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第三章
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しおりを挟む「それで、本題だが」
トイレに行ったついで、そう、ついでに顔を洗いさっぱりした俺は今回の問題を切り出す。
俺特製のポーションが品切れで暴動が起きかけていること。
勇者が燃やした己の器を、俺のポーションなら効果的にいやせること。
それを三人に告げ、事の重大さを共有化すると、何故か副支店長の女が首を傾げ、それから納得がいったように呟くのが聞こえた。
「勇者。そう言えば妹様も勇者でございましたね」
その、とたんに優し気な瞳になるの、やめろぉぉ!
見守ってます的なその目は俺に効く。
三方から注がれる保護者的な眼差しを手で遮りつつ、この先どうすればいいのか、俺の考えを述べる。
「それはどうでもいい。どうしようもないからな。それよりは本題の方だ。説明するのもイヤになるほど阿呆な理由で、ポーションを作ろうにも材料がない。新鮮な薬草とハチミツが大至急必要だ」
「はい、新鮮な薬草とハチミツですね。……、在庫は十分にあります。必要であれば畑で採取も可能です。天然物と異なり薬効が多少落ちるようですが、そちらもお使いになりますか?」
そうか、あるのか。さすがは大商会。冒険者ギルド、そして領主でさえ品不足に喘いでいる品をこうも簡単に手に入れられるとはな。
……ハテ?
今、薬草を栽培している的な発言を聞いたような……?
薬草の在庫不足の原因が、自生するのみで栽培に向かないからだったからなのに、なんで?
「はい、坊ちゃんのアイデアにより水耕栽培で史上初の薬草栽培に成功しております。ご存知ありませんでしたか?」
ご存じありませんでした。
こっちはアイデアだけぶん投げてそれっきり忘れてたのに、なんでこいつらは、本当にもう……。
「今も坊ちゃんの発想、そして願いのすべてを叶えるべく、K=インズ商会が全身全霊で様々な研究を進めておりますれば」
しかも、全部俺のためかよ。
もっかいトイレ。
「話が進まんな。ズズズッ」
「こちらでお鼻を、はい、チーン」
「ズビ---ッ!!」
キャスがかいがいしく世話を焼いてくれるが、どうして他の二人もハンカチもって待ち構えている?
これ、そういうアトラクションじゃねーから!!
鼻炎だから! そう、鼻炎だからな!
「特殊ポーションはこの商会で取り扱ってもらう予定だ。調薬師を数名回してくれ。作り方を教える」
「よろしいのですか!?」
金はじゅうぶんあるし、個人で独占もそろそろ限界だ。
俺が気紛れで作り始めたものとはいえ、もはやこの街のギルドでは必需品と化している以上、作り手を増やして対応するのが無難だ。
「ああ、私も調薬師になっていれば、坊ちゃんに手取り足取り教えていただけたのに……うらやましい……」
カインズです。
こんな所にも信奉者がいました。
この調子だと知らぬ間に新興宗教の教祖になっていそうですね、俺。
ちょっと、怖いです。
「では調薬室にご案内いたします。さぁ、どうぞこちらへ」
「分かったから、手を掴むな!」
何かに対抗するように俺の手を引っ張って案内しようとした副支店長の手を振り払う。
邪険にしたはずなのに、なんでこいつは頬を染めた!?
ここ、こわいよ!?
俺がそんな怯えを抱えているとも知らず、副支店長の女はご機嫌な様子で社内を進む。
道中数名の職員に指示を出しながら歩くその姿は先ほどの残念な様子を払しょくする働きぶりだった。
さすがはこの店のナンバーツー。
「そう言えば、この店のナンバーワンは誰なんだ?」
結構好き勝手やっているが、そう言えばK=インズ商会の代表って誰なんだ?
ふと、そんな今更な疑問がよぎり聞いてみた。
マッケインは副会長だから違うだろうし、これってマズいのでは?
俺のその疑問に、調薬室のドアの前で立ち止まった女は教えてくれた。
とても不思議そうな顔で。
「坊ちゃんですよ?」
坊ちゃんですよ?
どうやらこの商会の代表は、坊ちゃんと呼ばれている若造のようだ。
若いから従業員にナメられているのか? だからきちんと筋を通されていないのか?
いやいや、待て待て。
坊ちゃん?
はて、誰の事だろうか、なんてトボけるのは限界だろう。
「俺!?」
思わず自らの顔面を指差すが、返ってくるのは無情なる頷き。
聞いてないんだが!?
この商会について聞いてない事、多くね!?
「はい。どの支店もナンバーワンは空席となっています。その位置に、坊ちゃんが常にお座りになります」
それは、組織としてどうなのだろうか。
「それに、商戦略的にトップを敢えて空席にしておくのは良い選択です」
ニコリと俺を見て笑う犬人族の女の顔をみて察した。
それも、俺のアイデアなのか……?
「交渉の際に、必ずトップが出てこない。だからこそ我々は
秘技『社に戻って検討させていただきます』
が使えます」
それはなんともまぁ、腹黒い戦略なことで。
俺なんか真逆に『即決のカイ』なんて呼ばれているのにな。
どうしてこうなった。
「考えても仕方がない、か。今は目先の問題を解決しよう。人員と材料の手配を頼むぞ」
「はい、すでに配置済みです」
「早いな!?」
いつの間に、そう思いながら入室すれば、確かに山盛りの材料と十名ほどの社員が並んでいる。
全員が白衣を着て準備万端の様相だ。
「仕事が早いなんてレベルじゃないな。一体どんなカラクリを?」
「はい。こちら、坊ちゃんが新たに提供して下さった簡易ペルセウスくんで常に我々は連携をしております」
……それ、確か海洋都市に向かう前に設計図を渡したモノだよな。
もう実用化しているのか。
もしかして俺は、この商会を通じて相当な文明ハザードを引き起こしてしまったのではないだろうか。
こんなオーパーツが山ほど導入されているとはさすがに予想できなかった。
「いやいや、俺以外にも転生者は大勢いたようだし、気にしたら負けだ。よし、お前ら、早速だが俺特製の特殊ポーションを量産してもらう! やり方は簡単だから見て覚えろ!」
「はい!」
「会長のためです! やってやりますよ!」
「坊ちゃんの元でまた働けるなんて感激だ!」
気合十分な研究者連中の中に、何やら聞きなれた単語を放つのがチラホラ。
……ここにも見た顔がいるな。
「でっ↑ では、はぢめる」
くそっ、声、裏返ったし。
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