騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第三章

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 ――会議室。

「学生たちが遺跡へと潜ったまま、帰ってこない?」

 それが俺となんの関係があるのか。
 沈んだ面持ちの面々を睥睨し、気持ちを乗せて威圧する。

 呼ばれた会議室に入って早々、そんな事を聞かされては温厚な俺もブチギレるというものだ。

 ギロリと「それ、俺関係ないよな?」的な睨みを利かせれば、すくみ上る者たちばかり。最初の勢いはどこへ行ったのか。
 冒険者連中とは違い、こういう所に覇気がないと言うか、処理能力が低いと言うか。
 机にかじりついているだけの連中はこれだから困る。


 そんな俺の威圧に耐えきれず、一人がポツリともらす。

「黙って潜ったのが、その、あなたの講義の受講者だからです」
「関係ないだろ」

 即座に切り捨てる。一考の余地もない理由だったから。

 連中は全員成人していた。
 それならもう、自己責任だ。

 シッシッと手で追い払うようにして関係のなさをアピールするが、なおも職員は食い下がってくる。

「あなたから受講をキャンセルされて皆焦っていたようです」
「知らん」

 そんな愚物まで面倒みきれん。
 そもそもキャンセルしてんだから、既に俺の生徒じゃねーだろ。

 俺があきれ顔でいると、一人の女が歩み出てきた。
 年の頃は三十手前くらいだろうか。スーツを着込んだそいつは、どうやらここの講師の一人のようだ。
 そいつが口を開く。

「そこをなんとかお願いします、坊ちゃん」

 なんとかと言われてもな。

 腕を組み思案をする。受ける必要があるのか、受けずに出る損失はないか。それらを脳内で瞬時に計算し、他に思いつくものはないかと顔を巡らせて女講師と目が合い、微笑むその顔を見て先ほどの発言に今更気付く。

 ……、待て。
 この女、今、なんといった?

「坊ちゃん?」

 おうむ返しに尋ねれば、こちらを優しげに見つめていたのが一転し、所在なさげに視線を逸らす女講師。

 こいつの顔、どこかで見覚えがあるな……。
 坊ちゃんの口癖と言えばマッケインだが、マッケイン以外にも俺を坊ちゃんと呼ぶ者はいた。元領地に残してきた、かつて俺についてきてくれていた連中だ。

 しかし俺が正解にたどり着く前に、女講師の声に思考を遮られる。

「ああ!? いえ、失礼をいたしました、講師カイ様。可能な限り報酬を用意しますのでご協力をお願いできないでしょうか?」
「報酬、ねぇ。特にほしいものは……」

 ないと言おうとしたら、女講師がセリフの途中で口を挟んできた。
 どうして女ってヤツは、俺が話している途中で割り込んでくるのか。

「お、温泉! 温泉はどうです? 特別温泉! 秘湯です! 秘湯に入り放題の権利を報酬に!」
「なんだと!?」

 それはもう、二つ返事で引き受けるしかない。

 キリッ。

 決め顔でイエスと答えた。

 その勢いの所為で坊ちゃん発言は俺の記憶から静かに消えていった。




 しかし、人の探索か。
 遺跡の構内は俺の気配察知と魔力感知でどうにかなるが、負傷していた場合は運び出さなければいけない。
 そうなると人手が欲しい。

 腕を組み思案していると、会議室のドアが強くノックされた。
 怪訝な表情の教師の一人がドアを開けると、その教師を無視してドカドカと入ってきた者どもは俺の前で整列した。

「サー! 失礼します! サー!」

 部屋に飛び入ってきて軍隊式のあいさつをカマしてきたは、俺の講義の生徒たち。
 皆一様に敬礼を行っている様は、まさに天狐式ブートキャンプが活きた証だろう。

 俺の講義のはずだったんだがなぁ。

 しかも、全員が杖を持ち、皮鎧を装着している。
 何故、完全武装済みなのか。
 そのせいで職員たちが全員驚いている。

 そんな職員の戸惑いを一切気にせず、リーダー格の女が俺の視線に呼応するように声を上げる。

「緊急事態と聞いてまかり越しました! サー!」
「なんなりとご指示を、サー!」
「いつでも行けます! サー!」

 女子生徒たちが気合いの入った様相で俺に訴えてくる。

「ぜひ、センセイのお役に立たせてください、サー!」

 つまりこいつらはこの状況を別ルートで把握し、俺の力になりたくてここまで来たのか。

 ほほう。
 それなら話は早いな。

「うちの受講生の問題は、うちの受講生に解決させるがいいか」

 元々冒険者を目指していた連中なのだから、死ぬ覚悟はできているだろう。
 ここで死ぬようなら所詮それまでの人材だった、と言う事で言い訳も立つ。

 よし、それで行こう。

「分かった、救出依頼は引き受けよう」

 立ち上がり、収納ポーチから取り出すと見せかけた亜空間から武装一式を取り出す。
 キャスとシスも同様に取り出している。
 ワンタッチ変身方式だから、装備はあっという間だ。

 ポチっとな、の心の声と共にハーフメイルが現れ体にフィットし、左の腰にはソード、右の腰にはワンドが留め具に収まる。
 最後にお気に入りの赤のマントが背面を覆い、冒険者装備一式で身を包んだ俺、キャス、シスが立ち並ぶ。

 この間わずか三秒。


 唖然とする職員たちを見渡して、それから背を向ける。

「報酬の件、違えるなよ?」

 フワリとマントをたなびかせて歩く。



 ……、キマッタァ……。

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