ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第一章 最初の街 アジンタ

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 俺は先ほどの割り切ったサリエラの態度を見て、先輩冒険者の友人二人ホークとベッキーを思い出していた。

 二人はゴブリンに囲まれた際、最悪は腕の一本でも犠牲にすれば切り抜けられたと語っていた。
 この、多少の犠牲を強いられても命があればいい判断は、ぬるい日本で暮らしていた俺には出来ない判断かもしれない。
 そう言う意味では、自分個人の感情よりも実利を取って感情を割り切ったサリエラは正しく冒険者だ。きっとサリエラならホークたちと同じ決断を下せただろう。

 その点俺は、前世日本では生に無頓着だったのに、今になって命が惜しくなっている。若返ったからか、俺は無性に死にたくないし、ケガもしたくないと思ってしまっている。
 だが、そんな俺もホークたちと同じ冒険者のDランクだ。いざとなったらその覚悟を決め、命を取る選択をしなければならないだろう。段階をすっ飛ばしてランクを駆けあがったからか、その覚悟が出来ていないように思えて不安だ。

「いざとなった時、出来るといいんだが」
「何がですか?」
「ああ、いや、なんでもないさ。話の続きをしよう」
「はい。それですべきことなのですが……」


 ホークとベッキーのように二人で組みお互いに助け合えば、一人で組むよりもはるかに楽にDランクになれる。ケンのような商人とのツテもあれば、なお楽だ。支え合う者がいれば、精神も安定しやすい。割り切りが必要な場面も、心の支えが側にいてくれるならば、守るべきものの優先順位を間違えずに済むだろう。
 自分とサリエラが、短い間ではあるがそう言う関係になれれば、彼も考えを改めるかもしれないな。
 そして俺も、その間に己の覚悟を、意志を固められるといいのだが……。

「聞いていますか?」
「ああ、無論だ。俺の装備は今日中に手配するから大丈夫だ。戦力は当てにしてくれていい」
「そうですか。なら次に」


 ……待てよ? サリエラが他人の手を借りようとしないのは、リグの存在があるからだろうか。

 地元で知り合いとパーティを組めば、縁が付きまとう。今回のみで「はいサイナラ」とはいかない。
 Dランクになってリグとウヨイの街に行きたいサリエラには、この地元でパーティを組むのは出来ない選択肢なのではないだろうか。そうやって組めるパーティを厳選した結果、組んでくれる人がいなくなったとか?

 それに、いくら心が男でも身体は女性のものだ。当然男女としてデキる事は出来るだろう。娯楽が少なそうなこの世界なら、身体だけが目当てなんてのは確実にいる。ゲテモノ食い、と言うと彼に失礼だが、そう言う趣向を持つ度し難い変態もいるかもしれない。

 というか、さっき男性冒険者の尻を撫でまわすオネェみたいな冒険者を目撃してしまったしな。視線を感じてしまったと言うべきか。ともかく、あいつのような輩が美少年然としているサリエラに襲い掛からないとも言い切れない。それらを警戒し、その結果、今の事態に陥っているのかもな。

 そんな中、男の俺と組む気になったのはどうしてか考えた。
 受付で言っていたが時間がないからもうなりふり構っていられないからなのか。あるいは、他の目的があって俺に近づいてきたのか。


 サリエラとの打ち合わせと並行してこのように考え事をしていたが、思わぬ収穫があったな。

 意外とできるぞ、並列思考。

 日本での俺ならばこんなのは不可能だった。これもこの世界の肉体の恩恵なのかね。



 ――三時間後。

 時間ももう夕方。ひとまず二人で活動は明日朝からという事で、俺はサリエラと別れ、今は武器防具屋に一人で来ている。

「厄介事も多いが、手はある。一つずつ潰していこう。まずは」

 しかしまぁ、武器防具は非常に高価だ。鋳造式の中古の鉄の片手剣でさえ金貨三枚で三万エンテもする。新品なら安くて十万エンテと、とてもではないが手持ちでは足りない。
 俺は今日の出費の内容を指折り数える。

「当面の宿代は別に分けて、スネ当て、腕当て、予備の服、シート、ロープ、皿、小鍋、それらをしまう背負い袋。保存食に水袋。水袋か……」

 水袋。
 何かの動物の防水的な部分を使った物が一つに、ヒョウタンのような植物の中身をくり抜いた水筒が二つ。合計三つも水用の容器を持っている事になる。

 最初は『生活魔法』で飲み水が出せるのでは? と思っていたが違った。『生活魔法』の水は飲めない。飲もうとすると受け入れられずに吐く。マズいとかではなく、完全に毒扱い。それゆえに、水はきちんと事前に用意しておかなければならない。

 なお、ヒョウタン型水筒のうち一つは酒だ。常温でも腐らない事に加え、冷える晩に体を温めたり、消毒などにも使えるために冒険者は必ず持ち歩く必需品だそうだ。そのためにか、この街には安酒から高級酒まで、幅広い種類の酒がある。
 日本酒まで置いてあったのには驚いたが、この世界の日本酒は発酵して酢になりやすいから冒険者が持ち運びはしないそうだ。持ち運ぶのはスピリッツ、ウィスキーやジンのような蒸留済みのアルコール度の高い酒が主らしい。

 ちなみに冒険者はアルコール耐性が高いらしく、ロシア人も真っ青な勢いで酒を飲めるようだ。

「そんな彼らとそん色のない勢いで飲んでいた俺も、相当に酒精耐性が高いのだろうな」

 昼間から浴びるほど安酒を飲んでいたのに全く酔っていなかった。雰囲気で酔うタイプだし、酒は味を楽しむ派だから不満は大きくないが、それでも少しばかり損した気分だ。

「うーん、しかし何というか、困ったな」
「あん? 何がだ?」

 綺麗に磨かれた刀身を見ながら酔えない自分の現状につい愚痴をこぼしたら、それを店主に聞かれてしまった。
 そこそこ広い店内で、店主も金物細工をしていたから聞かれないと思い油断をしていた。

「テメー、俺ンとこの商品に不満でもあんのか!?」

 客商売に向いていなさそうな厳めしい男が俺に悪態をついてきた。
 いや、今回は俺が悪いな。

「店主よ、すまんな。俺が求める武器種がなくて困っていたのだ。この剣に不満はない。実にいい剣だ。値段は、二十万エンテと、この高いクオリティ通りの値段過ぎて困ったものだがね」

 堪え何気ない会話を装うも、腹が痛い。

「そりゃテメーの持ってんのは俺ンとこでも上位の代物だ。だが、それでも素人にゃ分からねーように混ぜてたんだが、気付いたのか?」

 何に? とは聞き返さない。俺は店主の言葉の意味を理解し、首肯する。
 一応これでも真面目に剣を見ていたのだ。

 よって、店主の問い、剣の目利きが出来るかのに答える為に、デコピンの要領で刀身を横から弾く。
 すると、ガラスを弾いたかのような澄んだ音が刀身から聞こえた。
 しかしすぐにその音が消える。

 ただの金属はこんなきれいな音を発しない。しかもすぐに消えるなんてのもあり得ない。
 つまり、この剣は中身をイジってあるのだ。こんな事、均一素材の鋳造品では出来ない。

「これは見事な鍛造品だ」
「ほう、分かるか」

 鞘から引き抜いた際に出た音が明らかにクリアーだったから偶然気付いただけだがね。


 鍛造と鋳造。人が叩いて伸ばして作る品と、型に金属を流し込んで作る品。どちらにも利点欠点がある。

 鍛造は、基本となる素材に別の素材を適時追加して、叩きながら理想の金属を作り上げていくものでもある。その結果が刀であったり包丁であったりするだけで、元の工程は金属を作るもの。
 そして俺が手に持つ剣は、明らかに他のものとは中身が違う。

「そいつはある鍛冶屋の作品でな。お察しの通りちょいとモノが違う」

 そう、違うのだ。
 違うのだが、違うと言うだけしか分からない。何がどう違うのだろうか。

「そいつはな、共鳴しないから固いものを切っちまっても振動しないんで腕への負担が少ない。それだけでも一級品だが、他もすげぇんだ」

 固いものを切っても、と言うが、普通この剣で固いものを切ろうとは思わないのではないだろうか。それともこの世界では、甲殻を持つ動物や魔物がそれほど多いのだろうか。

「魔力を通しやすいゴブリンの中指爪の粉末をまぶしながら打ってあるんだよ。だから魔力の通りがいい」
「そうか。見事な一振りだと思ったが、聞く内容も相当なものだ」

 魔力の通りがいい、か。
 なるほど。

 分からん。

 ここは適当に相槌打ってごまかしておこう。

「つっても、価値としちゃぁ魔剣の類にゃ負けるからな。つまりは趣味のモンだ!」
「趣味か、ふむふむ。それはいい趣味だ」
「分かるか? なら買ってくか?」

 魔力の通りがいいと何か良い事があるのだろうけど、その良さが分からない。エンチャントウェポンとか使いそうな勇者のサリエラには似合いそうな気もするが、俺には今の所不要だな。

「金があれば買っていた」
「そうかい。そりゃそうか」

 店主もご納得の様子だ。

「それで、結局何に困ってたんだ?」

 そう問われ、俺はこう言う形状の武器がないかと伝えた。

「槍、それも四メートルだと長槍の類か。そいつぁ王都に行かなきゃ手に入らんな」

 王都に?
 何故だろうか。
 槍なんて棒の先にナイフを括りつけるだけでも出来るほどに原始的な武器で、全部金属ではなくて安いはずなのに。

「槍ってのは、この国の騎士団の正規の武器で、象徴みたいなモンでもある。こんなトコじゃまず扱えねーよ」
「象徴……」

 槍が?

「それになぁ。魔物ってのはかてーんだ。ほっそい柄でも折れないようにってなると、どうしても頑丈な素材を使っわなきゃならんからな。値段もべらぼうにたけーぞ。二メートルもない短槍でさえ、今テメーが持ってる剣の倍は下らねぇ。軽く見ても四十万エンテ以上だな」
「そんなに高いのか!」

 値段に驚きはしたが、言われてみればその通りの事情に納得した。
 だからこの場には剣の他にはメイスと斧しか武器が置いていないのか。

「そうか。今まで慣れ親しんだ武器だったから知らなかったが、そう言う事情があったのか」
「慣れ親しんだって……、テメーナニモンだよ」
「元神官、だな。今は野良の神官、いや、冒険者だ」

 そう宣言したが、呆れられてしまった。

「いやいや、神官様がなんで槍なんて慣れ親しんでんだよ!? テメーには常識ってモンがねーのか!?」

 解せぬ。
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