騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第二章

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 牢屋生活を入れて四日ほど逃亡生活をしていた二人は、大層汚かった。
 仕方なく風呂を沸かし、入れてやる。
 なおこの家の風呂は来客に備えて男女別になっている。

 一緒に入ってもみたが、風呂場では特に話すこともなく、世話をしろと言われることもなく、食事となった。
 貴族でありながら騎士だからか、自分のことは自分でするようだ。

 だが、やはりお貴族様か。
 食事中も一切の会話がない。

 しょうがないので、食事が終わり一服のタイミングで話を切り出した。

「で、だ。改めて、どうしてこの家に忍び込んだ?」
「え、と……」
「言わないのであれば……」
「分かった、言う! 僕らは逃げ出してきたんだ。彼女がその、悪徳魔法使いの手によって無理やり婚約者にされそうになったから!」
「ゼンベン様……」

 あー、ヒシッと互いの手を掴んで独自の雰囲気作るの、やめてくれる?
 ガキんちょ相手でも俺、容赦しねーからよぉ。

 しかし、俺のことは悪徳魔法使いとして伝聞されてるのか。

 無理やり婚約者に、のくだりは正しくないが、俺の悪いイメージが付いて回っているようで安心する。
 俺の思い込みではなく、この世界が腐っているのだと、こういう噂から確信できる。たしかな自信につながる。

「だから、しばらくでいい! 匿ってくれないか? 褒美なら後で、そう、後になるが必ず支払う」

 何を言い出すかと思えば、まさかの空手形。
 俺ならこんなヤツに領地を任せたくない。

 ハーマイン伯爵家は長男がまだ二歳の赤ん坊。そして長女は去年十五となりよそへ嫁入りしている。
 だから次期領主の座は、自然と次女と結婚した婿のものとなる。
 キャスから送られてきたその情報をペルセウスくんで受け取りつつ、考える。

 そういう意味では空とは言え魅力的な提案だが……。

「魔法使いなんかにくれてやらない! ドルチェと僕は、愛し合っているんだ!」

 十歳のガキが愛だ何だと結構なことだ。
 とは言え、伯爵家ご令嬢をさらってきたのは評価できる。
 向こうに油断があったとはいえ、かなりリスキーな選択だ。無鉄砲ではあるが、そういう大胆さはきらいではない。
 利用しやすいバカという意味で。

「そうか、それなら手伝ってやらんでもないが?」
「本当か!?」
「だが、先に一つ言わせてもらうぞ。俺は魔法使いだ。その俺に匿ってくれとどの面下げて言ってるんだ?」
「えぇ!?」
「言っとくが、俺もこの家にふさわしいだけの、貴族ではないが、相応の身分を持っている。その上で、先の発言はなんだ?」

 少年の言動が、ただ恋人を取られたくなかった憤り故か、それとも魔法使いに対する偏見か。
 そこだけは見極めなければならない。

 真剣な面持ちで待つこそ数瞬、次には暴言を吐いていた少年は俺の目を見て何を思い、何を感じたのか。頭頂部を俺に見せるよう深いお辞儀をした。

「そ、それは済まないことを言った! 先ほどの言葉は撤回したい!」

 ここで俺に頭を下げられるのか。
 こいつ、案外大物かもしれない。

 伯爵も中々いいヤツに目を付けていたじゃないか。
 俺なんかよりも、よほどこの領地のタメになりそうだぞ?
 俺もさっきの、こいつには領地を任せられないってのを撤回させてもらおう。

「魔法使いそのものに恨みはないのだ。だが、相手が魔法使いだと聞いて……。匿ってもらうのに失礼な物言いをして、済まなかった!」

 ヲイ。

「いつの間に匿うことになってんだよ」

 さらっと未定事項を決定のように語るとは、中々に図太い神経の持ち主だ。視線を逸らしキャスを見れば、キャスも同じ思いなのか、苦笑をしていた。
 キャスのそんな顔にいやされ、冷静さを取り戻す。

「悪いと思ったら平民相手でも頭を下げる。その姿勢は、悪くない」

 俺がそう答えると、少年と少女は互いの顔を見合わせ、光明を得たかのような明るい表情を浮かべた。

 さて、ここから先、どう誘導するか。
 事情を聴きがてら、こちらに都合がよい方向へ舵きりしよう。

「お前ら、そもそも逃げて、その後どうするつもりだったんだ?」

 街の外へ逃げていない所を見るに、単に駆け落ちしたわけでもないだろう。
 突飛なようでいて、芯がしっかりしているこの少年だ。なにか考えがあってのことか?

「僕が、強ければいい。その魔法使いよりも! だから僕は強さを証明するためにティラントの森の奥地へと挑む!」
「なるほど、確かにそれは道理だな。では、その娘を連れだした理由は?」
「時間が、時間が欲しかったんだ! 彼女を巻き込むつもりはなかった!」
「ゼンベン様っ! そんな! 私も共にまいります! どうかそんなことを仰らないで下さい!」

 感心した風を装いながらも頭では別の感想が浮かび上がる。

 それは、普通にあぶないだろう。

 俺の警備ゴーレムごときに捕まった坊ちゃん嬢ちゃんでは、魔物あふれるティラントの森で狩りをするのは無茶がすぎる。
 このお転婆お嬢も街中では顔が知られた有名人らしい。いつ人さらいに会うかも分からない。そんな彼女を置いて単身ティラントの森へと挑むとは、無謀を通り越してただの破滅だ。

 何を、考えているのだろうか?

「これでも騎士として教育を受けてきた身なんだ。きっと、できる!」

 この少年からもれる魔力は、どちらかと言うと魔法使い向きだ。
 キャスもシスも同じように感じ取ったのか、渋い表情を作っている。

 かつての俺のように、素質が魔法使い寄りであることが負い目となっているのか。
 少年の焦りは、もしかするとそこから来ているのかもしれない。

 そうなると、なるべく恩に着せて、なおかつ平和裏に解決するには……。

「おし、分かった! 俺が手助けしてやろう!」
「……いえ、結構です。匿っていただけるだけでじゅうぶんです」

 どの立場でテメーは拒否ってんだ? ああん?

 やべ、思わずブチギレるところだった。

「おいおい、勘違いするなよ。俺がティラントの森でお守りをし、引率してやるって意味じゃない」
「なら、どういう意味なんだ?」

「俺が、お前を鍛えてやるよ。ただしこちらの条件を飲めたら、だけどな」

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