騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 ――料亭の一室。

「今この時をもって、勇者パーティは解散します」

 ナトリのドストレートな物言いにクソ従者トリオは愕然とした表情を浮かべ、その後お約束のようにガックリとうな垂れた。

「あー、ナトリ。飯がまずくなるんだが?」

 しかし今は食事中だ。
 見ず知らずのゴミの不幸で飯が食えるほど俺は達観できていない。
 ヒトではないモノの不幸など、おいしくはない。

「お兄さまはあまいです。この人たち、誰を敵に回したのかも分かっていないのです。愚か者たちなのです。ハンギングするのです!」
「吊し上げるって、物騒な」
「四肢切断したお兄さまに言われたくないのです」

 だよねー。
 アレは我ながらやり過ぎてドン引きだった。
 ただこの手の差別主義者は亜人に対してもそう振る舞う。今は見た目を偽装しているとは言え、姉妹がいつ亜人だとばれるか分からない。
 聞く耳を持たない輩は早めに殺処分するに限る。

 これ、俺の経験則な。

「坊ちゃん、ナトゥーリア様、少々よろしいザマスか?」
「なに? マッケイン?」
「この者たちに制約を課そうと思ったザマスよ。この先、話した内容の一切を漏らさぬようにするザマス」

 妹は、「ふーん? いいですよ」と軽く答えているが、制約の魔法はピンキリだが、最も軽いものでも破ると歩けないほどの激痛が走る危険な代物だ。
 それを簡単に許可してみせるとは、よほど怒っているのだろう。
 もしくは、さすがに騎士だから制約くらいは守ると信じているのか。

 あ、多分前者だな。こいつらのことをそこいらのゴミ程度にしか思ってない目だわ。
 我が妹ながらこわいな。

 俺も同じような目をしているだろう。それにしても、俺がいない間にナトリの周辺に何があったのか気になってくるヤサグレ具合だ。

「制約の内容は、ここでの話を外に漏らさないザマス。手話、筆談、念話も全て封じるザマス」
「なにを言われるか分からなくて怖いが、承諾します……」
「これは君たちを守るためでもあるザマスよ」

 ……、ん?
 そうなのか?

 今のマッケインの言葉が分からなかったのは三バカも同じらしく、リーダー格の男がおずおずと挙手をしていた。

「どういうことか、それを聞いてもよろしいですか?」
「もしここで何があったかを聞かれても、制約により話せないと、あなたたちは答えらるザマス」

 当たり前のことを答えるマッケインに、しかしその裏の意図を全員が把握し息をのむ。

「つまりそれだけ危険な内容であるのですか?」

 殊勝なその問いかけに、マッケインはニタリとした粘っこい笑みを浮かべている。

「しがない、いち商人ごときに敬語は不要ザマスよ? 坊ちゃん相手のようにため口で結構ザマス」
「そんな! かの血戦騎士、赤のマッケイン様にそのような口はきけません!」
「元、ザマス。それはともかく、制約をするザマス」

 懐かしい二つ名が出てきた。
 赤のマッケイン。血戦のマッケイン。血のマッケイン。
 少数で一か月も魔物の大進行を食い止め、英雄的働きをした騎士団の一人にして、唯一の生き残り。

 そういや、こいつが商人になりたかったのは、その当時に補給線が途絶えて仲間が飢え死にしていく様を見ていたから、だったか。
 補給線を途絶えさせてしまった騎士の国を、マッケインはもしかすると恨んでいるのかもしれない。
 そんなことおくびにも出さないが、何となくそんな気がした。

「では成立ザマス。もしここでの内容をもらせば、命はないザマス。もっとも、制約していなくてももらせば命はないと思うザマス」
「そ、それで。ここまでするのですから、どのような内容でしょうか?」
「おい、待て! いっそこのまま聞かずに帰る方がいいんじゃないのか?」
「僕もなんだかイヤな予感がする……」

 従者のゴミ連中は話の本題に入る前からもう腰が引けている。
 これが勇者の従者か。
 あの国は、今もそれほど変わっていないのだと、そんな事をそいつらの反応から感じた。

「なぁ、ナトリ? あいつらそもそも何者なんだ?」
「それよりも、お兄さま、ほっぺにソースがついていますわ。ふいて差し上げます」

 露骨に話を逸らされてしまったが、おっと、これはこれで恥ずかしい。
 拭おうとハンカチを探しているところで、横からたおやかな手が現れ頬を撫でる。

「サササッ。ご主人様、きれいになりました」
「ああ、サンキュ、キャス」

 キャスは気が利く。俺がハンカチを取り出す前に事を成してしまった。

 そして妹よ。もうふいてもらったから大丈夫だ。

 大丈夫だから布をゴシゴシとこすり付けてくるな!!
 摩擦で痛いし熱いわ!!

「なにすんだよ!? 燃えるわ!」
「お兄さまのいけず!!」

 久しぶりに聞いたな、そのセリフ!?

「フフフッ」

 キャスも笑ってないでなんとか言えよ。
 いや、待って。なんでキャスがものすごい冷えた目でナトリを見ているんだ?
 ナトリもそれに答えるように、腐った魚のような目で見返している!?

「一体何が起こっているんだ……」

 分からない。
 なら、どうでもいいか。

 で、向こうはどうなったんだ?
 マッケインたちの様子を見れば、怯え慌てふためく三バカが目に映った。

「あ、わわわわわわ!?」
「俺たちは、なんてことを!」
「頼みます! お願いします! 助けてください!!」

 ……なんか、大の大人三人がマッケインに泣きついているな。
 マッケインは心底迷惑そうな顔で手を払っている。

「それが無知にたいする報いザマス。それに、すがる相手が違うザマスね? 俺は当事者ではないザマス」

 こわっ!
 そしてこっちに振ってくんな!

「カイ様! 今までのご無礼をお許しください!」
「靴でもなめます! 何でもします! どうかお慈悲を! うちには嫁入りを控えた妹がいるんです!」
「ケツでも何でも差し出します! だから、だからどうか!」

 マッケインは一体何を話したのか。
 あと、ケツはいらん。騎士にとって最大の屈辱的行為だとしても、絶対にいらんから!

「坊ちゃんの今の正確な立場を、証拠を含めて一切合切話したザマス」
「それで、この反応? 過剰すぎないか?」

 そこでなんでため息を吐く。

「境遇故に、坊ちゃんは自分を客観的に評価できていないザマス。普通の者が知ったら、だいたいこんな反応ザマスよ」
「そうですよ。お兄さまはすごいのですよ。だって、お兄さまなのですから。ですよね?」

 うん、そうね。

 お兄ちゃん、お前の言うこと、さっぱり理解できないよ?
 シスも似たような感じだったし、妹ってこんなもんなの?
 違う? あ、そう。キャスは違うって思うのか。
 ならこれがナトリとシス特有の行動ってわけね。

 今の俺はきっと、梅干を目の前にしたような顔をしているだろう。理解不能な事態に、顔面が中央に集まりゆくのを感じる。

「確かにご主人様は、ご自身を過小評価しているきらいがありますね」
「いつも自信満々なのに、妙にネガティブだよね?」

 ここぞとばかりに好き勝手言われる。

 うるせいわ!
 こちとら中身は前世の頃から小市民なんだよ!
 見栄ハってツッパってんだよ、察しろ!

 言いたいことはあるが、めんどうになった。

「こいつらの処分はマッケイン、お前に任せる」

 めんどいし。

「ご命令、受け賜ったザマス」

 これにより、さらに明確に俺とマッケインの関係が明らかになったからか、従者三バカは顔面蒼白で気を失いそうだ。

 マッケインのヤツめ、これがしたかっただけかよ。
 俺に泣いてすがり、それでもダメだと絶望させる。

 よくやったじゃねぇか。

「それでは……、ザマス」

 パンパンとマッケインが軽く手を打つと、直後にドアがノックされる。

「入るザマス」

 おお、マッケイン、格好いいコトしてるじゃないか。
 デキる商人って感じがする。
 うさん臭さが割り増ししている。

「この者たちを、再教育小屋に連れて行くザマス」
「畏まりました」
「念入りに、念入りにっ再教育させるザマス」

 何だろう。
 再教育って言葉が、拷問って言葉に聞こえるなぁ。
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