異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!

城山リツ

文字の大きさ
29 / 226
Meets02 ホスト系アサシン

14 ぬくもり

しおりを挟む
 伝書鳩のくるっぽー(仮名)がアニーに新たな指令書を持ってきた。
 あれだ、きっと、冒頭は「私だ」って書いてあるに違いない。
 そんでもって最後は「なお、この指令書は自動で消滅する」って書いてあるに違いない。

 アニーはその小さな紙切れを一瞬で読んで、マッチで燃やした。焦げた臭いが部屋に広がる。

「なんだ、自分で燃やすんだ」

 ミチルは少しがっかりして口走った。

「そりゃ、そうよ。勝手に消えるワケないでしょ」

「魔法とかで、ポン! て消えるのかと思った」

「ええ? 魔法?」

 アニーは可笑しそうに笑う。ミチルは何か変なことを言っただろうかと首を傾げた。
 だってこの世界は魔法があるんじゃないの?
 ジェイの持ってた剣は魔剣だって言ってたぞ。

「そういうのは西の大陸の技術でしょ。カエルレウムとかアルブスとか」

「そうなの?」

 知らない名前の国が出てきたけれど、ミチルには覚えられない。

「こっちの大陸は未だに原始的だよ。魔術師なんて見たこともないね」

「へえー……」

 海を隔てるだけでそんなに違いがあるのかと、ミチルは少し驚いた。
 ファンタジーの世界だったらどこに行っても誰に会っても魔法に遭遇するものだから。

 そんな会話をしているうちに、アニーは素早く着替えた後、洗面台の棚から古びたナイフを取り出し、バックルに取り付けた。

「それじゃあ、ミチルは留守番してて」

「え? もう行くの? 仕事って夜なんじゃないの?」

「今夜の仕事は相当でかいみたいだ。昼間に打ち合わせがいる。帰りは朝になるからミチルはいい子で寝てて」

「オ、オレも行きたい!」

「ええ?」

 ヤベ! 思わず言ってしまった。
 だってなんだかアニーの仕草がよそよそしくて。まるでこれが最後みたいな感じだったから。

「しゃ、社会見学! させてよ!」

「──冗談」

 アニーは鼻でせせら笑った。その笑顔は完全にミチルを拒否している。

 でも。でも、今別れたら、二度と会えないような気がする。
 それは、なんか、ヤダ。

「オレも連れてって!」

「ダメ。危険だ」

「だいじょぶ! オレ、前も魔物がわんさか出る森に行ったんだよ! 勇敢に戦ったことだってあるんだから!」

「ミチル」

 アニーは真顔になってミチルの右腕を取り、勢いのままに壁にその身体を縫いつける。

「!」

 深い青をたたえた瞳がミチルを捕らえ、低く甘い声で囁いた。

「あんまりワガママ言うなら、この場で足腰立たなくするよ……?」

「え──」

 ミチルが反応できずにいると、アニーの左手が腰に伸びてそのまま素肌を下になぞった。

「おぎゃああぁあ!」

「──ふ、ムードも何もないね」

 アニーはそこでパッと両手を離してミチルに自由を与える。
 今までで一番ホンモノっぽい感じに、ミチルは頭が沸騰していくようだった。

「大丈夫。明日の朝、俺が帰ったら港に連れて行ってあげる」

「み、港……?」

「今夜の報酬があれば、ミチルがカエルレウムに渡る旅費になるから」

「そ、そんな大金もらえないよ!」

 そうじゃない。欲しいのはそういうのじゃない。
 けれどミチルはうまく言えなかった。

「……もらって欲しい。短い間だったけど、とても楽しかったから」

「でも……」

 アニーは最後にとても優しい顔で笑っていた。

「あんなによく眠れたのは二十年ぶりだった」

「──」

 アニーにとっての夜は。
 アニーにとっての夜は、両親が殺された記憶が支配する世界。
 安楽に眠ることを、彼自身が許さなかった。

 たった二日。素性も良くわからない、ただの子どもの温もりが彼を癒したと言うのか?

「……おやすみ」

 そんな言葉を残してアニーは扉を閉めた。
 ミチルは床にへたり込んだまま、彼の温もりが遠ざかるのを思い知った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

腐男子♥異世界転生

よしの と こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、カクヨムさん、Caitaさんでも掲載しています。

処理中です...