56 / 111
第二章
19
しおりを挟む「この先が最奥、ダンジョンコアのある部屋だ」
光の差さない深海、そこに青く耀く巨大なダンジョンコアは安置されていた。
パイススくんがなければ無理な距離だ。水深は水圧換算で軽く一万キロを超えている。マリアナ海溝並だ。
とは言え、地球のソレのように物理的にその距離を潜った訳じゃない。魔法的に空間が歪んでいる箇所があって、そこからいくつもワープした。
おそらく新たなダンジョンを取り込んだためにツギハギになっているのだろう。いずれは平らに均され実際にその距離を潜らないと最奥にはたどり着けなくなるだろうから、前回同様、俺は運がいいようだ。
「加圧、問題なし。空気、問題ないな」
「旦那様の発想はすごいね! まさか亜空間に空気を閉じ込めてるなんて!」
「潜航モードのパイススくんと併用できんが、多少でも魔力を温存できるからな。ああやって結界の中で休むことを考えて樽に詰めておいた」
こんなこともあろうかと、である。
「キャス、体調はどうだ? 気分は悪くなっていないか?」
「魔力は半分程度、体調なら万全でございます。気持ちは充実しておりますので、やれます」
衝撃の、ある意味で衝撃の告白の結果、キャスが見栄を張らずに正直に答えてくれるようになった。
「シスもどうだ? めまいや貧血の表情があるなら早めに言えよ?」
「うん、大丈夫! 魔力も八割回復してるよー。でもここ真っ暗で、こわいねー」
シスが少し弱音を吐くようになった。
なんだろう、そんなたわいないことが、うれしい。
「よし、最大限警戒し、進むぞ!」
前人未到の大ダンジョン。
その最奥の間。
そこには一体何があるのか……。
不意打ちに対応できるよう、周囲に盾型結界を展開し操作しながら進むと、ナニカが目の前に現れた。
あまりにも巨大すぎて認識すら困難なナニカ。
『珍しい。来訪者か?』
念波だろうか。
直接脳裏に届くその声に、俺の背筋は凍った。
その声はまるで日本刀のようにするどく、冷たい。それで頭からつま先まで、念入りに撫でられているような、そんな気持ちになる。
「が、知るかボケ!」
呪いじみたその念波を気合いでねじ伏せ、俺は姉妹へと振り返る。
そこにいるは、力なくたゆたう二人。
「キャス! シス! くそっ、今のをアてられて気絶してるか! ペルセウスくん!」
マスター権限を発動! 二人の生命維持を最優先!
簡易結界、起動!
自動回避、起動!
「自律モード、オン」
『人の子よ、何やら変わった芸当ができるようだな』
二人が海深く沈まないようにコントロール。
深度、安定。
バイタル、安定。
『ほう、我を無視するか?』
よし、単に気絶しただけだ。命に別状はない。
念のために休憩をしたが、それが功を奏した。二人の魔力が弱まっている所を見ると、抵抗に辛うじて成功したようだ。魔力が少ないままだったら危なかった。
しかし、まさか海中で物理結界を貫通する思念波攻撃を行ってくるとは予想できなかった。
俺もまだまだ知識不足だ。精進せねば。
『そうか、では去ね』
ブツブツと独り言めいた念波を飛ばしていたナニカが動いたことで、それの正体がようやく判明した。
超巨大なウツボだ。
目の前の超巨大なウツボが大口を開けて俺の元へと迫りくる。
ギザギザに生えた凶悪な牙は、それ一本で人どころか、家ひとつを打ち砕くほどの巨大さ。
開けた口は、小さな村ひとつなら丸々飲み込めそうなほど。
そして何よりも
この巨体が前進してくるだけで海流が乱れ、俺たちを押し流そうとする。
『さらばだ、無礼者』
絶対強者の慢心、いただきました。
この規模のダンジョンだからと警戒していたが、所詮は融合したての不安定なダンジョンだったようだ。
思念波を飛ばしてくる以外は巨大なだけのでくの坊。ペルセウスくんですでに全容を解析済みだ。
魔力を両手に込め、己を叱咤すべく気合いを入れて叫ぶ。
「超大型の相手に最も有効な手立ては、中だ!」
ただし、人間もそうだが、口の中は意外と固い。
熱にも寒さにも強い。再生能力も高い。
そして魚類系の魔物なら痛覚も鈍いか、あるいは無いか。
ならどうするか。
「簡単だ。それよりも奥の、中身を引っぺがせばいい」
口は確かに固い。
だが、食道はどうか?
胃は? 内臓は?
生物の内臓なんて、肉の裏にくっ付いているだけだ。ありったけの力を込めれば
「引っぺがせる! オラァ!!」
『何!? なんだその力は!?』
火水風土雷塵屑星光闇酸灰念……いっぱい。
とにかく俺の知る大半の属性を『サモンボール』で召喚し、束ね、魔法を紡ぎだす。
『アーマゲドン』とは異なる究極魔法。
「いでよ、『ブラックホール』」
呼び出したすべての属性を融合し、反発させ、微調整し、異空間の扉を開く魔法。
亜空間と同じように思えるが、違う。
亜空間は今いる時空の亜種で同一世界のものだ。魔力と言うカギで簡単に開く。
だが、異空間は時空そのものが異なる別世界だ。アクセスするには、今いる空間そのものに乱暴に穴を開けなければならない。
それでつながった先は、もしかすると地球かもしれない。そんな魔法。
かつて、逃避の果てに、地球とここをつなげれないかと試行錯誤した末に編み出した禁術。
異空間だからつながった先とこことで連続性はない。物質が異空間を通り抜けることがないのだ。しかし、強力な吸引は『ブラックホール』の名の通り存在する。
つまり吸い込まれたが最後、異空間との見えない次元の壁に挟まれてすりつぶされ、チリとなって原子すら消滅する。
「この魔法の利点は、全部の属性を使わずとも扉を開けられる点だな」
だから『アーマゲドン』よりもはるかに負担が少なく、発動も早い。ただし魂までは分解できない。
魂のない自律兵器であるダンジョンマスター相手にそこまでする必要がないからな。それは前回で学習済み。
そして消耗が激しい今の俺にはピッタリの魔法だ。
「ついでに、お前みたいなデカブツにもな! いけ、スクナビコナ!」
名付けて一寸法師作戦。
俺の放った、俺と同サイズの『ブラックホール』が大口を開けたウツボの中へとのみ込まれる。
そしてそれなりに飲み込まれたころ、内側からすべてを食らい尽くすかのように吸いこみが始まる。
『オゴ!? オゴウアオオオオオオオ!?』
己の内側から食い破られる気分はどうだ?
最高か? 最高だろう!?
「さぁ、叫び、ふるえ、恐怖しろ!」
俺の女をビビらせた罪は何よりも重いぞ!!
「苦しんで、死ね!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる