騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

18

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 翌日。
 早朝に俺は買い出しをするために、朝市へ来ていた。
 目的のブツをそろえ、そろそろ帰ろうかと言う時、俺は出会った。

「あらあなた?」
「あん? なんだ?」

 フードを目深にかぶったその女は、いきなり声をかけてきた。
 その怪しげな女は、俺を見て興味深そうにうなづいている。
 キミが悪ぃ。
 なにもしていないのに俺の右腕が粟立ってやがる。

 こいつ、強い!

「面白いわね、あなた。気に入ったわ。これあげる」

 その女は、そう言い残して立ち去った。
 俺の手に、飴を残して。


「関西のおばちゃんか!!」
「え? えっ?」
「何なにー?」

 飴って、あいつ、何なんだ!?
 毒じゃないのか、これ!?
 しかも捨てたら捨てたで呪われそうだ!

「くっ、考えても分からんから、無視するか」

 俺は飴を亜空間にポイっと放り込んだ。

「ご主人様、今日のご予定は?」
「あー、今日は飯食ったら魔法の軽い講義。それからギルドに行く」
「かしこまりー!」

 朝食は姉妹が用意したものだ。
 パンにベーコンを焼いたものをはさんだもの。それと野菜炒めに、オレンジジュース。
 一般的な、バランスの取れたメニューに感心する。
 お嬢様だったはずなのに、ずいぶんとやるようになったものだ。


「って、なんだこのベーコン! 甘ぇ!!」
「もっ、申し訳ござもごごごご!?」
「お前な! なんでベーコンが甘くなるんだよ! 責任持って食え! 食べ物を粗末にするなんざ許さねぇ!」
「もごごー!!」

 パンは、塩漬けしたみたいに塩辛い。
 野菜炒めは無味。
 オレンジジュースは、生温かかった。

「次、次こそはきちんとします! だから、何とぞチャンスを下さい!!」

 もう、好きにしやがれ。

「おかわりー!」

 天狐族には、変り者しかいないのか?



「魔法ってのはイメージだ。できると思えば才能の限界までなら、なんだってできる」

 この世界の魔法に特別なルールはない。
 あるのは想像力で効果を固定するのと、それをどこまで再現できるかってところだけだ。
 想像が強固であるほどイメージに近く、才能があるほど再現度が高くなる。

「頭が悪けりゃ魔法ってのは役に立たない。才能がなけりゃ頭がよくてもよえぇ」

 これも魔法使いが不遇な理由でもあるんだが、知ったこっとではない。
 どうせ大昔の騎士連中が魔法使いこわさに規制でもかけたんだろう。子供のころから魔法を使わせんな、教育すんな、と。貴族だけでなく庶民にもその意識を植え付けてんだからすごいものだ。

 実に、くだらない。

「想像力。そうぞうりょく……」

 頭の固そうなキャスは苦戦している。

「つまり、こう? やー!」

 じゅうなんなシスは早くも魔法の真理に片足を突っこんだようだ。手からそよ風を発生させていた。
 そんなシスの頭に、俺はげんこつを落とす。

「部屋ん中でホコリ立つような真似すんな!」
「あい、ごめんなざい……」

 素直で、お調子者。こういうやつがきっと天才ってヤツだろう。キャスはどっちかと言えば秀才だ。発想よりも学習で、それ以上に現場で力を発揮するタイプと見た。
 俺がきっかけを与えれば、こいつならすぐにでも魔法をモノにするだろう。

 が。

 めんどくせぇ!

「講義は以上だ。ほら、いくぞ」
「はい……」
「あとは実戦だね!」

 そのとおりだ。だいぶ分かってきたようだな。

「魔法も体術も、ぜんぶ生きるために覚えるもんだ。実戦で使えなきゃ意味がない! 頭を使ったのなら、あとは体に覚えさせろ!」
「はい!」
「かしこまりー!」



 ギルドの社屋が騒がしい。
 大通りに面したその巨大建造物が、得も言えぬケハイを漂わせている。

「さて……、帰るか」

 イヤな予感がしすぎていて、思わず俺は回れ右をした。
 そんな俺の肩に誰かの手がふれる。
 姉妹は俺の後ろにいた。つまり今は前だ。
 そうなると俺の後ろにいるのは、それ以外の人物。気配察知や魔力感知をもつ俺の背後をとれる人物など、そう多くはない。

「待ってたよ、カイ」
「俺は待っていない」
「待ってたよ、カイ」
「待たせていない。帰る!」
「待ってたよ、カイ」
「は、な、せ!!」
「待ってたよ、カイ」

 無限ループ、こわい!

「何のつもりだサブマス!」

 振り向き裏拳をみまうが、あっさり回避される。さすが三等級の前衛、腹が立つほどカレイな身のこなしだ。
 細目の優男、三等級パーティのリーダーこと、名前忘れた、は飛びきりの笑顔で俺を迎えていた。

「そのうさん臭い顔を見ていたら腹が痛くなってきた。だから帰る」
「この顔は生まれつきだから勘弁してよ」
「そのうさん臭いしゃべりと、うさん臭い性格にけんお感が止まらないから帰るわ」
「それ、酷いはなしだね。ひどくて傷ついたから、ちょっとだけ話につきあってよ。ちょっとだけ、先っぽだけだからさ」

 なんだそりゃ!?

「お前、そんなしゅみが……」
「いざとなったらそれを差し出すだけの覚悟がある」

 覚悟がある、なんてキリリとした表情でケツをこっちに向けてくる。

 そんなものはいらん!!

「話を聞いてもらうためにも、無理にでも受け取ってもらうよ!」
「いるかボケェ! むしろそんなならよけいに話を聞きたくないわ!」

 そして姉妹!
 そんなご奉仕のしかたも! なんて顔をするな! 俺にそんなシュミはねぇ!

 あまりの事態に脳みそがフットウしそうだ。

「なら逆に、そうしないから話を聞いてほしい。聞くだけでも」

 そんなイヤすぎる脅し文句、初めて聞いた。

 そして聞いたら後には引けなくなる、だろ?
 ふざけるな。

「ギルマスがダンジョンで負傷した」

 こちらには聞く気がないから勝手に話し出すな。

「もうこの情報はギルド全体に行き渡っている。原因は、分かるよね?」
「歳か?」
「違うと思うなぁ。それ、本人には言わないであげてね?」

 知るかよ。
 しかしそうか、あいつがケガをしたのか。
 元二等級冒険者で、現役の二等級と互角にやり合うあのヒゲハゲが?

「どうせケガも大したことないんだろ?」
「右腕を持っていかれた」

 そう言って三等級パーティのリーダーは右の二の腕辺りに左手で手刀を入れる。そこから切断されたってジェスチャーだ。

「マジかよ」
「マジだ。さいわいにも命に別状はないけど、冒険者として復帰は絶望的だね。元々引退していた身ではあるんだけど、それでもこの街の最大戦力の一つが失われたのは事実だよ」

 ……、おおげさな。

「おい、いくぞ」
「は、はい!」
「かしこまり?」

 知ったことか。

 この街に流れ着き、無一文で倒れていた俺を介抱したのがアイツだったとしても。
 身元保証人がいなければ街にすら入れなくて、その保証人にアイツがなって冒険者にもなれたのだとしても。

「俺にはなんも関係がない」
「その割にギルドの中に来てくれるんだね」

 ケッ。

「話、聞かせろ。あとヒゲハゲに会わせろ」

 右腕がぶっ千切れて戦えない?
 は?
 俺には何にも関係ねえよ!!

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