騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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「この先が最奥、ダンジョンコアのある部屋だ」

 光の差さない深海、そこに青く耀く巨大なダンジョンコアは安置されていた。

 パイススくんがなければ無理な距離だ。水深は水圧換算で軽く一万キロを超えている。マリアナ海溝並だ。
 とは言え、地球のソレのように物理的にその距離を潜った訳じゃない。魔法的に空間が歪んでいる箇所があって、そこからいくつもワープした。
 おそらく新たなダンジョンを取り込んだためにツギハギになっているのだろう。いずれは平らに均され実際にその距離を潜らないと最奥にはたどり着けなくなるだろうから、前回同様、俺は運がいいようだ。

「加圧、問題なし。空気、問題ないな」
「旦那様の発想はすごいね! まさか亜空間に空気を閉じ込めてるなんて!」
「潜航モードのパイススくんと併用できんが、多少でも魔力を温存できるからな。ああやって結界の中で休むことを考えて樽に詰めておいた」

 こんなこともあろうかと、である。

「キャス、体調はどうだ? 気分は悪くなっていないか?」
「魔力は半分程度、体調なら万全でございます。気持ちは充実しておりますので、やれます」

 衝撃の、ある意味で衝撃の告白の結果、キャスが見栄を張らずに正直に答えてくれるようになった。

「シスもどうだ? めまいや貧血の表情があるなら早めに言えよ?」
「うん、大丈夫! 魔力も八割回復してるよー。でもここ真っ暗で、こわいねー」

 シスが少し弱音を吐くようになった。

 なんだろう、そんなたわいないことが、うれしい。

「よし、最大限警戒し、進むぞ!」

 前人未到の大ダンジョン。
 その最奥の間。
 そこには一体何があるのか……。

 不意打ちに対応できるよう、周囲に盾型結界を展開し操作しながら進むと、ナニカが目の前に現れた。
 あまりにも巨大すぎて認識すら困難なナニカ。

『珍しい。来訪者か?』

 念波だろうか。
 直接脳裏に届くその声に、俺の背筋は凍った。

 その声はまるで日本刀のようにするどく、冷たい。それで頭からつま先まで、念入りに撫でられているような、そんな気持ちになる。

「が、知るかボケ!」

 呪いじみたその念波を気合いでねじ伏せ、俺は姉妹へと振り返る。
 そこにいるは、力なくたゆたう二人。

「キャス! シス! くそっ、今のをアてられて気絶してるか! ペルセウスくん!」

 マスター権限を発動! 二人の生命維持を最優先!
 簡易結界、起動!
 自動回避、起動!

「自律モード、オン」

『人の子よ、何やら変わった芸当ができるようだな』

 二人が海深く沈まないようにコントロール。
 深度、安定。
 バイタル、安定。

『ほう、我を無視するか?』

 よし、単に気絶しただけだ。命に別状はない。
 念のために休憩をしたが、それが功を奏した。二人の魔力が弱まっている所を見ると、抵抗に辛うじて成功したようだ。魔力が少ないままだったら危なかった。
 しかし、まさか海中で物理結界を貫通する思念波攻撃を行ってくるとは予想できなかった。
 俺もまだまだ知識不足だ。精進せねば。

『そうか、では去ね』

 ブツブツと独り言めいた念波を飛ばしていたナニカが動いたことで、それの正体がようやく判明した。

 超巨大なウツボだ。


 目の前の超巨大なウツボが大口を開けて俺の元へと迫りくる。
 ギザギザに生えた凶悪な牙は、それ一本で人どころか、家ひとつを打ち砕くほどの巨大さ。
 開けた口は、小さな村ひとつなら丸々飲み込めそうなほど。

 そして何よりも

 この巨体が前進してくるだけで海流が乱れ、俺たちを押し流そうとする。

『さらばだ、無礼者』

 絶対強者の慢心、いただきました。
 この規模のダンジョンだからと警戒していたが、所詮は融合したての不安定なダンジョンだったようだ。
 思念波を飛ばしてくる以外は巨大なだけのでくの坊。ペルセウスくんですでに全容を解析済みだ。

 魔力を両手に込め、己を叱咤すべく気合いを入れて叫ぶ。

「超大型の相手に最も有効な手立ては、中だ!」

 ただし、人間もそうだが、口の中は意外と固い。
 熱にも寒さにも強い。再生能力も高い。
 そして魚類系の魔物なら痛覚も鈍いか、あるいは無いか。

 ならどうするか。

「簡単だ。それよりも奥の、中身を引っぺがせばいい」

 口は確かに固い。
 だが、食道はどうか?
 胃は? 内臓は?

 生物の内臓なんて、肉の裏にくっ付いているだけだ。ありったけの力を込めれば

「引っぺがせる! オラァ!!」
『何!? なんだその力は!?』

 火水風土雷塵屑星光闇酸灰念……いっぱい。

 とにかく俺の知る大半の属性を『サモンボール』で召喚し、束ね、魔法を紡ぎだす。
 『アーマゲドン』とは異なる究極魔法。

「いでよ、『ブラックホール』」

 呼び出したすべての属性を融合し、反発させ、微調整し、異空間の扉を開く魔法。
 亜空間と同じように思えるが、違う。
 亜空間は今いる時空の亜種で同一世界のものだ。魔力と言うカギで簡単に開く。
 だが、異空間は時空そのものが異なる別世界だ。アクセスするには、今いる空間そのものに乱暴に穴を開けなければならない。
 それでつながった先は、もしかすると地球かもしれない。そんな魔法。

 かつて、逃避の果てに、地球とここをつなげれないかと試行錯誤した末に編み出した禁術。

 異空間だからつながった先とこことで連続性はない。物質が異空間を通り抜けることがないのだ。しかし、強力な吸引は『ブラックホール』の名の通り存在する。

 つまり吸い込まれたが最後、異空間との見えない次元の壁に挟まれてすりつぶされ、チリとなって原子すら消滅する。

「この魔法の利点は、全部の属性を使わずとも扉を開けられる点だな」

 だから『アーマゲドン』よりもはるかに負担が少なく、発動も早い。ただし魂までは分解できない。
 魂のない自律兵器であるダンジョンマスター相手にそこまでする必要がないからな。それは前回で学習済み。

 そして消耗が激しい今の俺にはピッタリの魔法だ。

「ついでに、お前みたいなデカブツにもな! いけ、スクナビコナ!」

 名付けて一寸法師作戦。
 俺の放った、俺と同サイズの『ブラックホール』が大口を開けたウツボの中へとのみ込まれる。
 そしてそれなりに飲み込まれたころ、内側からすべてを食らい尽くすかのように吸いこみが始まる。

『オゴ!? オゴウアオオオオオオオ!?』

 己の内側から食い破られる気分はどうだ?
 最高か? 最高だろう!?

「さぁ、叫び、ふるえ、恐怖しろ!」

 俺の女をビビらせた罪は何よりも重いぞ!!


「苦しんで、死ね!」
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