騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――K=インズ商会、海洋都市支部。

「ようこそお越し下さったザマス!」
「……」
「……」
「……」



「なんで迷宮の街にいるはずのテメーがここで待ち構えているんだよ、マッケイン!!」

 しかも先回りまでして。

「坊ちゃんが考案なさっていた試作品で飛んでまいったザマス」
「試作品だぁ?」

 また何を作ったのか。
 いつも思うが、俺が考案しただけで実物を再現して見せているのはマッケインの部下だ。
 それって、俺よりもお前とお前の部下がすごいってことだよな。
 いい加減、目を覚ませ。

 そう思うも、直後にそうでもないかと思わされる。

「飛行機ザマス。斬新な発想から産まれた新たな移動手段ザマス」

 あったよ飛行機。この世界に。
 しかも俺が持ち込んだ知識じゃん。


 マッケインが俺に飛行機の資料を渡してくる、が……。

「飛行機というよりも、ジェットパックだな」

 頭、背中、両足、両腕に風魔法でジェットを作り、その反発力で飛ぶ。

 なるほど、これは何かの映画の影響を受けていたものだな。

「しかしリアルで考えると、生身の人間がこの速度で飛んで、その圧力に耐えられるのか?」

 最大で時速五百キロ近く出るようだが、腕や足からそれだけのジェットが吹き出たら、間違いなく支えている四肢がちぎれ飛ぶ。
 これにより、新たな処刑法が生まれるほどなのではないだろうか。

 名付けて、空中分解の刑。

 うたい文句は

 『青空に血の華が咲く』

 悪くないな。

「ええ、ですから負荷を最小限に作ったザマス。航続距離は落ちたものの飛ぶまでは至ったザマス。けれど、最後の最後で問題があったザマスよ」
「最後に問題って、飛ぶまでは成功したのかよ」

 すごいな、異世界の技術。
 フリーズドライ製法の再現といい、この世界は可能性に満ちすぎている。

 そう頷いていると、マッケインの口から聞き捨てならない話を聞いてしまった。

「実は、着地まで魔力が持たないザマス」
「ほーん」

 ……、は?
 それはつまり、途中で燃料切れを起こすと言うことだろう?

 魔力切れは激しい倦怠感を伴う。空中の、それも時速五百キロで飛んでいる最中にそれでは、危険極まっている。交通手段よりも確実に処刑向きだ。

「魔法使いなら魔力はもつザマスが、その代わり体自体が弱いザマス。疲労骨折してしまうので、断念したザマス」

 それで前衛がジェットパックを使うと魔力が足りないのか。
 おそらく、その問題は前衛もこなせる魔法使いのキャスならクリアーできるだろう。

 危険なテストパイロットなんてさせないが。

 それが顔に出ていたのか、マッケインが見守る兄のような生暖かな目線を送ってきたので睨み返す。

「ですから、ここのように砂浜のあるところで、気合いで着地したザマス。砂浜に巨大なクレーターができたけど、実験は成功したザマス」

 それ、成功なの?
 あと、副会長のクセに体張りすぎじゃね?

 自慢げに胸を張るマッケインに、なんだろうか。一気に気が抜けた。

「実用化には、このままではあと数年かかるザマス」

 だろうな。
 形状も微妙に飛行機を意識した翼がついているから余計に難航していそうだ。

 しかし、聞いていると、飛行機というより人間砲弾だ。きっとどこかで情報が混ざってしまったのだろう。俺の伝達間違いだとは思いたくない。

 か、考えるのはよそう。


 何か気を紛らわすものはないかと探していると、巨大な紙面を広げてうっとりしているシスが目に付いた。

「ここと、ここ、ああ、ここもすごいよぉ。さすが旦那様だよぉ、この設計図、すごいよぉ」
「す、すごいのじゃ……。ワシはいま、技術の最先端の話を聞いておるのじゃ……」

 その設計図を作ったのは俺ではない。
 あと、まさかこんな話になるとは思わなかったからな。のじゃ を同席させても良かったのだろうか。
 シスの隣で設計図をのぞき込む のじゃ を見て、社外秘だったかとマッケインに確認を取る。

「第三夫人であれば何も問題はないと思うザマス。お美しい方ザマスね」
「その一番最初の部分が問題なんだが? あと、美しいか? 俺には理解出来なかったぞ」
「ドワーフは義理堅い種族ザマス。坊ちゃんを裏切る可能性は極めて低いザマス。職人気質で、その心根の在り方が美しいザマスよ」

 イヤに のじゃ を持ち上げるマッケインに違和感を覚える。

「ドワーフは魔法使いばかり生まれる種族ザマス。K=インズ商会でも大勢抱えているザマスよ。お得意様でもあるザマス」

 それ、初耳ぃ!
 てか、ちょっと待て。

 立ち上がった俺は、マッケインを手招きして部屋の端へと移動する。

「おい、マッケイン、こっち来い」
「内緒話ザマス!?」

 なんでうれしそうなんだよ、この変態め。あんまり近づくな。頬と頬をくっつけようとするな。
 呼んでおいてなんだが、近いわ!

 適度な距離を保ったあと、サイレントフィールドを張って のじゃ に聞こえないようにする。

「あいつ、ドワーフの王族って話なんだが、ドワーフってのは、どうなんだ? まず王様とかいるのか?」
「ドワーフは王政ザマス。だから真偽はともかく王族は存在するザマス」
「そうか。なら王族をカタるのはリスクが高いし、本物の可能性もあるか」
「実は、ドワーフの姫が一人行方不明だと聞いているザマス。成人の儀を終えた直後に行方不明になったそうザマス」

 うをい!
 それ、ピンポイントにあいつのことじゃねーか!!

 もうかなりヤバめな事態に首を突っ込んでいたみたいだから、洗いざらい話した。
 マッケインに丸投げしてしまおう。



 ――海洋都市、冒険者ギルド支部。

「ここにはさすがに知り合いはいないな」

 移動の手続きを終え、迷宮都市に連絡させた。これでこのギルドでの用事も終わった。
 万が一先回りされていないか警戒しつつ、忍び足で受付から立ち去ろう。もめごと、厄介ごとはゴメンだ。

「あの、申し訳ありません、カイ様」
「……なんだ?」

 逃げ腰の俺に、担当した受付が恐る恐るといった様子で声をかけてくる。
 手続きは終わった。向こうからの返信は、ムシだ。

「その、こちらに参加するとお聞きしているのでご説明が必要かと思いまして……」
「参加? なんの話だ?」

 これでも三等級冒険者の俺は、いきなり許可も取られずに何かに参加させられるような立場にはない。
 危険な魔物の討伐にしても、依頼される形であって、こんな感じに

「あ、すでにお前の参加決まってるから!」

 みたいな二次会のノリで話しかけられはしない。

 いや、つい先ほど二等級になったと告げられたな。クソッ。

 ……胡散臭い流れだ。



 受付が、意を決して俺に告げる。


「この、『アチアチマシーン、極レース』に参加されるのですよね?」

 な に そ れ !?

「チームグラムボンで出場登録がなされております」
「はぁ? てかそのチーム名はなんだよ!?」
「ご主人様、グラムボンは……、迷宮都市のギルドマスターの名前です」

 あいつ、そんな名前だったのか。興味がなさ過ぎて覚えてなかった。

「ぬおおおおお!! さすが亭主殿じゃ! ワシの願いをまるっと叶えて下さるとは!」

 こっちもこっちで何騒いでんだよ。また倒れるぞ?

 思わず手を差し伸べそうになり、慌てて引っ込める。
 そして、はたと気付く。

 どうにも妙な庇護欲をかき立てられると思ったら、そうか。なんとなく妹の勢いに似ているからか。背も、記憶の中ではこんなものだった。
 そうと分かると、自然と拒否する感情が芽生えてくる。

「離れろ。……、離れろ! って、力つよっ!」
「うわーいなのじゃー! やったのじゃー!」
「あ、あの……」
「あー、もういい。めんどくせぇ。このまま説明してくれ」

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