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第一章
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「お前と、お前が、親子?」
「ええ、残念ながら、ボクも将来はハゲるのですね」
「そうか、それは……」
悪いことを言ったな。
口には出さない。だが確実に伝わってしまった。
「そう思うのであれば、解決に協力してください。あと、血はつながっていますが、母さんが出産育児で大変なときに他国で冒険し浮気しまくった男を父とは思っていません」
「それはまた酷いはなしだな。人間の、親のクズだ」
「そんなことしてないって言ってるだろう!? 誤解だ!」
どうでいいわ!
「勝手にやってろ。めんどくせぇ」
「ええ、面倒です。だから早く片付けましょう。ではギルマス、説明をお願いします」
どうやら無駄な抵抗をするよりも、その方がよさそうだ。
「まずイビルマーダーブッシュだが、闇属性だ」
「闇……ここいらでは珍しい属性ですね。少なくともボクは知りません」
「フロアマスターで主属性が闇は、この国ではおそらく初だ。ダンジョンマスターであればいるが、中ボスごときが闇属性は過去に例がない」
闇の厄介なところは、サブマスが言っていたように、その隠密性の高さにある。
しかし強力なだけに、その操作はかなり難易度が高い。
光も闇も、基本のクセに特殊な属性だ。
「今分かっていることは、そいつの腕を奪うほどの存在が、地雷のように上層や中層のどこかに埋まっている、か」
「ああ、そのとおりだ。他に気付いたことはないか?」
「闇属性を使うから察知ができないのに、攻撃力もピカイチともなれば、六等級以下どころか三等級のパーティでさえ全滅は確実だな。つまりこのギルドのメンツだけでは解決がほぼ不可能。なるほど、お前たちが手詰まりだというわけだ」
「どうにか、ならないのか?」
なるに決まっている。
「相手は魔法で身を隠してる。だから魔力はダダ洩れだ。腕のいい魔法使い、そうだな、お前のとこのあの女魔法使いなら魔力感知で遠くから見分けられる。そこのクズヒゲハゲがいう通りなら、モロいから遠距離魔法で簡単に倒せる。魔法使いにとってはカモだな」
俺も森をさまよい歩いていたころ、似たような魔物におそわれた。
イビルエント、イビルガゼル、イビルホーネット。
どれもこれも、気配がなく、見えもしなかった。
「イビルエントは魔力感知、イビルガゼルとイビルホーネットは音がダダもれだった。あんなもん慣れりゃカモだ」
だから俺はそれを問題視しない。
「簡単にいうわりには、顔色がすぐれないようだが、他に不安でもあるのか?」
「不安ではなく、確信だ。フロアマスターなんざ目じゃない厄介な事態だぞ」
イビル系の魔物が出てきたのはそこまでおどろかない。ダンジョンは魔物を生み出す宝庫だ。得手不得手はあっても、生み出せないなんてことはない。
ただしダンジョンもフロアごとにキャパがある。効率を上げるために自分の得意な属性ばかりを生み出す。
「下層はアンデッドが多数生息する闇属性のフロアだ」
「それが、上層にまで闇属性を生み出した? それは、まさか!」
「ああ、今後、闇属性の魔物が増える。お前らでは感知できない魔物がな」
「それはとんでもなく厄介だね。知識があってもみながみな、対応できはしないだろう。そもそもこの街で魔法使いをパーティに入れているのはボクらだけだ。今から育成したって間に合わない」
それもそうだが、そうじゃない。
俺が危惧しているのは、そんな表面のところじゃない。
「違う。お前らは見当違いをしている」
「何?」
「まだあるのかい? 詳しくお願いします」
めんどくせぇ。
だが、放っておくと、もっとめんどうくせぇ。
「めんどうだから、もう全部まかせろ」
つい、そんなことを宣言してしまった。
―― 一時間後。
「ご主人様、用意が整いました」
「ああ……。本当についてくるのか?」
「足手まといでも、おそばにいたいのです」
「がんばる! がんばるから!」
がんばるって。
そんな次元の話ではない。
「俺はこれから下層に向かうんだぞ? 分かっているのか?」
分かってはいないのだろう。だが、そうと問わずにはいられなかった。
その俺に対する返答は、予想外の長文だった。
「下層。ダンジョンの深部であり、高レベルの魔物があふれる地です」
「その魔物は、マミー、ゴースト、レッサースケルトンと、不死系が多く、物理攻撃の効きがうっすい」
「上層、中層の属性傾向から一転してのその様子に、下層の攻略者は未だに現れていない魔境です」
「それに何より! お金にならない! ポワっと消えてドロップも残さない、出ても腐った肉や不浄な包帯とかだから、不人気!」
「ダンジョン最奥の間にはダンジョンコアが安置されており、そこを守護するダンジョンマスターは誰も見たことがありません」
「大昔にえらい神官様たちが攻略にいったけど、一団の誰も帰ってこなくて危険地域指定。そのまま封鎖された場所、それが下層!」
……。
「よく、調べてるじゃねぇか……」
俺よりくわしいじゃねぇかよ。
さっき少しの空き時間に資料を読ませてもらっただけなのに、もうそこまで頭に叩きこんだのか。
「今回は調査だが、危険は今までの比じゃねえんだ。だから留守番していろと」
「ご主人様のおそばが、私の帰る場所です。その場所にいるのですから留守番と変わりありません」
そんなわきゃないだろ!?
「天狐族って、退魔も得意なんです! だから大丈夫! わたしもゴーストならやっつけたことあるし!」
「聞いてないんだが?」
「まさかこんなに早く出番があるなんて思ってなかったので! てへへー」
開き直りか!
それにしても謎が多すぎるな、天狐族。
一族の大半が風と闇の属性持ち。
戦士ばかり。
山岳地帯や森林に住み、退魔が得意。
商人は前衛カテゴリー。
NINJAのたぐいなのだろうか?
「ええ、残念ながら、ボクも将来はハゲるのですね」
「そうか、それは……」
悪いことを言ったな。
口には出さない。だが確実に伝わってしまった。
「そう思うのであれば、解決に協力してください。あと、血はつながっていますが、母さんが出産育児で大変なときに他国で冒険し浮気しまくった男を父とは思っていません」
「それはまた酷いはなしだな。人間の、親のクズだ」
「そんなことしてないって言ってるだろう!? 誤解だ!」
どうでいいわ!
「勝手にやってろ。めんどくせぇ」
「ええ、面倒です。だから早く片付けましょう。ではギルマス、説明をお願いします」
どうやら無駄な抵抗をするよりも、その方がよさそうだ。
「まずイビルマーダーブッシュだが、闇属性だ」
「闇……ここいらでは珍しい属性ですね。少なくともボクは知りません」
「フロアマスターで主属性が闇は、この国ではおそらく初だ。ダンジョンマスターであればいるが、中ボスごときが闇属性は過去に例がない」
闇の厄介なところは、サブマスが言っていたように、その隠密性の高さにある。
しかし強力なだけに、その操作はかなり難易度が高い。
光も闇も、基本のクセに特殊な属性だ。
「今分かっていることは、そいつの腕を奪うほどの存在が、地雷のように上層や中層のどこかに埋まっている、か」
「ああ、そのとおりだ。他に気付いたことはないか?」
「闇属性を使うから察知ができないのに、攻撃力もピカイチともなれば、六等級以下どころか三等級のパーティでさえ全滅は確実だな。つまりこのギルドのメンツだけでは解決がほぼ不可能。なるほど、お前たちが手詰まりだというわけだ」
「どうにか、ならないのか?」
なるに決まっている。
「相手は魔法で身を隠してる。だから魔力はダダ洩れだ。腕のいい魔法使い、そうだな、お前のとこのあの女魔法使いなら魔力感知で遠くから見分けられる。そこのクズヒゲハゲがいう通りなら、モロいから遠距離魔法で簡単に倒せる。魔法使いにとってはカモだな」
俺も森をさまよい歩いていたころ、似たような魔物におそわれた。
イビルエント、イビルガゼル、イビルホーネット。
どれもこれも、気配がなく、見えもしなかった。
「イビルエントは魔力感知、イビルガゼルとイビルホーネットは音がダダもれだった。あんなもん慣れりゃカモだ」
だから俺はそれを問題視しない。
「簡単にいうわりには、顔色がすぐれないようだが、他に不安でもあるのか?」
「不安ではなく、確信だ。フロアマスターなんざ目じゃない厄介な事態だぞ」
イビル系の魔物が出てきたのはそこまでおどろかない。ダンジョンは魔物を生み出す宝庫だ。得手不得手はあっても、生み出せないなんてことはない。
ただしダンジョンもフロアごとにキャパがある。効率を上げるために自分の得意な属性ばかりを生み出す。
「下層はアンデッドが多数生息する闇属性のフロアだ」
「それが、上層にまで闇属性を生み出した? それは、まさか!」
「ああ、今後、闇属性の魔物が増える。お前らでは感知できない魔物がな」
「それはとんでもなく厄介だね。知識があってもみながみな、対応できはしないだろう。そもそもこの街で魔法使いをパーティに入れているのはボクらだけだ。今から育成したって間に合わない」
それもそうだが、そうじゃない。
俺が危惧しているのは、そんな表面のところじゃない。
「違う。お前らは見当違いをしている」
「何?」
「まだあるのかい? 詳しくお願いします」
めんどくせぇ。
だが、放っておくと、もっとめんどうくせぇ。
「めんどうだから、もう全部まかせろ」
つい、そんなことを宣言してしまった。
―― 一時間後。
「ご主人様、用意が整いました」
「ああ……。本当についてくるのか?」
「足手まといでも、おそばにいたいのです」
「がんばる! がんばるから!」
がんばるって。
そんな次元の話ではない。
「俺はこれから下層に向かうんだぞ? 分かっているのか?」
分かってはいないのだろう。だが、そうと問わずにはいられなかった。
その俺に対する返答は、予想外の長文だった。
「下層。ダンジョンの深部であり、高レベルの魔物があふれる地です」
「その魔物は、マミー、ゴースト、レッサースケルトンと、不死系が多く、物理攻撃の効きがうっすい」
「上層、中層の属性傾向から一転してのその様子に、下層の攻略者は未だに現れていない魔境です」
「それに何より! お金にならない! ポワっと消えてドロップも残さない、出ても腐った肉や不浄な包帯とかだから、不人気!」
「ダンジョン最奥の間にはダンジョンコアが安置されており、そこを守護するダンジョンマスターは誰も見たことがありません」
「大昔にえらい神官様たちが攻略にいったけど、一団の誰も帰ってこなくて危険地域指定。そのまま封鎖された場所、それが下層!」
……。
「よく、調べてるじゃねぇか……」
俺よりくわしいじゃねぇかよ。
さっき少しの空き時間に資料を読ませてもらっただけなのに、もうそこまで頭に叩きこんだのか。
「今回は調査だが、危険は今までの比じゃねえんだ。だから留守番していろと」
「ご主人様のおそばが、私の帰る場所です。その場所にいるのですから留守番と変わりありません」
そんなわきゃないだろ!?
「天狐族って、退魔も得意なんです! だから大丈夫! わたしもゴーストならやっつけたことあるし!」
「聞いてないんだが?」
「まさかこんなに早く出番があるなんて思ってなかったので! てへへー」
開き直りか!
それにしても謎が多すぎるな、天狐族。
一族の大半が風と闇の属性持ち。
戦士ばかり。
山岳地帯や森林に住み、退魔が得意。
商人は前衛カテゴリー。
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