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第三章
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しおりを挟むその沈黙を破ったのは、一人の男子生徒だった。
今まで傍観を決め込んでいた最奥のヤツだ。
獣のように目をギラギラとさせ、遠方から食ってかかる。その声は、意外なことによく通った。
「そんなマヨネーズを作るだけの魔法を教えてもらって、なんになるんだ!!」
まさかもっともやる気のなさげだった最後尾の学生からの訴え。
やる気ないのかと思っていたが、じつは真面目派だったのか。
「七副理事の息子である僕がせっかく冒険者の授業なんて退屈なものを受けているんだ! もっと楽しませろ!」
おや?
おやおやおや?
どうやらあのお坊ちゃん、親の権力振りかざす系か?
ここは魔法使い専門の学院だから、そういう頭の悪いヤツはいないと思ったのだが、甘い考えだったようだ。
「よし、ころすか」
「な、なんだ! 俺の親父は副理事でも最高権威のバミューダだぞ! 分かってるのか!」
「知らん。ころす」
俺はな。
そういうあまったれたお坊ちゃんを見ているとな。
昔の自分を思い出して、吐き気がするんだよ。
俺は親の権力なんて振りかざしたことないが、それでもずいぶんとあまやかされていたと、独立してから気付かされたんだ。
だからこういうお坊ちゃんを見るとこう、背中がかゆくなるんだよ!
「だから死ね」
「お待ちください、ご主人様」
あ? 最近のキャスは反抗的ダナァ?
「学院という学ぶ場なのです。彼には失言のツケがどうなるのか思い知らせ、ゲフン、学ばせてあげるのもよい講師かと思います」
ほほう?
「差し当たっては私にお任せいただければ、なます切りにしてご覧に入れましょう。生皮のかつら剥きもいかがでしょうか?」
「イイネッ!」
「よくないと思うなぁ」
こういう場面で常識人さを発揮するシスは置いておいて、どうするか。
俺たちがどのように拷問、もとい思い知らせ、もとい教育的指導をするかと検討していると、問題の生徒から新たな言葉が聞こえた。
「どうせ大したことない魔法使いなんだろ! ちょっと上級ダンジョン攻略してみせたり、新魔法を開発して生活をゆたかにしたり、どこぞの伯爵に魔法使いの価値を認めさせて、地位を引き上げさせたり!」
それ、大したことないのか?
思わずキャスを見るが、あちらもキョトンとしてしまっている。俺も似たような顔をしているだろう。
「かわいい従者連れてたり、冒険者の中でも相当すごい人だってうわさで、経歴がシビれるほどカッコよくっても!」
ほめられてんのか?
キャスもシスもなんかビミョーな顔をしている。
「でも、なんだよ! かくはん魔法って! 冒険者じゃなくて料理人にでも転向したのかよ! 密かにあこがれてたのに、そんなのってないだろ!!」
……。
シバくの、ちょっとやめてやろうかな。
そっかー。
俺にあこがれてたのかー。
そりゃあこがれの凄腕冒険者が来て、いきなり『調理魔法』を教えます、では肩すかしもいいとこだったな。
「なーんて、思わねーよ!! 学生ごときがナマ言ってんじゃねーぞ!! 『調理魔法』ナメんな!!」
「そんなの、これから冒険者でやっていこうって俺たちには関係ないじゃないか!!」
たしかに名前だけ聞くとそうだ。
だが、こいつは学園都市にいてそんなことを思うのか?
思い込み、先入観。
学徒にとって、それは最大のマイナスだ。
「いいぜ、かくはん魔法の恐ろしさを、お前の身で思い知れ!」
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