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第二章
22
しおりを挟む「お嬢はお前を探して旅に出たと仰っていたが、そういうことか」
「家族の汚点を払しょくするため、なんて健気なんだ。嫁に来てほしいよ」
「ならば、ここで死んでもらう! うぉぉぉぉぉぉ!!」
……ブチィ!
黙って聞いてりゃ何なんだこいつらは!!
「シネ」
真夏の日差しを集光させた光魔法の光線で、剣を掲げて走ってきた男の四肢を付け根から切断する。
鎧を着こんではいたが、抵抗らしい抵抗などなく、あっけなくその男はダルマとなった。
「ぎゃあああああああああああああああ!?」
「ま、魔法無効化の鎧が効いていない!?」
「ななななな!? なんで!? どうして!?」
強気だった理由は、魔法無効化の鎧を着ていたからなのか。
なんか急に、冷めた。
そいつらに興味を失った俺は、ホテルの方向へ足を進める。
「キャス、シス、行くぞ」
「はい」
「うん」
二人もブリザードな視線で芋虫になった男と地べたに這いつくばる腰の抜けた野郎二人を一瞥してから付いてくる。
あぁ、そうだ。
首だけで振り向き、一言警告する。
「もう二度とツラ見せるなよ?」
妹とは言え、付き合う相手を選ばないヤツはダメだ。
「お兄さま。……はい!」
……、軽いな、妹!
まぁいい。あいつもブラコン気味だったけど、兄離れしたんだろう。
寂しくはあるが、どの道故郷を捨てた時に一緒に捨てたものだ。今さらになって気にする必要もなかろう。
そして数歩歩いたが、腕を引っ張られて歩きにくい。
「おい、キャス、引っ張るな。歩きにくいだろ」
珍しくキャスが俺に寄りかかって腕を引っ張ってくる。普段はここまで積極的ではないが、あの敵性存在を見て何か思う所でもあったのだろう。
だが歩きにくいので注意はする。
……したのだが、引っ張るのをやめない。
いい加減にしろと視線を向ければ……
……、ってぇ!
「久しぶりにお兄さまと歩けて、幸せなのです」
ホワイ?
あれ? 今俺ってば「二度とツラ見せるな」って言ったよね?
「ままま、待ってくれ!」
今度は野郎どもも来たんだが?
「今度は首だけ空を飛んでみるか? 二度とツラ見せるなと言ったよな? ナメてんのか? ア?」
「ヒィィィ! あ、あんたじゃない! あんたにゃ逆らわない! 待ってほしいのはナトゥーリア様だ!」
「私?」
「え、ええ。その、どうしてもその男、いいえ! いえ! その方に、についていくのですか?」
「はい」
即答!
「ご主人様の即答グセは、実は遺伝だったのでしょうか?」
「かもしれないね」
そんなわけないだろ。
少なくとも父上は、あれで結構優柔不断だったぞ。
「わ、我々は! 我々はどうすればいいのでしょうか! 旅の始まりからずっと勇者ナトゥーリア様にお仕えした、我々はぁ!?」
……、勇者ナトゥーリア様?
「薄々そんな気はしていたが、お前、勇者だったのか?」
「お兄さまと比べたら大したことのない称号でしょうけど、そうなのですよ」
「ナナ、ナトゥーリア様! 従者としてお仕えし続けた我々の献身を」
「いらないのです」
ばっさり。
「ついてきたいというから同行を許可したにすぎないのです。最初っから迷惑だと言っていたのです」
「そ、そんな……」
いや、まぁ。
なんだ?
妹がヤサグレてんだが?
「おや、これはどんな事態ザマス?」
「出たなマッケイン」
「今回は本当に偶然ザマスよ、坊ちゃん」
本当かよ。こいつも相当にうさん臭い。
疑ってもキリがないし、調停には便利な人材だからいいか。
ついでに巻き込んでやれとばかりに今ほどにあった出来事を伝える。
「実はな……」
ナトリにいきなり襲われたこと。
それが幼い頃からやっていたこと。
それを見て勇者の従者とか抜かす連中が勘違いして襲い掛かってきたこと。
うち一人を四肢切断のダルマにしたこと。
全部話した。
「はー、なるほどザマス。では立ち話もなんですから、お食事でもとりながらすり合わせするザマス」
「食事か、悪くないな。腹も減ってきたし」
「それは良い意見なのです、マッケイン」
ナトリはマッケインのこと信用してるな。
出会ったころから俺を信奉していた風のマッケインのことを気に入っていたようだし、対応に違和感はない。
恋愛感情的なものは……、なさげだ。
「それで坊ちゃん、あのゴミクズ、いえ失礼、勇者の従者だったゴミクズを治療していただけないザマスかね」
言い直せてないんだが、それはお前的にどうなんだよ。
いや、それよりも治療ダァ?
「……、なんでだ?」
「その方が面倒が少ないザマス」
チッ。こいつ、俺のコントロールの仕方を分かってやがるな。
ったく、しゃーねーな。
「ヒ、ヒィィィ!!」
「うぜぇ、黙ってろ」
前衛、というか騎士なのだから腕くらい自然とくっつくものだろう。
はー、めんどくせ。なんで四本とも切り飛ばしたんだ、俺。
「ほれ、『リザレクション』」
「ぐ、がぁぁぁぁぁ!?」
「う、腕が!」
「まさか、くっ付いたのか!?」
それは、くっ付くだろう。そう言う魔法だ。
「これでいいのか? マッケイン?」
「ええ、大丈夫ザマスよ。治療費も含めて最高にふんだくって見せるザマス」
なんて悪い顔で笑うんだ。
今は頼もしすぎて、すべてを任せて家に帰りたくなる。
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