離婚しようとしたら将軍が責任とれ?

エイプリル

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第八話 将軍と嫉妬と第六王子の計画

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宮中での朝議が終わり、大臣たちがぞろぞろと扉から出てくる中、将軍の姿もあった。背筋をぴんと伸ばし、迷いのない足取りで門へと向かっていると――

「おーい!」

背後から間の抜けた声が響く。将軍はそのまま歩みを止めずにいたが、すぐに肩にぽんと手が置かれた。

「ひどいな~、呼んでるのに」と、息を切らしながら笑うのは第六王子だった。

将軍は肩をすっとかわし、なおも無言で歩き続ける。

「おいおい、なんだよ~」

鬱陶しげに視線だけを向け、「暇なのか」と低く呟けば、王子はあっけらかんと「そうだよ~」と答えた。

「この前は大変だったな~。で、側室は決まったのか?」

その言葉に将軍の眉がぴくりと動き、冷たい目を王子に向ける。

「ごめんごめん、からかって悪かったよ~」

悪びれる様子もなく笑う王子に、将軍は「おまえは全く……」とため息をついた。

「ちょっと寄ってけよ」と王子が言い、将軍はしぶしぶその居間に連れて行かれた。



「おまえ、この前の騒ぎで勝手なことをしたって、嫁っ子ちゃんの腕を折ったって噂が立ってたぞ?」

言いなりの口ぶりに、将軍は「折ってない!」と声を荒げ、卓を拳で叩く。

その衝撃で茶器が落ち、ガチャンと音を立てて割れた。

「え、そうなのか?」

王子は茶をすする手を止め、「あの後、あいつが側室になるって父上に駄々をこねてさ。父上、激怒して禁足処分にした上で、慌てて嫁ぎ先まで決めたらしいよ。……誰かさんも一枚噛んでるんだろ?」と、にやりと笑う。

将軍は「さあな」とだけ答え、視線をそらした。

「ところで、嫁っ子ちゃんの腕、ほんとに折ってないのか?夫婦仲が険悪って噂まで立ってるぞ?」

その言葉に、将軍はギュッと拳を握り、ワナワナと震える。

「こいつがこんなに感情を出すなんて、珍しいな……ククク」

王子は肩を震わせて笑った。

「何がおかしい」と将軍が低く言っても、王子はへらへらしている。

「その……」

将軍はそっぽを向いたまま、言いにくそうに呟いた。

「女性を喜ばせるには、どうしたらいい」

その言葉に王子は一瞬目を大きく見開き、思わず「目が落ちるかと思った!」と叫ぶ。

立ち上がろうとする将軍を、まあまあまあ、と引き留めて座らせた。

「女性が喜ぶのは、宝石とか綺麗な衣だろ?」

将軍は小さく息を吐く。

「夫人は、装飾品をあまりつけない。清楚で控えめなものを好む。衣も派手なのは嫌うようで……体裁を保つ程度のものしか身につけない」

「ふーむ。手強いな……。じゃあ、趣向品とか、好きなものは?」

「……あまり知らない。これ、というものに執着はないようだ」

「ふむふむ……じゃあ!」

王子はぱっと顔を上げる。

「舟遊びだ!うん、これしかない!もうすぐ端午節だろ?竜舟競漕があるし、屋台も出る。軍や防衛隊も参加するし、お前の部隊も出るだろ?」

「ああ」と短く答える。

「そこでいいところを見せれば、株が上がるってもんさ!」

将軍は半信半疑ながらも、王子の勢いに押される形でうなずいた。



宮廷を出た後、将軍は王子の提案にどこか釈然としないまま、馬車を止めて馴染みの茶房に入った。

二階の見晴らしの良い席に陣取り、茶菓子を手みやげに頼んでしばし待つ。

ふと、泰が窓の外を見て「あれっ?奥様?」と声をあげた。

視線を向けると、露店で何かを手に取りながら、晨に微笑みかける夫人の姿があった。

将軍の拳がギリッと音を立てる。茶を運んでいた律が、それを見てわずかに首を横に振る。

泰はこっそりと律に耳打ちする。

「お、俺……大丈夫ですかね?呪い殺されたりしませんか?」

律は無言で冷たい目を送るだけだった。

将軍は静かに立ち上がり、階下へと歩いていく。

慌てて泰と律も後を追う。将軍は待機していた墨影兵に茶菓子を持ち帰るように命じ、他の者たちには距離を取ってついてくるよう指示した。

「夫人」

呼びかけに、夫人がぎょっとして振り返る。

「偶然ですね、将軍さま」と、ぎこちなく笑う。

「お出かけか」と問えば、「買い物に」と返る。

「些細なものは使用人に任せればよい。他に買うものがあるのか」と詰め寄られ、夫人は首を横に振った。

そのまま馬車に乗せられる。

ちらりと将軍を盗み見ると、目を閉じて無言のまま座っている。



> (こうして見ると……体は細いのに、圧が凄い。初めて見たとき、恐怖すら感じた。でも、時折ふと、やさしさのようなものがのぞく気がして……うまく距離をつかめない)




夫人は、ふぅっと深いため息をつき、窓の布を少しめくって外を見やった


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