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第三章
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しおりを挟む――遺跡前。
「こちらが入り口になります」
学園から馬車でニ十分。郊外に位置する所で、遺跡の他に住宅や店が普通に立ち並んでいる。閑静な住宅街の中に突如現れる雰囲気ぶち壊しの古代っぷりは、京都や奈良を思わせる。
その懐かしき光景にしばし呆然としたが、すぐに我に返って周囲を確認する。
見回せば、すでに今回の件で騎士団が対応し、対策本部となるテントを遺跡前に設置していた。
騎士達から漏れ聞く話を総合するに、どうやら行方不明者の中に貴族に連なる者がいるらしい。
その為に物々しい雰囲気となっているが……、俺の知ったことではないな。
案外、そいつの親も知ったことではないと、そう思っているのかもしれない。
行方不明者は冷遇されてきた魔法使いだからな。騎士達の態度や話からするに、体面上、仕方なく人を派遣したと言った風だ。
やる気なさげな騎士団の様子はそんな暗い想像を連想させるに十分な様子。学院側が必死になるのも頷ける。
肩をすくめる俺に、騎士団の連中がにらみ返してくる。
その八つ当たりめいた視線を無視して遺跡の入り口、下り階段をよくよく観察する。
ダンジョンではなく、整備された遺跡だ。足元はしっかりしており、通路にも規則性がある。
通常のダンジョン攻略とは大きく異なり攻略は容易いだろう。
何が必要だったかを脳内で再度確認し、ダンジョンに潜るよりは必要なものが少ないので準備万端だと結論を出す。
事前の準備時間もなく準備が終わっている俺に、怪訝な表情でここまで引率してきた講師が尋ねてくる。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
馬車の中でも問われたが、これで都合四度目だ。いい加減にしろと怒鳴りつけたい。
そこをグッと温泉の為に堪えて、静かに答える。
「地図はキャスが頭に叩きこんでいる。これ以上は時間のムダだ。このムダが伸びる度に人ひとりの命が失われると知れ」
「は、はい! 分かりました! ご武運を!!」
敬礼する女講師に見送られ、遺跡の中へと足を進める。
幾人もの武装した騎士に見守られながら、いや、何かあれば背後を突くと訴えかけてくる目で俺たちを見下している連中に背を向け、遺跡へと潜る。
バックアタックを警戒し、階段途中から生徒たちをシスと共に先に入らせた。
五十段ほど階段を降りると、ようやく床が見えた。
レンガで編まれたその遺跡は、長い年月を感じさせないきれいで厳かな空間だった。
見学ツアーが組まれているのも納得だろう。一体どういう技術で保存されているのか興味があるが、今はそんな状況ではないと頭を切り替える。
上の連中から見えなくなった地点で索敵を行う。
「探知、感知、感アリ……しかしこれは……」
行方不明者のうち二人はすでに死亡。
のこり三名は、別のナニかと共にいる。
生き残った面々も感じ取れる魔力波動が弱弱しく、無事だと言い難い状況だった。
この情報を、ペルセウスくんを介して天狐姉妹と共有する。
「ご主人様」
キャスが何かに気付いたのか、俺に声をかけてくる。
「先ほどの騎士たち、明らかに私たちに殺気を向けていました」
敵味方識別情報の中で、俺は先ほどの騎士たちを要注意とマーカーした。
それを読んで、自分が感じた殺気が間違いではなかったと確信したのだろう。
そのキャスが目で
「戻って、ヤりますか?」
と、うったえかけてくる。
うん、そうね。
「却下」
先手必勝が冒険者の常だが、それは魔物や賊が相手の場合だけだ。
人間の個人相手なら先に手を出した方が社会的に負けだから、そんなうかつな真似は出来ない。
「しかしどうにもキナ臭い」
俺の知らない第三者の介入を感じる。
そもそも入り口で物々しい警備に当たっていたあいつらが騎士なのかも疑わしかった。騎士がよく用いる大型の天幕ではなく、少数単位で使う簡易のテントを並べていたからだ。まるでどこぞの戦士たちみたいに。
何よりも連中のあの目線の荒々しさ、無遠慮さはまるで歴戦の冒険者や戦士のソレだ。
考えても答えが出ないので頭を切り替える。
今は急ぎ、要救助者と合流すべきだ。
時折周囲に興味を惹かれ左右に首を振っている俺と異なり、付いてきた生徒たちは身じろぎすらしていない。
ずっと俺の命令を待っているのも不気味で、思わず早く終わらせて帰りたいと思ってしまったの急ぎたい理由である。
恐ろしく訓練された兵隊、ゲフンゲフン、生徒たちに俺は指示を出す。
「全員、合図と共に二キロ先の要救助者のところまで全力移動だ!」
「サー、イエッサー!」
「その先に、敵がいる。だからこれからは音量を下げ、返事は頷きかハンドサインのみだ。いいな?」
俺の声にシュバッとハンドサインで返してくる生徒たち。
その彼らに、簡易ペルセウスくんを渡し、装着させる。万が一迷子になった時の保険だ。
「よろしい。では、キャス、行け! お前たち、続け!」
キャスを先頭に、俺、シスと、最後尾には低姿勢のままダッシュする生徒たち。
俺の索敵により不意打ちを食らうことはない。だから後方への守りは不要。
ここはダンジョンではないので突然魔物が湧いて出てはこないと踏んでいる為の陣形だ。
ほどなくして、要救助者がいる付近へと到着した。
ハンドサインで状況を共有する。
「要救助者三名。瀕死。敵、十名」
敵はやたら統率の取れた動きをする十人組だった。
魔力で聴力を強化していなければ聞こえないレベルだが
小声で
「前、チェック、右、チェック、左チェック、後ろチェック。オールグリーン」
と囁きながら前進しているのが聞こえた。
どこの軍隊かと。
いや、こちらも人のことは言えないが。
しかしこれで確定した。
連中の背後には異世界からの転生者、ないしは転移者がいる。
俺のように夢を見てこの世界にやってきたであろうチートな同胞。
どんなチートを持っているのか見当もつかない以上、油断はできない。
さて、どうするかとキャスシスに目線を配れば、ハンドサインで意見が飛び出てくる。
「どうしますか? ご主人様」
「魔法でこのままぶっ飛ばす?」
要救助者が生きている以上、ぶっ飛ばすは却下。そうハンドサインで返す。
そもそも俺と天狐姉妹はペルセウスくんでつながっているので、念話方式で会話出来るんだが……。野暮なことは言うまい。
しかし、どうするか。
悩む時間も惜しい程に、要救助者が弱り果てている。
なら、腹をくくって出たとこ勝負にかけるしかないか。
俺特製ポーションを六つ取り出して生徒たちに渡し、ハンドサインで指示を出す。
「いいか? お前たちは俺が合図を送ったら要救助者を二人一組で抱え上げて運べ。それからポーションを飲ませ、一気に安全地帯まで後退。その際に敵勢の警戒を怠るな」
「イエス、サー!」
「いいハンドサインだ」
さて、あとはどうやってあの不可思議な戦闘集団を制圧するか。
今もチェックチェック言いながらこちらに近づいてくる。
「不意打ちには、アレが確実か」
狭い場所での不意打ちで、なおかつ相手が最大限警戒している場合。
最も有効なのは、囮を使う事。
『サモンボール』を作り、それを人型に形成する。
こうすることで、気配察知や魔力感知をごまかせる。
昔、俺がまだ弱かった頃に編み出した魔物の森で生き抜くための術を今、使う。
合計四つのデコイを作り出し、それを先行させる。
「デコイが攻撃されたら俺が突貫。キャスはフォローを、シスはけん制と救助を指示しろ」
「はい、ご主人様」
「分かった、旦那様」
生徒たちにはすでに指示を出している。
さて、準備はこれで整った。
蹂躙開始と行こうか!
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