騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 さて、準備をして出発となったわけだが、今回の移動手段は馬車ではない。

「自動車!」

 セカセカと忙しなく自動車の周囲を回り、興奮するシスに冷たい目線を向ける。
 するとその視線に気づいたシスがこちらを見上げてくる。

「ぶ、分解してもいい?」
「いいわけあるか!!」

 お前、なに言ってんの?
 冷ややかな目線だけでなく、さらに魔法で冷気を物理的にまとわせるも、興奮したシスは止まらない。

「分解はロマンだから! ちょっとだけ、ちょこっとだけだからー!」
「やかましいわ! さっさと乗れ!」
「ほら、システィ、ご主人様のご迷惑になっているわ。早く乗りましょう」
「はーい! あ、わたしこっちの席ね! ご主人様の隣ぃ!」
「はいはい、フフフ……」

 大人しくなったとは言い難いものの、言うことを聞き車へと乗り込んだシスを、暖かな目でキャスは見守っている。
 シスはキャスの言うことなら素直に聞くので、そちらは任せて俺は自動車について考える

 K=インズ商会の自動車。
 俺が原型だけを考案した魔道具だが、今では実用化され限定条件で使われている。

 一つ、運搬用。
 一つ、レンタル用。

 一般普及は無理だったそうだ。
 だから基本的には、整備士と運転手ごと貸し出して、終わったら商会に返ってくるようにしている。
 まるでリムジンやマイクロバスのようだ。実際に高級車扱いなので間違っていないのかもしれない。

 この自動車だが、目撃情報が多く、また、重要人物ばかりが利用するので街道を爆走していても誰も文句を言わないし、誰も自動車を襲わない。

「まぁ、馬車と比べて十倍以上の速さで移動できるからな。時短にはもってこいだ」

 国王も全体的に効率や合理性を優先する気質のようで、自動車の利用率が非常に高いらしい。運転手が魔法使いであるのも、まったく気にしないとの事。
 俺のような過去を持つ人間にとっては、偏見の少ない国王なのは悪くない。そんな事情もあって、この国とK=インズ商会の関係は良好なようだ。

 それでも人は、裏切る時は裏切る。
 国王みたいに色んなモンを背負ってるヤツは、優先度次第じゃ親兄弟だって切り捨てるタチだ。
 けっして油断はしない。

 脇に逸れた考えを目の前の自動車に戻す。
 よく整備されており、不備は見当たらない。タイヤも問題ないことを確認し、俺も車に乗り込んだ。

 街中をゆっくりと進み、門で手続きを終えた後、俺たちは早速迷宮の街を出て、爆走する。

 しばらくは先行く馬車もないと聞いているので、爆走だ。
 最初はものすごい勢いで後退していく景色に興奮し騒ぐだけだったシスが、次第に興奮の目先を車内へと移す。

「うわぁ! うわぁあああ!! すごい、すごい!! これ、何のボタン? 押していい?」
「いじるな」
「爆発する!? 爆発するの!? これ押したら爆発する? ねぇ!?」

 しねぇよ!
 なにを物騒なことを言ってんだよ! この駄目銀ギツネ!
 しかもそれは、ワイパーだ!


 この駄目銀ギツネことシスは、ついこの前知ったが、魔道具が大好きなのだ。

「想像していたよりもゆれないねー? これは……あれかな? それとも、これかな?」

 あーもう、うるせぇ。
 たしかここに……あった。

 このためにマッケインに無理いって用意させたブツを亜空間から取り出して、顔を上げた駄目ギツネに投げつける。
 紙面は丁度顔面にぶつかり、シスは慌ててそれを自分の顔から引っぺがしてまじまじと眺める。

「ワプッ!? これは?」
「こいつの設計図の写しだ。門外不出だから絶対になくすなよ? なくしたらちぎって海に放り投げる」
「設計図! うわぁぁ……、ありがとう、そして、ありがとう!!」

 なんで二度言った。

「システィ、いい加減にしなさい。さもなければご飯抜きですよ」
「それはイヤァ!?」
「なら窓の外でも眺めて静かにしてなさい。この揺れで読書をしては、体に負担がかかります」
「はーい。窓開けていいー?」
「……、好きにしろ」
「わーい!」

 ふう、やっと大人しくなったか。

 シスの開けた窓から爽やかな風が舞い込んでくる。
 土の匂い。草の匂い。
 いわゆる、自然の匂いだ。いくら機械工業が発達していないこの世界でも、街の中は生活の匂いであふれている。
 ここまでキレイな匂いを楽しめるのは、郊外へと出たからだろう。

 その匂いを堪能しつつ、出がけ直前に聞いた話を思い出す。

 なんでもこの街道に、最近妙な連中、おそらく賊だろう、が出るらしい。そんなうわさが立っていると門番から聞いた。
 めんどうごとは少ないほうがいい。なるべく巻き込まれないように、運転に集中したい。

 上機嫌なようすで窓から身を乗り出すシスの鼻歌のような何かが聞こえる。それをバックグラウンドミュージックにして、俺たちを乗せた自動車は進む。

「ふんふんふーん」

 尻尾がモサモサ揺れて視界が少し気になるが、今この尻尾をつかむわけにはいかないと理性を総動員する。

「あ、鹿の群れだ。おーい、おーーーい! 『エアロバースト』!! やったー! 獲物ゲットー! 『アポート』!」

 窓から身を乗り出し外に手を振っていたシスが、ヒューンと魔法を放ち、それが鹿の群れに激突し、数度の爆発。宙を舞う鹿の花火を横目に、車は直進を続ける。


 ……、今、何気に大量虐殺の場面、なかった?
 ごくごく自然に、無邪気なようすで鹿の群れが全滅したような……?

「この距離からでも『アポート』が届くようになったのですか。さすが私の妹です」
「えへへー、それほどでも~」

 気にしてもしかたがないか。

 それにしても……。

「まさか昨日の今日でもう改良しているとは、さすがはマッケインといったところか」

 実は車体を『フロートボード』で浮かして車輪への負荷を減らしている。
 これにより足回りの負担は減るが、魔力の全体消費は当然あがる。

「俺にとっては屁でもない消費だがな」

 そんな俺たちの旅は順調に続く。
 明日昼すぎには現地に到着する予定だ。

「馬車で十日のところを、一日半か」

 こちらはおよそ五百キロだ。
 王都方面と違い馬の入れ替えが出来る街が少ないから、同じ馬車移動でも王都と違い距離が半分なのに同じだけ時間がかかる。

 しかし、生き物の馬と違い、自動車はパーツ交換すればすぐに再び走れる。
 整備が行き届いていないへき地に行くほど、自動車は有用性を発揮する。

 軍事利用されそうなほどにオーパーツな自動車だが、運用に魔法使いが絶対必須とあってか、どの国も採用を見送っている。
 パーツその物の生産をK=インズ商会が牛耳っているのも理由にあるだろう。

「そしてわが社は不遇な魔法使いたちに恩を売りつつ、安い金額で重労働を強いている、か。くっくっくっ」

 フリーズドライ製法も、この自動車も、魔法使いでなければ使えない。
 そのためにK=インズ商会が独占状態。魔法使いに頼るなど体面を気にする国や貴族では口出しできないからやりたい放題。

「今まで不当に弾圧してきた魔法使いを、どの面さげて採用しようというのか」

 ある貴族に接収されかけた工場もあったが、従業員が猛反発した。
 その結果、その領地からK=インズ商会は撤退し、その貴族はわずか一年で落ちぶれたとか。
 うんうん、いいことをしている。さすがはマッケインだ、俺のツボを心得ている。

 『傲慢な貴族には報いの鉄槌を!!』

 悪くない社訓だ。

 これを思うと、俺たちの住む迷宮都市の領主はうまいことやったものだ。
 それくらい強かでなければ冒険者頼りの迷宮都市の領主は務まらんのだろう。

 再び始まったシスの鼻歌を耳に、気分良く車は進む。

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