騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――海洋都市。

「あちぃ……」

 五百キロも南下すれば、気候も変わる。緯度換算で、埼玉から鹿児島まで南下したようなものだ。
 
「あふぅ……」
「んっ……んんっ……」

 暑さに身もだえる天狐姉妹が妙にエロい。
 しかもそのせいで微妙に周囲の視線を集めてしまっている。

「あ~つ~~い~~~の~~~じゃ~~~~~~」

 だが、そんなピンク色めいた空気も のじゃ のせいで霧散する。
 この暑い最中、頭からすっぽりとフードをかぶり、マントで全身を隠している少女。その異様さは

「こいつ、バカじゃないのか?」

 に尽きる。

 マントを上下に揺らし風を中に入れようと奮闘している のじゃ に、ふとわいた疑問をたずねる。

「ドワーフってのは暑さに耐性がないのか?」
「炎の熱さと気温の暑さは別なのじゃ! 鍛冶場の熱気には耐えれても、これは無理なのじゃ~~」

 そうなの、か?
 いや、そうか。つまりこれよりも温度が高ければドワーフは逆に耐えられる。今くらいの温度は、もしかすると人が低温やけどするくらいの中途半端な気温なのかもしれない。

 炎天下の元、蜃気楼らしき虚像を見て、気になっていた属性について思い出す。
 物のついでなのでさらに問いかける。

「そう言えば、おい、教えろ」
「何をなのじゃ?」
「ドワーフってのは、基本六属性以外に使える属性があるのか?」
「……、あるのじゃ」
「それは熔か? 塵か? それとも……」

 そうしていくつか挙げていくと、降参とばかりに のじゃ が両手を上げた。

「亭主殿には敵わんのじゃ。そうなのじゃ、大半の者は熔属性も持っておる。でもワシは持っておらんのじゃ」
「鍛冶をしないからか?」
「うーむ、そこまでは分からんのじゃ。多分誰に聞いても知らんと答えるのじゃ。でもドワーフの間では公然の秘密として口外してはいかんのじゃ」

 公然の秘密程度で抑えているというのは、ドワーフはその辺あまり気にしない種族なのか。
 あるいは義理堅く、口も堅いのか。

 これ以上、有益な話は聞けそうにない。

 気持ちを切り替え汗をぬぐえば、珍しく物静かなシスが視界に入った。

「シス、どうした?」

 さっきから自分の手をジーーーーっと見ている。
 もしかして、運転が忘れられなくて、みたいな感慨にふけっているのだろうか。それは危ない兆候、スピード狂の危険性。

「初めて人を殺したのに、何もかんじなかった……」

 ……。
 なるほどね。

「気にすんな!」
「わ、わわっ! あうぅぅ……」

 シスの頭を乱暴になでて髪を乱れさせる。
 狐耳ヘッドではないのは残念だが、これはこれでサラサラしている。
 というか、シスの髪はこんなにサラサラしてたのか。
 指を通すと抵抗なく入り、スッと上から下へ手が通り抜ける。サラサラと当たる髪はまるで絹のような手触り。

 へー。

「いや、キャスよ。シスの後ろに並んでも、なでないからな?」
「そ、そんな……あうぅぅ……」
「そんなショック受けた顔しなくてもいいだろ」

 根負けしてキャスの頭もなでた。
 こっちは若干髪質が固く、これはこれで手触りが気に入った。



 改良型多目的アームバンド、ペルセウスくん。
 効能の一つに『罪悪無感』がある。
 ようするに、罪悪感をかんじなくなるものだ。
 普段はオフにしているが、俺のペルセウスくんのマスター権限で賊を殺すときに『命令』した際、使った。
 コロシに迷いがあれば、危険にさらされるのは俺だからだ。

「効能が切れて、今頃悩みがでてきたか」

 精神支配にも近い物騒な効能だが、この効能を付与するきっかけはキャスの暴走だ。
 俺の命令を無視して上下分離したあの事件。あの時のイラダチを思い出して付与してみたが、うかつだったかもしれん。

「コロシを納得できるかは当人次第だ」

 そこまでは面倒見切れん。自分でなんとかしろ。
 手を気にするシスの頭をなでる。汗ばんでシットリしているが、それでもサラサラしているのは髪質なのか。
 つい手で弄んでいると、体が下に引っ張られる感覚がした。
 目線を下に向ければ、のじゃ が俺の服をつかんでいた。

「お前はどうして俺のソデを引っ張ってんだ?」
「暑いのじゃ! ではなくての。実は相談があるのじゃ」
「ことわる」
「迷いもしなかったのじゃ! 男らしいのじゃ! ほれ直したのじゃ!」

 え? 何それ。
 こいつも邪険にされると喜ぶマッケイン系なの?

 その気持ち悪さに思わず半歩身を引く。
 それにも構わずのじゃのじゃ叫ぶ のじゃ。
 あまりのうるささに俺は右手を振り上げた。

「うるせぇ! 俺はやることがあんだよ!」

 少し強めにチョップをかまし、今日の予定を頭に浮かべる。

 まずK=インズ商会の支部に顔出しだ。
 街中では邪魔になる自動車の返却と、宿の手配をしてくれているはずだから場所を聞きに行く。

 次にここの冒険者ギルドにも顔を出す。
 連絡入れろと言っていたガルベラがコワ……ウザいからな!

 予定を指折り数えていると、必死な のじゃ がしがみついてきた。
 汗ばんでいて気持ち悪い!

「そのあと! そのあとでよいのじゃ! 頼むのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あふん。きゅ~~~……」

 振り払うと同時に のじゃ が倒れた。

 そんなに興奮するから熱中症で倒れるんだ、バカめ。
 ……、マッケインに言って自動車に冷暖房の装置も付けてもらうか?
 いやいや、俺は何をバカなことを。

「お前ら車に乗れ。行くぞ」

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