ダイスの神様の言うとおり!

gagaga

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第一章 最初の街 アジンタ

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 『トリプルストリームアタック』

 どこから声がしているのか不明だが、スキルを宣言する声が聞こえたと同時に、三匹の蜂が一直線に並び俺たちに襲い掛かってくる。
 そして串団子のように連なる姿を想像して思う。

「これ、一匹目をぶっ飛ばせばそれでおしまいなのではないか?」

 槍があれば最初の想像のような串刺しに出来そうだが。

「え?」
「え? ではなく。一直線に並んでいるのだから、カウンター気味に先頭の蜂をどついて、玉突きのように後方にいる蜂を巻き込めばそれで終わらないか?」

 おおう、何かサリエラが唖然としているが蜂はもう目前に迫っているのだ。
 とりあえずやってみよう。
 気合を込めて、息を吐く。

「ハァァァ!!」

 そもそも連中の最大の武器は尻尾の先に付いている毒針だ。このように一直線に突っ込んできては、それを満足に振るえない。
 短い牙で噛みつきにきた先頭の蜂の顔面に、思い切りスウィングしたメイスを叩き込む。

「なんとも己の特性を無視した悪手だな、愚か者め!!」

 叫び、ドンピシャなタイミングで振り抜いたメイスに確かな手ごたえを感じる。
 そしてその手ごたえが間違いではない事は、目の前の蜂がこれ以上ないほどの形で証明していた。

 メイスが直撃した蜂の顔面が「前が見えねェ」状態となり、それでもメイスと衝突した勢いを相殺しきれずに胸までひしゃげた。残る部分はほぼ腹だけの状態、バスケットボールサイズの元巨大蜂となっていた。

 だが、話はここでは終わらない。
 バスケットボールもどきはそれでも力を抑えきれず、左中間を抜けるライナーが如き速度で後方へと飛んだ。
 グロテスクなその様子を残心の気持ちで見守りつつ、吐き気を抑えながら俺はフルスウィングの影響で崩れた体勢を立て直す。

「ズァッ! って、足が反動で地面にめり込んでいるし、どれだけの勢いで突っ込んできたのか!」

 まるで車同士が激突したみたいな音を立てて、俺のメイスとその蜂は衝突した。先ほどの急制動出来ていた勢いとは一線を画すほどのパワーとスピード。お陰で頑丈さが売りのメイスが首を傾げたかのように曲がってしまった。

「店主のお墨付きをもらった頑丈なメイスでコレか。厄介だな、スキルの恩恵というヤツは!」

 そう思うと同時に、俺も理解する。己の能力だけでは決して成せないその力に頼りたくなるのは、分かる。

「だが、所詮は虫。いくら便利な道具があっても使いこなせていないのでは意味がない。必殺の毒針を封印して正面から突撃なぞ、知能ある存在であれば、あり得ない選択だ」

 めり込んだ足を地面から引き抜き、玉突き事故を起こした蜂たちを見る。先頭にいた蜂は原型を留めずご臨終。真ん中のもバスケットボールもどきと化した一匹目に激突されて地面に落下。足が痙攣しており、まさに虫の息。

 だが、最後尾の一匹は辛うじて回避したのか、あるいは隊長格だから頑丈なのか、まだ生きている様子。

「すまん、サリエラ! 一匹取りこぼした! くっ、まだ飛びあがる元気があるのか!」
「片手で? 片手であのスキルを破った? しかもメイスで?」
「おおーい、サリエラさーん?」
「しかもスキルも使わず? そんなの、あり得る? 非常識にもほどがない? あれだけの実力があるなら、普通、回避するよね!?」
「おい! 本当にどうしたのだ!」

 慌ててサリエラの肩をゆするがブツブツと独り言をつぶやくだけで何にも反応がない。
 まずいな。よく分からんが俺一人で対処するしかないようだ。

「ここでは、危険だな。こうなったら『プロボック』! こっちに来い!」

 挑発のスキルを使い最後の蜂の視線を俺に集める。複眼だから本気で複数の視線が集まってくるようでとても気持ち悪い。
 先ほど以上の強い視線に、その視線を感じることが出来る俺は全身に鳥肌を立たせつつ、サリエラを守るように前へと出つつ離れていく。

 十分にサリエラとの距離が開き、巨大蜂の注意が俺から逸れないのを確認しひと安心した後で気付く。

「不思議だな。お前の視線からは敵意や悪意のようなものを一切感じない」

 ヤツの視線にあるのは純粋な使命感だけだった。本能だけと言ってもいいだろう。冷静に移動する俺を観察し、事務的に処理を行おうとする気配のみで、ヤツの中で俺の排除はただ優先度が上がっただけだと感じた。

 だが、優先順位を付けるほどには危機意識があるはずなのに、先ほどのひと当たりで俺には敵わぬと分かっているだろうに、怯える様子すらない。いくらなんでも不自然だ。いくら虫とてその程度の本能はあるはずだが、これはこの世界特有のものなのか。

 いや、待てよ? 蜂のような社会を形成する虫に、こんな特徴を持った役割がなかったか?

「もしかして自我の無い、働きバチってヤツか?」

 意志があるようでない、群体の中の一匹。

 俺を襲う動機がただの使命感ならば、今度の攻撃も正面からの突撃だろう、な。


 ――ブーーーンッ!!


 そして読み通り一直線に迫ってきた蜂の動きに合わせ、ガードを装着している左手を身体の前に持ってくる。篭手のような小さな盾。木製で、補強に鉄が使われているだけの頼りない盾。だが、それでも盾は盾だ。俺のスキルを使うのに必須なので、この際贅沢は言っていられない。

「スキルの強さは改めてこの目で確かめさせてもらったからな!! その道具を上手く使う為にも、貴様には練習台になってもらうぞ!」

 突撃してくる蜂に合わせて右下から斜め上へとすくい上げるようにメイスを振るう。当然蜂は避ける。避けた方向は俺の左側、メイスとは遠い方だ。そしてそちらへと移動しながら、尻尾の針で俺を突いてくる。

「また下がるかと思ったが、よもや回避してカウンターを仕掛けてくるとはな!! やるではないか!」

 しかし所詮は攻撃方法が短い牙か尻尾の針で攻撃するの二種類しかない蜂だ。対処は容易かった。

 突きを胸の前に移動させていたガードで右から左へと弾く。意外な事に、すごい音はしたが補強している鉄部分に当たった為なのかガードが壊れた様子はない。

「これは、向こうの攻撃が弱いのか、それともこの世界の物質がやたら頑丈なのか!」

 蜂のサイズを考えると、今の一撃は鉄杭を打たれたくらいの衝撃があっただろうに、ほぼ木製のガードは形状を維持していた。その後も二度三度とヤツの尻尾の針を弾くも、壊れる様子を一切見せない。その頼もしさに心の中で武器防具屋の店主に感謝を捧げつつ、俺は攻撃を弾いて出来たチャンスにメイスを振るう。しかしメイスの長さが足りない為に俺の反撃は空を切る。

 ヤツのヒットアンドアウェイ戦法に見事にしてやられている。
 もちろんそれもあるが、もう一つ、ヤツに攻撃が通らない原因は自分自身にあった。
 伊達に日本ではデスクワークしかしていなかった訳ではない。自分の中のイメージと、マッスルと化した肉体の強さがうまく合わさっていない。

 強大なるマッスルに振り回されている感覚に焦りを覚えるが、その焦りを深呼吸してねじ伏せる。

「ぐっ。ふぅぅぅぅ。はぁぁぁ。ふぅ。せめてこれが槍ならリーチがあるから余裕で倒せているのだが」

 聖騎士の本来の武器は槍だ。それも聖別された特別製の槍を扱う。その槍を持てば槍のスキルだけでなく、聖騎士固有の魔法も扱えるので間合いでここまで苦しむ事はなかった。しかし聖別どころか普通の槍さえ手に入れられなかったのが現実だ。
 よって、今の俺が扱えるスキルは単純な神官スキルと、素手でも扱えるスキル、そして盾のスキルだけだ。それらを駆使して、この難関を乗り越えなければならなかった。
 再び深呼吸を行い、メイスの握りを確認する。
 手のひらにじっとりと汗をかいているが、丁寧に巻かれた滑り止めによりメイスが手からすっぽ抜ける事はないと確信できた。

「さすがは店主お勧めだな。ありがたい」

 そうして俺が落ち着いたタイミングを見計らい、その意識の空白を蜂は文字通りお尻の針で突いてきた!
 だが、甘い!
 俺もお前の突撃を待っていた!!

「追いかけるのは苦手だが、迎え撃つのは得意なのだよ!! 今だ! 『ブレイクバランス』!!」

 スキルを宣言し、頭に流れ込んでくるスキルからのイメージに合わせてガードを相手の攻撃タイミングと同時に勢いよく引いた。
 すると蜂は、本来あるべき抵抗がなかったが為に腹を最大限伸ばした状態で固まる。その伸び切った腹の横にガードを触れされ、そっと横へと押す。
 たったそれだけの動作だが、蜂は平衡感覚を失ったかのようにグルリと反転し、背中から地面へと墜落した。

「スキルだから少しは期待していたが、軽い動作と重い結果がチグハグすぎるぞ!! 思ったよりもエグい事になったな!」

 ゲームデータ的には相手に各種判定に判定マイナス効果を付け、演出上ではわずかによろける程度の効果しか持たない『ブレイクバランス』。回避を失敗したり、攻撃を命中させにくくしたり、詠唱を噛んでしまう程度だが、ここは現実の世界だ。当然、そんな程度の効果であっても非常に有効だと睨んでいた。
 その結果は

「こうかは ばつぐんだ!」

 まるで気絶しているかのように、背を地面に落とし足も痙攣している巨大蜂。

 そんな、目を回したままに見える蜂に俺は容赦のない追撃を加える。
 地面に落ちてしまえばこちらのものだからな!

「『トランプル』!!」

 街で装備を整え、鉄板入りの安全靴に履き替えた俺の『トランプル』によりジャイアントビーは砕け散った。ついでに踏み込んだ地面も、まるで小型の隕石が衝突したかのように陥没し砕け散っていた。

「威力がおかしいぞ! どうなっている!?」

 盾さえあればあとは俺の身体能力でのみ効果が変わる『ブレイクバランス』と異なり、『トランプル』は装備依存度がそれなりに高い。その為か、皮の靴だった時とはケタ違いの威力となっていた。
 そう、文字通りケタが違う。意味が分からない。誰が地面にクレーターを生むほどの衝撃を生み出すと想像できるのか。

 だがスキルがそう言うものなのか、効果範囲外に振動は伝わっていない。その証拠に、サリエラを巻き込んでいなかった。地面が揺れた様子もなく、先ほどと変わらずブツブツと呟いてる。いくら放心気味とは言え、身の危険を感じてまで呆けている事はないだろうからな。

「しかし、危うく大震災の震源地になるところだった。ヘタをすればこの辺の木々が倒壊し下敷きになっていたかもしれないし、迂闊な事は控えよう、うん」

 あれ以外の決め手がない緊急事態だったとはいえ、またも思い付きでスキルを使った事を後悔した。
 しかも、これでもまだリミッターを二つ解除した状態だ。残り一つリミッターを残しているのにこの威力なら、俺の本気はどこまでの威力が出るのだろうか。

 このサリエラとリグーロの一件が片付いたら、自分の全力『ワイルドハンド0』を試しておかないとヤバいな。
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