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第三章
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しおりを挟む学園都市だけあって学ぶ姿勢が強い連中が多いのは分からないでもない。
だが、あんなふうに人を取り囲むのはモラルもマナーもなっていない。学者としては正しい姿勢なのだろうが、巻きこまれたこちらはたまったものではない。
ああいうのは、俺に関わらない所でするか、俺が反撃して殺してしまってもいい所でやってもらいたいものだ。
「敵意は感じませんでした。しかし、あの得体の知れなさは一体なんだったのでしょうか?」
なんとなく、マッドサイエンティストという単語が頭をよぎった。
キャスが図書館の出入り口のドアを開けたので、サッと外へと出る。連中と同じ場所の空気をこれ以上吸いたくない気持ちが俺を早足にさせる。
キャスも同じ気持ちなのか、中の空気が外へと漏れ出てこないようにと祈るほどの丁寧さでドアをピッタリと閉じる。
図書館を振り返る。
入るまでは学園都市の英知が集う輝ける場所だなんて思っていたが、今はドンヨリじとじとしているように見える。
それを振り切るように、俺は図書館の前庭へと歩を進めつつ、再度シスについて確認を取る。
「それで、シスの具合はどうなんだ?」
「注目されたのがダメだったみたいで、図書館を出るまでは真っ青な顔色でした」
相変わらずの人見知りか。
生まれから今までを思うと仕方がないだろう。むしろキャスの方が平然としすぎていておかしい。
いや、おかしくないか。こいつも極端で、俺以外には厳しく当たる。まるで他人を物を扱うように考えている節が時折伝わってくる人間不信っぷりには歪みがない。
あれ? それっておかしくないか?
おかしいのがおかしくなくて、それがおかしい?
うーん。
天狐姉妹も俺同様、いい感じに性格が歪んでるなぁ。
ペルセウスくんで位置を把握していたので、シスとはすぐに合流できた。
心配顔のキャスがシスの顔をのぞき込みながら声をかける。
「システィ、調子はどう?」
「うん、大丈夫だよ?」
声の調子からすると本人の言う通り具合は悪くなさそうだ。
シスは学園都市の分厚いパンフレットを閲覧していた手を止めてこちらに向く。
「で、シスは一体どうして人に囲まれたんだ?」
俺と同じようにシスも妙な集団に取り囲まれたらしい。
しかし、俺と違い転生者でもないはずのシスが一体どうして注目されたのか……。
まさかシスも実は転生者だったのか、という疑問がよぎり、しかし次には解消された。
「その人たち、耳をジッと見ていて……」
頭のてっぺんを押さえるシスに、先の疑問とは別の懸案事項がうまれた。
いや、まさかと思うが。
顎に手を当て撫でながら、シスの頭部を見る。
異変は見当たらない。
ペルセウスくんでも確認するが、やはりシスのコルウスくんは正常に作動していた。
キャスもグルリとシスの周囲を回って確認をしているが、俺と同じく異変を見つけられなくて肩を落としていた。
「そうなると、まさかコルウスくんの認識阻害が見破られたのか?」
「ううん、たぶんまだ破られていないと思う。違和感があるなーって感じで、じーーっと見つめられたの」
あのオッサン共にそんな事されりゃ確かにコワイな。
まだ可愛さで注目を集めたって方が健全だ。
いかん、どっちにしても想像しただけで鳥肌が立つ。
鳥肌が立った二の腕をさする。
しかしここはナァナァで済ませていい場面ではない。腕のかゆみを堪えてキャスに確認を取る。
「キャスは、その視線を感じたか?」
「いえ、私は感じませんでした」
そうなると、まったく同じ装置を付けているのに、シスだけ注目されていたのか。
要検証だ。
「もしかしてシスティの魔力が高すぎて、それが違和感になっているのかもしれません」
「そうか。偽装もしすぎては違和感につながる。しまったな、これは俺の失態だ」
わずかとはいえ、ペルセウスくんもコルウスくんも使用者の魔力を喰っている。
その質と量の差を調整しなかったのが、今回の不自然につながってしまったと考えられる。
そのわずかな違和感に気付く。
得体のしれないオッサン共も、腐っても学園都市の学者だったという事か。
中々やるじゃねぇか。
「そんなことないよ! 旦那様はいっつもすごいんだから! 悪いのはわたし」
「誰が悪いって話じゃないな。強いて言うなら魔道具を調整せずに渡した俺のミスではあるが、まだバレていないのであれば大した問題でもないぞ」
シスの頭を撫でて慰めつつ、この後を考える。
コルウスくんの微調整か。偽装を解除しないと行えないし、ホテルに戻ってからになる。
「一旦ホテルに戻るぞ。それから微調整だ」
「う、うん……」
シスの返事にいつもの元気がない。
よく分からんところで引け目を感じるヤツだな。
なんて思っていたが……。
ホテルに戻り、シスのコルウスくんをいじっていて判明した。
「シス! お前、勝手にコルウスくんの設定を勝手にいじったな!?」
「ひえーーん! ごめんなさーい!! 見た目が変わるのが面白くって、ついっ!!」
殊勝な態度はそのせいだったか!
こんにゃろめ!
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