騎士不適合の魔法譚

第二章

1

　――某日、某時間。


　唐突に針を刺すような鋭い気配を察知する。

　……、殺気！？
　いや、これは……、この焼けるような気迫は。

「これは、怒気ですか！？」
「見て、あそこから人が飛んでくるよ！　あの人からイガイガーってとがった気持ちを感じるよ！！」

　シスが指をさした方向を見れば、空に浮かぶ小さい黒点が徐々に大きくなっている。
　砲弾めいたそれは、このままいくと、直撃コースだろう。

「二人とも離れろ！」

　短く叫び、天狐姉妹を俺から離す。

　相手はどれだけ目がいいのか。
　飛んでくるその人物は俺だけを真っすぐに見つめ続けている。
　遠くて俺は顔までは判別できないが、上段に剣を構えているのが分かった。

「……、なんだ？」

　魔法で視力を上げてみると、その振りかぶった剣は鞘に入ったままだった。
　そして顔を見て、その見覚えのある顔に、まさか、と思った。

　万が一のそのまさかの為に、俺は五重結界を張る。
　その上で亜空間から剣を取り出し、相手同様、俺も鞘付きのまま頭上に掲げる。

　近づいてきて、その顔が目視で判別できる距離となった。
　そして誰かが確実に判別できた次の瞬間には


　着弾していた。


　キャスの空中ダッシュとは明らかに異なる方法で、振りかぶった姿勢のまま速度をさらに上げてきたのだ。


「空中で加速するとか反則だろ！！」

　衝撃は相当なものだった。ダンジョンマスターの攻撃でさえ容易く弾く結界、それも五重にも重ねた結界全てをたったの一撃でやぶられた。さすがにそれで勢いが弱まった所を、俺は自らの剣で受け止め、いなすようにその人物を地面へと受け流す。
　威力を殺し受け流したはずの手がビリビリと震える。

「いってぇ……」

　魔法で強化した腕がしびれて動かない。それだけの衝撃だ。
　ぶつかった際の衝撃波で姉妹が吹き飛びかけ、踏ん張っているのが見えた。


　あぶねぇ。あのまま近くにいたら確実にぶっ飛んでたな。
　ペルセウスくん、＊＊＊＊くん、＊＊＊＊くんの三重防御があるからケガはしないだろうが、それでも危険は少ないほうがいい。

　安堵している俺の前に二つの影が躍り出る。
　衝撃波から立ち直った天狐姉妹だ。

「ご主人様、お下がりください」
「あなた、何？　死ぬの？」

　息つく暇もなく、今度は姉妹がＮＩＮＪＡモード。俺を守るように、あるいは相手をしとめるべく二人が身構えていた。
　殺気すら気配に込めて放つ二人を止めに入る。

「キャス、シス、やめろ！　これは俺の知り合いだ！」

　会うのは三年以上ぶりだが、間違いないだろう。
　地面にうずくまっていたその人物が、ゆっくりと面上げる。

　やはり、そうか。

「ナトリ、久しぶりだな」

　わが麗しの妹よ。

「覚えて、いたのですか？」
「忘れられるものか」

　あの痛烈な脳天唐竹割りは悪い意味で今でも覚えている。




　俺はうだるような暑さのこの日、妹と再会した――