばす。けっている理由は、武器の温存と、手を開けるため。足はヘタをするとバランスを崩して危ないが、使えるならこうやって両手をフリーにできる。
冒険者に足グセが悪い者が多いのはこういう事情だ。だからキャスは俺をそんな目で見るな!
「修練場でも思いましたが、ご主人様は手よりも足が出る方なのですね」
「合理的だろう!?」
そしてなぜ焦る、俺!
そんな指摘されて動揺するな!
「えい!」
俺がキャスから冷たい視線を受けていたその時、シスが動いた。
ぎこちない動きからの、固い一閃。剣がゴブリンのもっとも硬い頭部を直撃し、跳ね返される。
「あ、あれぇ!?」
「ゴブリンは頭が一番硬いんだ! 他を狙え!」
「ほ、他ー!?」
頭でっかちの三頭身じみたゴブリンの頭以外は、確かに狙いにくい。上から振り下ろせばその頑強な頭部に当たってしまう。だから俺は頭をすくい上げるようにけり飛ばしたのだが、あまりにもあっさりしすぎていて悪い見本となったみたいだな。
「システィ! 下がりなさい! はぁぁぁぁ!」
シスと違い、低い姿勢で走り出したキャス。
まるで忍者だな。女だからクノイチか?
そして俺のその感想そのままに、キャスは逆手に持ったソードをゴブリンの首めがけて一閃した。
ゴブリンの頭と胴は、それでお別れだ。
「あ、うん! 分かったよ、お姉さま!」
シスも真似る。キャスよりは完成度が低いものの、同じような所作で首を刈り取る。
なかなかやるじゃないか。
なんだ? キャス?
「あの、今までよりも体が軽かったのですが、支援魔法をかけていただけていたのでしょうか?」
「あ、それね! わたしもそう思った!」
かけていないと言えば、かけていない。かけたと言えば、かけたな。
「それは腰の『サモンボール』の影響だ。今二人は無意識に風属性と闇属性をまとっていた。それをわずかに強化したからだな」
と、調子のいいことを言っているが、俺とてこれを実験したことなどない。
理屈的にこうなんじゃないかと思って、こいつらに『サモンボール』を押し付けているだけだ。
俺の理論は正しかったと、ここで証明されたわけだ。
そんな裏事情は伝えんがな。
「わぁ、そうだったのですか! これは、本当に生まれ変わったかのようです」
「そうだね、お姉さま! 私なんてほら、ジャンプしたらダンジョンの天井に手が付くよ!」
はぁ!?
ダンジョンの天井って、三メートルくらいあるぞ!?
いくら俺製の『サモンボール』でも、そこまでの効果はない。常人が作ったもので一パーセントの向上を、俺なら二パーセントにできる。そんな誤差レベルの補正だ。
それが、何だ?
キャスも天井に手が届いている、だと?
「魔法も武術も使わずにこんなことが出来るなんて! すごい! 旦那様、とってもすごいよ!」
「ええ、まさかこのような素晴らしい技術をお持ちとは、ますますホれてしまいます」
ホれんでいい。
しかしなぜ、このようなことに?
俺が自分に使っても、ここまでにはならない……。
……。
「とう!!」
飛んでみた。
なんだか悔しくて、飛んでみた。
いつもなら魔法で体を強化するが、それはナシで。
「あ、届いた」
まさか『サモンボール』の支援すらなしで届くとは。
何が原因だ?
「分からん。ほっとこう」
面倒になった。
「次行くぞ」
「は、はい!」
「分かったー!」
その後俺たちは深く考えるのをやめ、黙々とゴブリンを狩り続けた。
結果としては、稼いだ金額はゴブリンとしては多く、六等級として当たり前程度の稼ぎとなった。実績は、やや上。
天狐姉妹は期待のルーキーとして、ギルド職員内では名が上がりつつあった。
その日の夜。
俺はけん命に、神と出会ったときに取っていた自分の能力を思い出していた。
「アレは違う。コレもたぶん、違う」
自我を取り戻してから、思い出してできる限り書きとめておいた俺のスキルリスト。それとにらめっこしつつ、今日どうしてあのような事態となったのか調べた。
そして……。
「絶倫、お前だったのか」
仲間が増えるほど、自身の能力が向上する。
正体も分かったので、軽く検証してみた。
以前と比べ、どう能力が変化しているのか……。
神もいいスキルだと言っていたが、確かにこれはチート級だ。
「レベル上限突破と同じ、底上げ系か。しかも割合強化の分も絶対値で底上げ」
身体能力については、俺の元の能力が低いから影響が大きかった。
そして、姉妹への影響だが……。
「俺の『サモンボール』の影響が、二パーセントから四パーセントに上がっている」
常人のものが一パーセントなのだから、四倍。しかも俺の使用しているのは『デュアルボール』。闇属性もどうように上がっているなら、上がり値は合算して八パーセントだろうか。
「八パーセントも全体の能力が上がったら、確かに別物だな。あとは属性相性で二倍の二倍、三十二パーセントか?」
属性相性の経験値を増やすだけの世間的にはゴミ魔法だった『サモンボール』が一気に化けた。
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