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第六話 冷酷な将軍と逃げる妻
しおりを挟むん~~っ
朝、私は陽の光を浴びながら大きく伸びをした。
「奥様、はしたないですよ」と、すかさず明蘭(ミンラン)の小言が飛んでくる。
「はーい」と気のない返事をすると、ぷくっと頬をふくらませる明蘭。「ほんと最近、お母さんみたいね」とからかえば、さらにむくれて可愛い。
「将軍は今日は?」と尋ねると、「朝議の後、訓練所に向かわれたそうです。しばらく戻らないとのことです」と草盈(ツァオイン)。
「ほんと!?」と思わず身を乗り出す私に、侍女たちは呆れた顔。
「だって……あの夜のことがあってから、顔を合わせにくいのよ」と、私は茶をすすりながら呟いた。
あの夜——
私は確かに、将軍の腕の中にいた。けれど、それを意識するのが怖くて、逃げ出した。あのぬくもりが、なんだか懐かしさを呼ぶようで、戸惑ってしまったのだ。
その日の午後。将軍不在の将軍府に、突如として訪問者が現れた。
しかも——20人近く!
「どういうこと!?」と侍女たちと顔を見合わせていると、華やかな衣を身に纏った貴族の娘たちが、にこやかに門をくぐってくる。その中には、ひときわ目立つ一人——第二皇女の姿もあった。
彼女たちの目的は、ただ一つ。
「将軍が側室を探していると伺いましたわ」と皇女が高らかに言った。
思い出した。あの時そんな事を言った。
「あら、それは助かるわ! 私、足を痛めて動けないから、お世話してくれる方が増えるのは嬉しいわ~」と、心底嬉しく助かったと思った。
毎晩逃げる口実を探さなくていい!
侍女たちは蒼白な顔で「奥様っ! 本気ですか!?」と止めようとしたが、私はにっこりと笑って答えた。
「うん、何人か側室を入れて、私のこと忘れてくれたらいいなって思って」ねっ?と微笑んだ。
「では、側室は三人まで。五人ずつ並んでくださる?」と、ワクワクしながら指示して。
どうせなら仲良く出来て将軍の心をつかめる人がいいなと思い、侍女たちが東屋に誘導した。
私は椅子に座り優雅にお茶をすすりながら、最初の5組を待った。
その時——
「何をしている」
その声は、地の底から響いてきたようだった。
凍りつく空気の中、振り返ると、そこには——将軍。そして、その背後には人々に恐れられている“墨影兵”と呼ばれる漆黒の鎧をまとった兵たち。
「霖寅(りんいん)~♡」と甘えた声を上げて、第二皇女が将軍の腕にしなだれかかる。
「側室を望むなら、なぜ私を真っ先に求婚なさらなかったのです?」と、媚を含んだ目で見上げる皇女。
だが将軍は、彼女を見ようともしない。
腕をそっと解きながら、静かに、しかし怒気を帯びた声で言った。
「夫人、何をしているのですか?」
私はうつむいた。「お世話が行き届かないので……気の利く側室をと……」
「いつ、私が側室を望みましたか?」
その声には、怒りと……失望が滲んでいた。
「側室など、私は一度も求めたことなどありません!」
兵たちが前へと出て、娘たちはざわめきながら退いていく。それでも第二皇女は引かず、将軍に再びすがりつく。
「皇女様におかれましては、側室などと申すのは恐れ多い。お送りしろ」と将軍が告げると、墨影兵が静かに促し、彼女たちはやっと退散していった。
静けさが戻ったその場で、将軍は私に詰め寄った。
「夫人、なんのつもりですか?」と、腕を強く掴まれた。
「だって……あなたには側室がいてもおかしくないもの。家の繁栄のためには、必要でしょう?」
「そんなことは望んでいない」と、将軍の声が更に低く冷たくなる。「新婚で側室を迎えたら、世間の信用に関わる。責任が取れるのか?」
逃げようとした私の手を行かせまいと強く引く将軍。その瞬間——
「ゴキッ」と音がした。
私の肩に激痛が走る。声にならない声を上げ、歯を食いしばって、痛みに耐える。
「肩が外れてませんか?」墨影兵の一人が声を上げ、将軍が慌てて私の肩を支えた。
「いきますよ。歯を食いしばってくださいね——1、2、3!」
「ッ……!」
痛みの中、私は意識を手放してしまった——
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