騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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「ご主人様、あちらでなにか事件が起こっているようです」
「なんだ?」

 時間は三時すぎ。
 鹿の解体のためにやや長めの休憩をとった俺たちが再出発し、引き続き街道を走っていた時、それは見つかった。

「あのようなところに馬車?」
「それと、人がおそわれているようですね」
「そうか」

 車を止め、目をこらしてみれば、少女らしき影がヒゲモジャのオッサンたち相手に大乱闘を繰り広げている。
 ただ、それだけだった。

「興味がないな」
「はい、お手をわずらわせてしまい申しわけありませんでした」
「いいさ。気にするな。良く報告してくれた」

 おおかた、うわさにあった賊たちに襲われたのだろう。
 赤の他人なんざ知ったことではない。
 再び車を走らせようとしたところ、シスが何かに気付きつぶやいた。

「ねぇ、旦那様。襲われているあの子、ドワーフだよ?」
「……なんだと?」

 目を凝らし再度確認する。ドワーフは、俺には人間と見分けが付かないが、おそらく少女の方がそうなのだろう。
 引きこもりの珍獣ドワーフがなんでこんなところにいるのかは知らないが、これはチャンスだ。

「予定変更だ。アレをかっさらう」
「かしこまりー!」

 ドワーフはいずれも名器ぞろいだと聞く。
 一度は味見してみたくなるものだ。思わず舌なめずりをする。

「まさか、ご主人様は新たにあの子もげぼくに加えるおつもりですか?」

 シスに続き、キャスも生理だ。双子だから周期が近いらしく、今後もこういう事態が起こるのは予想される。
 俺の下半身事情のためにも、もう一人くらい増やしていいか、なんて思ってはいる。

 飽きたら捨てればいいだけだ。そんな薄暗い感情を胸に、亜空間から武器防具を取り出して戦闘準備を行う。

「数は六人だね。あ、あの子が捕まったよ!」
「戦闘だ。時間をかけず、……皆殺しにしろ」

 俺は自分の左腕を掴みながら、ペルセウスくん越しに二人に『命令』を下す。


 隠遁しつつ近寄って分かったが、オッサン共は全員なにかしらの訓練をうけたプロだった。しかも裏ではなく、正規の類。
 その割には恰好がボロボロ。

 つまり、扮装したどこぞの騎士団。生かして帰せば逆に面倒になる。予定通り、ミナゴロシだ。

「それに、騎士ならば六ぽっちのはずはないな。あいつらは群れで動く臆病者だ」

 それでも少女一人をさらうには多すぎる人数だが、何か事情があるのだろう。

 よほどの好事家に目を付けられた女か?
 俺にはそんなもの関係ないが、めんどうそうなら女もこのまま切り捨てる。



 最初に接敵したのは、キャスだった。
 気配を消し、遮音してのNINJAスタイル。背後に忍びよっての切り捨て御免。相手はしぬ。
 ドワーフの少女を拘束していた男の一人をSATSUGAIし、NINJAはお行儀よく、また闇にひそむ。

「な、なんだ!?」
「なにが起こっている!?」

 自動車には俺が細工をし見えないようにしてある。俺たちも闇属性の隠遁を使っている。
 だからだろう。相手は突然の見えない敵からの不意打ちに混乱し、うまく対応できないでいる。狩るには絶好のカモだ。

「このままいけば楽に制圧……、いや、あれは賊どもの援軍か?」

 蹄の音を聞き、振り返れば馬郡が見えた。追加の数は、二十六。
 見えない何かに仲間がやられている異常事態に戸惑う節はあるが、それでも号令とともに即座に隊列を組み直すあたり……

 どう見てもどこかの正規軍です。とびきりの間抜け共で、本当にありがとうございました。


 そんな正体を隠す気ゼロの集団だが、全部で三十二は半端すぎる。
 常に十人単位で行動しているはず。ならばおそらく野営地に数人残っているのだろう。黒幕にすぐバレるのも面倒だから、そこもつぶす。
 騎馬兵の様子を見て、ひとりだけ真っ当な装備をしている間抜けを発見する。

「そこの一番えらそうなヤツを捕まえて、あとは殺せ」
「はーい! 『エアロバーストスプリット』!」

 ……またシスが新魔法を使った。

 圧縮空気を炸裂させる『エアロバースト』が途中で分裂し、細かく散った『エアロバースト』が小規模の爆発をいくつも発生させる。
 木の葉のように舞う男たちは、突然の暴力になすすべもなく高々と打ち上げられ、地面とキスをしたのが最後の記憶となっただろう。

 エグい殺し方だが、魔法のみで殺すよりもはるかに効率的だ。どうやらシスは順当に成長しているようだ。

 だがしかし、シスのあの魔法はなんだ?
 あの圧縮空気は分裂させようとした時点で爆発するはずだ……。それなのにどうして時間差で爆発したのか。
 思い起こせば、小粒の『エアロバースト』をブドウのように鈴なりにして射出していたように見えた。
 ペルセウスくんの録画機能を用いて、先の光景を見直す。

「やはりそうか」

 二回目でやっと何をしていたのかがわかった。

「先ほど鹿の群れを全滅させたのはこの魔法の未完成版だったか」
「そうだよー。やっと完成したよー、にへへー」

 そう言うことらしい。

「……なんて気軽に言えるような技量じゃないだろ、それ」

 なんて出鱈目な魔法なのか。
 ついこの前までド素人だったシスが、今は一体いくつ同時に同じ魔法を使えるのか。その急成長ぶりに背筋が凍る。

 俺の困惑をよそに、キャスが男をまた一人切り捨てて、ドワーフを無事に解放したのだが……

「……、大丈夫ですか?」
「ぬ、のぉぉ!? どなたかは存ぜぬが、助かったのじゃ」

 のじゃ。
 のじゃ、ねぇ。
 幼い容姿にのじゃ口調だとちょっと気分がなえるから黙っていてもらえないだろうか。
 最悪は抱くときにさるぐつわだ。それほどの不快指数だった。

 それはともかく、と。

「さて、残るはお前だけだな」

 生かしておいた隊長らしき男に向き直る。

「ぐっ、貴様、一体なにもぐおお!?」
「ご主人様に汚い息を吐きかけないでください」

 俺にナマイキな口を聞こうとした男の足を躊躇なくクナイでブッ刺した。
 さすがNINJA、ためらいもなし。

 痛みにもだえ苦しむ男に優しく告げる。

「なに、事情なんざ聴いたりしないさ」

 聞いたらめんどうになるだけだ。
 こいつらはここで、賊として処理させてもらう。
 そんな心の内を顔に出さず、平然と肩をすくめ、やる気がない風を装う。

 いや、やる気はいつでもないんだが……。

「馬車がおそわれていたんで助けに入っただけだ。それ以外には興味がない。お前にもな」
「なんだと……ならば今すぐ私を解放しろ!! 私を誰だと思っうぐああああ!?」

 またナマイキな口を叩こうとした男の足をブッ刺し。
 さすがNINJA、お決まりのセリフさえ最後まで言わせない。
 俺もそれにならい、両耳をふさぎ、イヤイヤと首を振る。

「あーあー、聞きたくなーい。そんな足じゃ仲間の元へは帰れないだろ? めんどうだが、送ってやるよ。感謝しろよな」

 一方的に語りかけ、どちらが上かをワカらせる。
 キャスに足をグリグリされ、俺にあからさまな無視をされた男が大人しくなったところで、唯一生き残った馬の背に男を乗せる。
 いやがる馬には横合いからのチョップで大人しくさせる。激しく二度三度と叩けば従順になる。軍馬とはいえ所詮は動物だ。

「俺はすこし行ってくるから野営の準備でもして待ってろ」

 本当はこの先の宿場町に泊まる予定だったが、予定変更だ。今から処理を済ませたのでは、チェックインに間に合わない。

「ではあちらで準備しています」

 ここから少し離れた川沿いのキャンプ地の方角を指差すキャスは、さすがよく分かっている。
 乗合馬車の御者や利用客の死体の山があるこの場で野営なんて正気の沙汰ではない。離れた場所で準備をするようだ。
 賊たちの死骸はとっくに焼却済みだが、こちらは残しておかないと遺族らが困ると残しているのだ。

 念のためにと、ペルセウスくんを巻きつけている左腕を指し示す。

「なにかあればコイツで連絡を入れる」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、ご主人様」

 俺至上主義のキャスも、ようやくメイドらしくなってきたか。
 いや、キャスは「げぼく」であってメイドでもないし、むしろ性質的にはNINJAだが、まぁいい。


 息も絶え絶えな男を連れて、そいつらの野営地へと向かえば、俺の予想通り、あいつらはどこぞの正規軍だった。
 ドクロに槍二本の独特な紋様は、鉄の国の象徴。
 そうなると、戦士団が正しい表現になる。騎士様よりはお上品ではない連中で、効率主義だから俺はそんなにきらいでもない。
 しかし、効率主義が故に、何もかもが徹底している。

 瀕死の隊長格を連れた俺の登場に戸惑う連中に、優しく、やさしく声をかける。

「さぁ諸君、何も言わず、何も聞かず、俺にじゅうりんされてくれ」


 あの女ドワーフ、どうにも厄介な連中に目を付けられているようだ。
 とりあえずこの辺にある装備やら食料やらは、売っぱらってやろう。臨時収入だ。
 ついでに指示文書と思しき書面もいくつか見つけられたので、それも亜空間にしまい込んでおく。

「……、決して証拠確保のためにやってる訳じゃねーぞ?」

 誰にともなくつぶやき、無と化した野営地を後にする。


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