騎士不適合の魔法譚

gagaga

文字の大きさ
100 / 111
第三章

20

しおりを挟む

「それで、本題だが」

 トイレに行ったついで、そう、ついでに顔を洗いさっぱりした俺は今回の問題を切り出す。

 俺特製のポーションが品切れで暴動が起きかけていること。
 勇者が燃やした己の器を、俺のポーションなら効果的にいやせること。
 それを三人に告げ、事の重大さを共有化すると、何故か副支店長の女が首を傾げ、それから納得がいったように呟くのが聞こえた。

「勇者。そう言えば妹様も勇者でございましたね」

 その、とたんに優し気な瞳になるの、やめろぉぉ!
 見守ってます的なその目は俺に効く。

 三方から注がれる保護者的な眼差しを手で遮りつつ、この先どうすればいいのか、俺の考えを述べる。

「それはどうでもいい。どうしようもないからな。それよりは本題の方だ。説明するのもイヤになるほど阿呆な理由で、ポーションを作ろうにも材料がない。新鮮な薬草とハチミツが大至急必要だ」
「はい、新鮮な薬草とハチミツですね。……、在庫は十分にあります。必要であれば畑で採取も可能です。天然物と異なり薬効が多少落ちるようですが、そちらもお使いになりますか?」

 そうか、あるのか。さすがは大商会。冒険者ギルド、そして領主でさえ品不足に喘いでいる品をこうも簡単に手に入れられるとはな。


 ……ハテ?
 今、薬草を栽培している的な発言を聞いたような……?

 薬草の在庫不足の原因が、自生するのみで栽培に向かないからだったからなのに、なんで?

「はい、坊ちゃんのアイデアにより水耕栽培で史上初の薬草栽培に成功しております。ご存知ありませんでしたか?」

 ご存じありませんでした。
 こっちはアイデアだけぶん投げてそれっきり忘れてたのに、なんでこいつらは、本当にもう……。

「今も坊ちゃんの発想、そして願いのすべてを叶えるべく、K=インズ商会が全身全霊で様々な研究を進めておりますれば」

 しかも、全部俺のためかよ。

 もっかいトイレ。




「話が進まんな。ズズズッ」
「こちらでお鼻を、はい、チーン」
「ズビ---ッ!!」

 キャスがかいがいしく世話を焼いてくれるが、どうして他の二人もハンカチもって待ち構えている?
 これ、そういうアトラクションじゃねーから!!
 鼻炎だから! そう、鼻炎だからな!

「特殊ポーションはこの商会で取り扱ってもらう予定だ。調薬師を数名回してくれ。作り方を教える」
「よろしいのですか!?」

 金はじゅうぶんあるし、個人で独占もそろそろ限界だ。
 俺が気紛れで作り始めたものとはいえ、もはやこの街のギルドでは必需品と化している以上、作り手を増やして対応するのが無難だ。

「ああ、私も調薬師になっていれば、坊ちゃんに手取り足取り教えていただけたのに……うらやましい……」

 カインズです。
 こんな所にも信奉者がいました。
 この調子だと知らぬ間に新興宗教の教祖になっていそうですね、俺。
 ちょっと、怖いです。

「では調薬室にご案内いたします。さぁ、どうぞこちらへ」
「分かったから、手を掴むな!」

 何かに対抗するように俺の手を引っ張って案内しようとした副支店長の手を振り払う。

 邪険にしたはずなのに、なんでこいつは頬を染めた!?
 ここ、こわいよ!?


 俺がそんな怯えを抱えているとも知らず、副支店長の女はご機嫌な様子で社内を進む。

 道中数名の職員に指示を出しながら歩くその姿は先ほどの残念な様子を払しょくする働きぶりだった。
 さすがはこの店のナンバーツー。

「そう言えば、この店のナンバーワンは誰なんだ?」

 結構好き勝手やっているが、そう言えばK=インズ商会の代表って誰なんだ?
 ふと、そんな今更な疑問がよぎり聞いてみた。
 マッケインは副会長だから違うだろうし、これってマズいのでは?

 俺のその疑問に、調薬室のドアの前で立ち止まった女は教えてくれた。
 とても不思議そうな顔で。

「坊ちゃんですよ?」

 坊ちゃんですよ?
 どうやらこの商会の代表は、坊ちゃんと呼ばれている若造のようだ。
 若いから従業員にナメられているのか? だからきちんと筋を通されていないのか?

 いやいや、待て待て。
 坊ちゃん?
 はて、誰の事だろうか、なんてトボけるのは限界だろう。

「俺!?」

 思わず自らの顔面を指差すが、返ってくるのは無情なる頷き。


 聞いてないんだが!?
 この商会について聞いてない事、多くね!?

「はい。どの支店もナンバーワンは空席となっています。その位置に、坊ちゃんが常にお座りになります」

 それは、組織としてどうなのだろうか。

「それに、商戦略的にトップを敢えて空席にしておくのは良い選択です」

 ニコリと俺を見て笑う犬人族の女の顔をみて察した。
 それも、俺のアイデアなのか……?

「交渉の際に、必ずトップが出てこない。だからこそ我々は

秘技『社に戻って検討させていただきます』

が使えます」

 それはなんともまぁ、腹黒い戦略なことで。
 俺なんか真逆に『即決のカイ』なんて呼ばれているのにな。
 どうしてこうなった。

「考えても仕方がない、か。今は目先の問題を解決しよう。人員と材料の手配を頼むぞ」
「はい、すでに配置済みです」
「早いな!?」

 いつの間に、そう思いながら入室すれば、確かに山盛りの材料と十名ほどの社員が並んでいる。
 全員が白衣を着て準備万端の様相だ。

「仕事が早いなんてレベルじゃないな。一体どんなカラクリを?」
「はい。こちら、坊ちゃんが新たに提供して下さった簡易ペルセウスくんで常に我々は連携をしております」

 ……それ、確か海洋都市に向かう前に設計図を渡したモノだよな。
 もう実用化しているのか。
 もしかして俺は、この商会を通じて相当な文明ハザードを引き起こしてしまったのではないだろうか。
 こんなオーパーツが山ほど導入されているとはさすがに予想できなかった。

「いやいや、俺以外にも転生者は大勢いたようだし、気にしたら負けだ。よし、お前ら、早速だが俺特製の特殊ポーションを量産してもらう! やり方は簡単だから見て覚えろ!」
「はい!」
「会長のためです! やってやりますよ!」
「坊ちゃんの元でまた働けるなんて感激だ!」

 気合十分な研究者連中の中に、何やら聞きなれた単語を放つのがチラホラ。

 ……ここにも見た顔がいるな。

「でっ↑ では、はぢめる」

 くそっ、声、裏返ったし。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...