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第二章
32
しおりを挟む街を守る門番と軽く情報を交わし、街中へ入った時、俺のペルセウスくんに自宅の警備ゴーレムからの通信が入った。
内容を読み、姉妹と情報を共有する。
「二人とも、どうやら家に侵入者があったようだ」
俺の作った半人型の警備ゴーレムが侵入者を捕らえていた。
ペルセウスくん経由で画像も送られてくる。
「相手は素人同然の動きで庭に侵入。そのままあっけなく捕まったのが一日前、昨日の朝か。もう夕方だから二日近く拘束しているな。食事と水は最低限与えている。バイタルに異常なし、と」
念のためにと地下牢を整備しておいて正解だったか。
注文してなかった地下牢があった時には驚いたが、偶然にもあって良かった事態になった。
いや、そもそもこうなるのを見越してマッケインはあの家に地下牢を作ったのか?
「マッケインならやりかねないな」
これこそまさに、こんなこともあろうかと、だ。
下手人とご対面。
太い眉が特徴的な少年と、茶髪がウェーブした少女。警備ゴーレムの報告に添付してあった画像の通りだった。
薄汚れてはいたが、二人ともかなり上等な衣服をまとっている。明らかに貴族の関係者だ。
「おーおー、立派なお召し物じゃないか」
「くっ、貴様! 僕たちをどうするつもりだ! あと、あの便座なんなんだ!? 気持ちよかったぞ!」
「あんなの初めて……、ポッ」
そうか、気持ちよかったのか。
その様子は録画してあるから、あとで確認しよう。
さて、どうする、ねぇ?
「お前、ここが俺ン家だって分かっててデカい口叩いてんだろうな?」
「そ、そんな……ついこの前までは廃墟同然の空き家だったのに……」
手引きしたのは少年の隣で震えている少女の方か。
で、まぁこいつらが何者かはだいたい見当がついている。
なんせ街に入る時に
「二等級冒険者、カイ様。伯爵家ご令嬢が行方不明なのです。お見かけしたらどうかご一報をお願いします」
と門番に言われたから。
つまりこいつらが伯爵お探しのご令嬢と、おそらく婚約者くんだろう。
「ドルチェは悪くない! 悪いのは、僕だっ!」
「はいはい、お涙頂戴は結構だからとっとと名乗れ」
「何を!? 貴様は平民だろう! そちらから名乗るのが筋ではないか!」
ほーん。
いい度胸じゃねーか!
「俺が平民だったとして、お前は人んちに不法侵入してきたコソドロだが? この場合、この街での法律ではどうなってた?」
「この街での不法侵入は重罪です。縛り首でしょうか」
「死刑?」
庶民の家に貴族が不法侵入したていどでは、そこまではしない。
平民同士でも、盗みがなければ大体なぁなぁで済む。
今は脅したい気分だったから、敢えて否定をしない。
「名乗りたくなきゃそれでいい。明日朝にでも憲兵に突き出すまでだ」
「ままま、待って! 待ってくれ! それは困る!」
人様の家に勝手に上がり込んで何抜かしてやがるのかね、このお坊ちゃんは。
「済まない、本当にこの場所に新たな家が建っているなんて知らなかったんだ」
だとしても、新築に忍び込むだろうか。
あ……、そう言えば偽装でボロ風にしてたんだったな。
ここは強引に押し切ろう。
「知らなけりゃ許されるのか?」
「ゆ、許されない……。済まなかった」
ここで折れる辺り、それなり以上の教育を受けたお坊ちゃんだとうかがえる。
「僕の名はゼンベン。カーデオル子爵家の次男だ」
「私は、ドルチェ。ハーマイン伯爵家の次女です」
カーデオル子爵は知らないが、ハーマイン伯爵は有名だ。
なんせこの街がハーマイン、街の領主の名前がそれだ。
「ずいぶんご大層なご身分だが、そんな身分の自分たちが何をしたのか、立場を分かってんのか?」
「そ、それは……。仕方がなかったんだ!」
知るかボケ! 勝手に人様巻き込んでんじゃねーぞ!
と、叫びそうになった瞬間、キャスに手を引かれてしまった。
「なんだよ、キャス」
「ご主人様、あちらで……」
お、おう。
知らない内にキャスがとても積極的になっている。あの夏が彼女を大胆にしたのか。
「サイレントフィールド。ご主人様、これはチャンスではないでしょうか」
「チャンス?」
「はい。ここにご主人様が海洋都市へ移動することとなった原因がいるのです。いっそ丸め込んではいかがでしょうか」
あの夏を経て、彼女は、腹黒くなった。思ってたのと違うッ。
情報を整理しよう。
伯爵令嬢は逃げ出した。その理由は、おそらく俺との婚約騒動。
隣の少年は元々この少女の婚約者。
愛の逃避行ね。
まさかシスが出がけ前に言っていたことが、違う形で実現するとはな。
「そうか、二人が認められれば俺も今後婚約者だ何だとわずらわしい思いをせずにすむか」
「はい。後顧の憂いを断つためにも、手間をかけるのは悪くないと思います」
腹は決まった。
決まったが、腹を意識したらまだメシを喰っていないことに気が付いた。
どうにも、下手人に会うのに思ったより緊張していたようだ。
頭をガジガジとかき、気分を入れ替えてから少年たちに提案する。
「あー、ところでお前ら、腹減ってないか?」
ぐぐぅぅぅ~~~。
「あっ!」
牢屋は一日一食しか出してないから、育ち盛りには厳しかろう。
腹を押さえ恥じ入る少年少女に共に食事をとるように提案をする。
俺が善人であると錯覚させるよう、そんな所作で。そんなほほえみで。
元貴族のほほえみ、見せてやる。
「身分が割れたところで、そうだな。話くらいは聞いてやろう。どうするかはその後で決める」
「は、はひぃ……」
「お、おおおお、お願いします。言うことを聞きます!」
なぜか怯えられてしまった。
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