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第三章
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――学園都市、図書館。
外見は普通の巨大な建物だが、中は大英図書館のように円形で、中心から外へ向けて放射状に本棚が並んでいる。
本を隙間なく並べる事よりも、人が移動しやすく、調べやすい構造を目指した形なのだろう事が伺える場所だった。
だが、魔法には検索魔法もある。それさえあれば本来はこんな無駄の多い構造にしなくてもいい。しかもその魔法は比較的簡単だ。実際に冒険者ギルドや商人ギルドでは採用されている。
そんなものさえ採用されていない所を見るに、どうやらこの都市でも魔法使いはまだまだ市民権を得るに至っていないようだと嘆息し、外周にある学習スペースの一つへと向かう。
ほどなく発見し、キャスがこちらに気付き立ち上がろうとしたのを手で留め、笑顔で待つ彼女の隣に座る。
「ご主人様、お疲れさまでした」
「おう、待たせたな。ちょっと向こうの担当者が西〇カナだったんで」
「西〇カナ様、ですか?」
「……いや、それは忘れてくれ」
通じる訳もなく。
こういう時、他の転生者や転移者がいないと通じなくてつまらないと、思わなくもない。
いや、どう考えても騒動の元だから会いたくはないんだが、それでも前世ネタが通じる相手がいると嬉しいだろうな。
これが郷愁の想いなのだろう。騎士の国よりも日本に郷愁を覚える辺り、俺もこの世界で中々に業の深い人生を送ってきたと振り返ったりする。
遠い目をする俺を心配げに見たキャスは、そこには触れるべきではないと判断したのだろう。
すぐに真面目な顔へと戻り、俺に今日の成果を教えてくる。
「ご主人様、こちらに発掘された魔道具、アーティファクトと呼ばれる遺物のリストと簡単な効能がのっています」
百科事典ほどのサイズがある本を受け取り、キャスが印を挟み込んでいたカ所をひらく。
どれどれ……。
冷蔵庫、洗濯機、なぞの水がでる四角い箱、回転する柄がついた小型の武器らしきもの……。
なぞの水がでる四角い箱は、イラストから察するに食器洗浄機だ。
回転する柄がついた武器のようなものは、ドリルドライバーかと思ったが、これは自動泡だて器。
同じカ所から出土したものらしいし、台所用品が固まっていたのだろう。
「こうしてみると興味深いな」
前世界的な意味で。
あるいは、先人転生者の軌跡として。
違う印の部分を開く。
今度は何やら泥臭いイラストが多いページが現れた。
「こっちは、イラスト的に戦車か? いや、違うな……。なんだろうか」
「あ、あの、ご主人様?」
「キャタピラ……、アーム? ああ、ショベルカーか」
そうなるとこっちは一輪車だろうか。
フレームに車輪が一つだけついている。
それにしては形状が……、そうか、側面からのイラストで分かった。受けの部分が変形するのか。これは面白い。
変形する時すき間にゴミが入りそうだが、そこはどう解消しているのか気になるな。
「ご、ご主人様……」
「なんだ、キャス。図書館では静かにしろよ」
「いえ、その、周りをご覧ください」
周り……?
見回すと、十人近いオッサンに取り囲まれていた。
「どわぁ!? なんだ? なんなんだ、お前ら!?」
いかん。どうやら公共の場だからと少々油断していたらしい。
こいつらがNINJAだったら今頃俺はSATSUGAIされていた。
冷や汗が額を流れる。
戦々恐々としている俺に、もっとも近いオッサンが口を開く。
「それで、続きは!?」
「は?」
「続きだよ! それの正体に見当がついたのだろう!? さぁ、さぁ早く続きを聞かせてくれ!」
バタン。
俺は本を閉じた。
「あぁ!? 本を閉じてどうしようと言うのだい! それでは確認できないじゃないか!」
うっせー!
近づいてくるオッサンの顔面を張り手で押しのけるが、その感触さえ不快だった。
「帰るぞ、キャス」
「は、はぁ……。はい」
よく分からん謎のオッサン集団に取り囲まれていては落ち着いて調べ物もできない。
そんな思いをオッサンたちと共に振り切って、俺は早足に出口へと向かう。
幸いにも誰も追いかけてはこず、オッサンたちはすごすごと自分の元居た席へと帰っていった。
それを確認してからぼやく。
「一体なんだ、ここは。殺気も怒気もないから全然気づかなかったぞ」
敵意、悪意には敏感だが、相手の好奇心にまで俺は反応したりはしない。
その結果、あの得体のしれない事態に陥ったと思うと、何か対策したくなるな。
「シスも同じように取り囲まれまして、今は図書館前の公園で休んでいます」
「シスもかよ。いや、シスだからこそなのか? しかし、外を歩いていた時にはシスに気付かなかったが、あいつは人目につかない物陰にでもいるのか?」
シスも災難にあっていたようだ。
ペルセウスくんで所在を確認。巨大な木の陰になる場所にいるのが分かった。
外見は普通の巨大な建物だが、中は大英図書館のように円形で、中心から外へ向けて放射状に本棚が並んでいる。
本を隙間なく並べる事よりも、人が移動しやすく、調べやすい構造を目指した形なのだろう事が伺える場所だった。
だが、魔法には検索魔法もある。それさえあれば本来はこんな無駄の多い構造にしなくてもいい。しかもその魔法は比較的簡単だ。実際に冒険者ギルドや商人ギルドでは採用されている。
そんなものさえ採用されていない所を見るに、どうやらこの都市でも魔法使いはまだまだ市民権を得るに至っていないようだと嘆息し、外周にある学習スペースの一つへと向かう。
ほどなく発見し、キャスがこちらに気付き立ち上がろうとしたのを手で留め、笑顔で待つ彼女の隣に座る。
「ご主人様、お疲れさまでした」
「おう、待たせたな。ちょっと向こうの担当者が西〇カナだったんで」
「西〇カナ様、ですか?」
「……いや、それは忘れてくれ」
通じる訳もなく。
こういう時、他の転生者や転移者がいないと通じなくてつまらないと、思わなくもない。
いや、どう考えても騒動の元だから会いたくはないんだが、それでも前世ネタが通じる相手がいると嬉しいだろうな。
これが郷愁の想いなのだろう。騎士の国よりも日本に郷愁を覚える辺り、俺もこの世界で中々に業の深い人生を送ってきたと振り返ったりする。
遠い目をする俺を心配げに見たキャスは、そこには触れるべきではないと判断したのだろう。
すぐに真面目な顔へと戻り、俺に今日の成果を教えてくる。
「ご主人様、こちらに発掘された魔道具、アーティファクトと呼ばれる遺物のリストと簡単な効能がのっています」
百科事典ほどのサイズがある本を受け取り、キャスが印を挟み込んでいたカ所をひらく。
どれどれ……。
冷蔵庫、洗濯機、なぞの水がでる四角い箱、回転する柄がついた小型の武器らしきもの……。
なぞの水がでる四角い箱は、イラストから察するに食器洗浄機だ。
回転する柄がついた武器のようなものは、ドリルドライバーかと思ったが、これは自動泡だて器。
同じカ所から出土したものらしいし、台所用品が固まっていたのだろう。
「こうしてみると興味深いな」
前世界的な意味で。
あるいは、先人転生者の軌跡として。
違う印の部分を開く。
今度は何やら泥臭いイラストが多いページが現れた。
「こっちは、イラスト的に戦車か? いや、違うな……。なんだろうか」
「あ、あの、ご主人様?」
「キャタピラ……、アーム? ああ、ショベルカーか」
そうなるとこっちは一輪車だろうか。
フレームに車輪が一つだけついている。
それにしては形状が……、そうか、側面からのイラストで分かった。受けの部分が変形するのか。これは面白い。
変形する時すき間にゴミが入りそうだが、そこはどう解消しているのか気になるな。
「ご、ご主人様……」
「なんだ、キャス。図書館では静かにしろよ」
「いえ、その、周りをご覧ください」
周り……?
見回すと、十人近いオッサンに取り囲まれていた。
「どわぁ!? なんだ? なんなんだ、お前ら!?」
いかん。どうやら公共の場だからと少々油断していたらしい。
こいつらがNINJAだったら今頃俺はSATSUGAIされていた。
冷や汗が額を流れる。
戦々恐々としている俺に、もっとも近いオッサンが口を開く。
「それで、続きは!?」
「は?」
「続きだよ! それの正体に見当がついたのだろう!? さぁ、さぁ早く続きを聞かせてくれ!」
バタン。
俺は本を閉じた。
「あぁ!? 本を閉じてどうしようと言うのだい! それでは確認できないじゃないか!」
うっせー!
近づいてくるオッサンの顔面を張り手で押しのけるが、その感触さえ不快だった。
「帰るぞ、キャス」
「は、はぁ……。はい」
よく分からん謎のオッサン集団に取り囲まれていては落ち着いて調べ物もできない。
そんな思いをオッサンたちと共に振り切って、俺は早足に出口へと向かう。
幸いにも誰も追いかけてはこず、オッサンたちはすごすごと自分の元居た席へと帰っていった。
それを確認してからぼやく。
「一体なんだ、ここは。殺気も怒気もないから全然気づかなかったぞ」
敵意、悪意には敏感だが、相手の好奇心にまで俺は反応したりはしない。
その結果、あの得体のしれない事態に陥ったと思うと、何か対策したくなるな。
「シスも同じように取り囲まれまして、今は図書館前の公園で休んでいます」
「シスもかよ。いや、シスだからこそなのか? しかし、外を歩いていた時にはシスに気付かなかったが、あいつは人目につかない物陰にでもいるのか?」
シスも災難にあっていたようだ。
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