騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第三章

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 ――数日後。

 国の上層部があわただしい中、それでも学園都市は定常運転をしていた。
 実験で人死にが出るのも当たり前なので、死者が出た程度の今回の件、死者数が少なかったので動揺は少ないらしい。
 遺跡に被害があった事の方が、動揺が激しかったように思う。

 どうなってんだ、学園都市。
 そんなだから鉄の国に付け込まれたんじゃないのか。

 そう思うも、しかし俺も郷に入っては郷に従えの精神で気に留めず、予定通り最後の五回目の講義を終えた。
 この世界で命の価値が安いのなんてよく知っている。それも魔法使いならば余計に。


 俺の講義と言う名の苦行を最後までやり通した生徒たちをねぎらう。

「よし、お前ら。今日までよくついてこれた。そんなお前らに褒美をやろう」
「イエス、サー!」
「よーし、右から順番に取りに来い」
「イエス、サー!」

 名前を聞き、そいつの名前を書面に入れて推薦状を完成させる。
 魔法でインクを乾かしてから、それをほいっと渡す。

「ありがとうございます! サー!」

 それを繰り返すこと九度。
 九人全員に行き渡ったのを確認する。

 教育が行き届きすぎたからか、誰も今の紙が何なのか聞いてこない。
 これはこれでやりにくい。
 一から十まで全部教えなくてはならないのだから。

 頬を引きつらせつつも、俺は威厳ある態度で彼らに接する。
 遠足は帰るまでが遠足。

 立派な彼ら彼女らに恥じぬ講師であるように最後まで振る舞う。

「うおっほん。それはK=インズ商会に就職するための推薦状だ」
「ッ!?」

 今ほどの発言の意味を理解し、生徒たちはおどろいている。
 だが、それでも無言を貫く。気を付けの姿勢も崩れない。
 さすがだ。
 もはや彼らはいつでも軍人になれるだろう。

 俺が推薦しているのは、町工場の技工士や調味料の研究員だったりするのだが。

 そんな感想をのど元から飲み込み、吐き出さないよう注意しつつ話を続ける。

「あそこ、K=インズ商会にはちょっとしたツテがある。それをもって門を叩けば悪いようにはならない。そう言うモノをお前たちに渡した」

 とは言え、K=インズ商会も私設軍隊を持っている。
 こいつらの実力を考えたら、どうあっても軍属に配備されそうではあるんだが。

 あまり考えないようにしよう。

 生徒たちは立ちながら、無表情に努めようとしつつ涙を流している。
 ならもう、いいじゃないか。
 彼らに道は示した。お膳立てもした。

 後をどうやって生きるかは、彼ら次第だ。





 すべてが解決したとは言い難い学園都市での日々も終わりを迎えた。

 秘湯?

 ああ、何にもなかったよ。
 本当に何もなくて、何もなさすぎて涙が出た。
 秘湯が何故秘されているのかを理解した。
 少しだけ、大人になった気分だ。もう十九だけど。


 そう、もう十九だ。
 前世の年齢を上回っている。
 この生きにくい世界で、前世より長生きしている。
 なんだかんだと、チートに助けられた。

「上げたり落としたり、そう言うのばかりだったが、それでもあの神には感謝を捧げよう」

 なぜそんな気持ちにさせられたかといえば、この話だ。

 学園都市に別れを告げ、迷宮都市の家に戻った俺に伝えられたのは、凶報。
 身近な誰かのものではない。
 他国の、本来なら俺の人生と交わることのなかった国。

 一連の騒動の元凶であるらしき鉄の国の皇帝が、崩御した。


「これで当分は静かになるのでしょうか?」

 キャスの声に振り向き答える。

「まさか。むしろ、これからが激動の始まりだろうな」

 新たについた新皇帝は、見慣れぬ女を脇に控えさせていると聞く。
 くすんだ金髪、ギラギラとした目。
 しかしそれをすべて跳ね返す美貌の主。

 騎士の国、ドワーフの国、鉄の国をまたいでの凶行。
 あの悪魔は一体どこまで手を広げているのか。

 聞く人が聞けば間違いなくアイツだと分かるその特徴に、苦み走ったこの気持ちを込めて名前を吐く。

「オーレリア……ッ」

 あいつ、絶対ラスボスだわ。




 ――迷宮都市、ギルド。

「頼む! この通りだ! 助けてくれ!!」

 来るなり早々、暑苦しいヒゲハゲが俺を拝み倒してきた。

「神様カイ様! どうかオレを助けると思って! なぁ、いいだろう?」
「なれなれしく肩を組もうとするな」

 右肩に添えられたムサい男の手を払いのける。
 しかし、俺以上にめんどうくさがりのこの男が人目をはばからずにこのような行動に出るなど珍しい。
 そのあまりの物珍しさに、待合所兼酒場の暇人どもがこぞってのぞき見をしてくる。

 そんな連中ににらみを返してから、俺は仕方なく、本当に仕方がなくギルドマスターであるヒゲハゲにたずねた。

「今度はどんな厄介ごとだ? ここで聞ける話なのか? 鉄の国との戦争なら、俺は参加しないぞ」

 これでも度々世話になっている身だ。できる範囲でなら話を聞かないまでもない。
 そう思っての対応だったが、事は急を要するようでいそぎ会議室へと案内された。

 ドアをくぐるとそこは、死屍累々だった。

 焦った様子のギルマスはともかくとして、三等級冒険者かつサブマスのアベルに、非常に珍しいことだがガルベラも消沈している。
 それ以外にもギルドでそれなりの地位にいる面々もうかがえ、内容が分からぬものの、事の重大さを重苦しい空気によって伝えてくる。

「これは……一体、どんな厄介ごとが起きている?」

 俺の疑問の声に、みなが一斉にギラついた目を向けてくる。

 そこで数名ほど見慣れない顔を発見する。
 今まで顔を伏せていたから気付かなかった連中だ。
 歳は中年から壮年にかけての三名。いずれも貫禄があるので、どこかのお偉方だろう。

 その貫禄ある面々のうち、もっとも年嵩の男が声を上げる。しわがれた、くたびれたサラリーマンのような声だ。

「まさか……、君が、カイなのか?」
「違う」

 めんどうになって思わず即答。

「そ、そうなのか……。ああ、彼は今どこにいるのやら……」

 ここにいる。
 だが、この空気で目当てが俺自身とは穏やかではない。
 ギルマスをにらむが、そのギルマスもくたびれた様子で自身の席へと座る。

「それがカイで間違いないぞ。はぁ、まさかこんな事態に陥るとはな……」
「なんと!? では、これで解決ではないのですか!?」

 何を言っているのかさっぱり分からぬまま騒ぎ出す三人組。

 端々に上がる単語を拾い上げるも、断片的すぎて要領を得ない。
 首を傾げる俺に、キャスが教えてくれたのは

「あの、ギルマスの背後の黒板に、何か書かれています」
「ほう、どれどれ……」

 ギルマスのハゲ頭をみたくなかったが為にそちらへ視線を向けていなかったが、キャスがそう言うのであれば見てみよう。


 ― 特殊ポーション品切れ問題について ―


 あ、これ、俺案件だわ。

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