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Meets02 ホスト系アサシン
23 くしゃみ、みたび
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黒い影が霧散して、また元の静寂が戻る。
ミチルも、ボスもマリーゴールドも。アニーが見せつけた強さに呆然としていた。
ていうか、「お会計の時間だ」って何!?
決め台詞ってこと!? ……などとイジる者はいなかった。
雲が晴れる。暗闇から満月が柔らかい光を帯びて現れた。
森の中に光が射していく。ちょうどそれはピンスポットのようにアニーを照らしていた。
ああ……もう……何これ。ほんとに同じ人間?
月明かりに照らされたアニーは美しいを通り越して、美、そのものだった。
俳優とか、アイドルとか、国民的彼氏とか。そんな言葉では片づけられない。
その姿にミチルの心はすっかりとっ散らかって、ただアニーをぼーっと見つめるだけだった。
「──ミチル!」
え、ちょっと待って。美の神様がオレを呼んだんだけど。
ミチルはまだ彼が生身の人間だという実感が持てなかった。
「ミチル! ……ありがとう」
美の神はミチルの頬に熱いベーゼをかます。
以前されたような軽い感じではなく、頬に熱が籠るような、吸いつけるような濃厚なキッスだった。
「もわああぁぁ……っ!」
アニーの体温と肉感を感じたミチルは体中が熱くなった。
ああ、神様とかじゃない。人間だ。
アニーは同じ目線で笑ってくれる、側にいてくれる人間だとようやく思い出した。
「ミチル、怪我はない?」
「だ、大丈夫……」
ねえ待って、無理! あんなキッスしておいて、なんでそんなに爽やかに笑えるの!?
「うん、良かった!」
あ、アニーが離れてしまう。
イヤダ。
ほっぺだけじゃ、やだ……
「うおおおぉぉっ!!」
ミチルは自分の思いがけない思考を慌てて大声で打ち消した。
ノーモア、吊り橋効果!!
「ど、どうしたの?」
さすがのアニーも驚いていたが、ミチルはキリッと顔を立て直して言った。
「大丈夫。それはそうとナイフは?」
「ああ、そっか」
アニーは猪ベスティアが消えた辺りへ走り、まだ鈍く光る一本のナイフを拾い上げる。その後、更に何かを拾って戻ってきた。
「すごいよ、このナイフ。ミチルが再生してくれたの? カエルレウムの魔法?」
「魔法なんてとんでもない! オレにもよくわかんないけど、これで二回目だ」
「二回目?」
アニーが聞き返すので、ミチルは前回のことを説明した。
「うん。前もさ、カエルレウムでジェイの剣が青く光って再生したの。オレが持ってる時にね。でもオレがやったかはわかんない」
あの時も、今回も、ミチルは刃の再生を願った訳ではない。
ただ、目の前のベスティアが憎くて、何もできない自分が情けなくて、単純に怒っただけだ。
「へえ、そう……二回目なんだ」
うん? なんかアニー落ち込んでる?
しかしミチルはすぐにアニーの左手に注目してしまった。
「アニー、そっちには何持ってんの?」
「あ、ああ……」
アニーは左手を掲げて、それを月明かりに照らした。拳大の青い石だった。
「ナイフの側に落ちてたんだ。この森のものじゃないと思うな……」
「うん、なんか、ナイフが光った時の色に似てるね」
「確かに。でも、俺、もっと前に似たようなのを見た気もするんだよなあ……」
二人でしげしげとその石を眺めていると、夜風が強くなった。
「う、寒っ!」
ミチルは思わず身震いをする。それを見てアニーは笑った。
「そうだね、屋敷に戻ろう。今夜は俺が温めてあげるよ、たっぷりと……ね」
「──!!」
えええ、ナニナニ。なんでそんな甘い声出すの!
ナニなの!? ナニするの!?
ミチルがまた動悸でドキドキしていると、更に強い風が吹いた。
「──!!」
急に突風が吹いた。ミチルは驚いて立ち止まる。
「雪……?」
空から白いものが降ってきた。
ふわふわと舞い踊るそれは季節外れの風花かと思った。
「羽……?」
よく見るとそれは鳥の羽だった。
さては上空で大きな鳥が喧嘩したんだなと思った。
「!」
しかし、その羽はミチルの周りをふわふわと取り囲み、次第に数が増えていく。
ヤベエエエエ!!!
また出たアアアアア!!
恐怖のコピペええええっ!!
「……ミチル?」
アニーが異変に気づく。しかしミチルの周りにはすでに無数の羽根が飛び交っていた。
「アニー! 助けて!」
「ミチル!」
ミチルは手を伸ばす。
アニーもまた駆け寄った。
無数の白い羽は、ミチルの鼻先をくすぐる。
元々花粉症のミチルはむず痒さをすぐに感じた。
「ハ、ハックション!」
思わずくしゃみをしてしまった後、周りの羽に異変が起きた。
真っ白だった羽が、ひとつ残らず青く染まっていく。ミチルの視界も青く染まった。
「──あれ?」
マリーゴールドが後ろを振り返ると、二人の姿がなかった。
「おーい、アニー? ボウズー?」
「どうした、マリー?」
「ボス、あいつらがいねえ」
するとボスは豪快に笑って言った。
「ほっとけ、盛り上がってシケこんだんだろう」
「マジか、若いっていいなあ」
そうしておじさん二人は屋敷へ戻っていった。
後には、青く光る羽根が一本。ふわりと舞って消えた。
「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」
〈ホスト系アサシン編〉──了
次回からは〈幕間 ぽんこつナイトVSホストアサシン〉をお送りします!
どうぞお楽しみにっ!!
ミチルも、ボスもマリーゴールドも。アニーが見せつけた強さに呆然としていた。
ていうか、「お会計の時間だ」って何!?
決め台詞ってこと!? ……などとイジる者はいなかった。
雲が晴れる。暗闇から満月が柔らかい光を帯びて現れた。
森の中に光が射していく。ちょうどそれはピンスポットのようにアニーを照らしていた。
ああ……もう……何これ。ほんとに同じ人間?
月明かりに照らされたアニーは美しいを通り越して、美、そのものだった。
俳優とか、アイドルとか、国民的彼氏とか。そんな言葉では片づけられない。
その姿にミチルの心はすっかりとっ散らかって、ただアニーをぼーっと見つめるだけだった。
「──ミチル!」
え、ちょっと待って。美の神様がオレを呼んだんだけど。
ミチルはまだ彼が生身の人間だという実感が持てなかった。
「ミチル! ……ありがとう」
美の神はミチルの頬に熱いベーゼをかます。
以前されたような軽い感じではなく、頬に熱が籠るような、吸いつけるような濃厚なキッスだった。
「もわああぁぁ……っ!」
アニーの体温と肉感を感じたミチルは体中が熱くなった。
ああ、神様とかじゃない。人間だ。
アニーは同じ目線で笑ってくれる、側にいてくれる人間だとようやく思い出した。
「ミチル、怪我はない?」
「だ、大丈夫……」
ねえ待って、無理! あんなキッスしておいて、なんでそんなに爽やかに笑えるの!?
「うん、良かった!」
あ、アニーが離れてしまう。
イヤダ。
ほっぺだけじゃ、やだ……
「うおおおぉぉっ!!」
ミチルは自分の思いがけない思考を慌てて大声で打ち消した。
ノーモア、吊り橋効果!!
「ど、どうしたの?」
さすがのアニーも驚いていたが、ミチルはキリッと顔を立て直して言った。
「大丈夫。それはそうとナイフは?」
「ああ、そっか」
アニーは猪ベスティアが消えた辺りへ走り、まだ鈍く光る一本のナイフを拾い上げる。その後、更に何かを拾って戻ってきた。
「すごいよ、このナイフ。ミチルが再生してくれたの? カエルレウムの魔法?」
「魔法なんてとんでもない! オレにもよくわかんないけど、これで二回目だ」
「二回目?」
アニーが聞き返すので、ミチルは前回のことを説明した。
「うん。前もさ、カエルレウムでジェイの剣が青く光って再生したの。オレが持ってる時にね。でもオレがやったかはわかんない」
あの時も、今回も、ミチルは刃の再生を願った訳ではない。
ただ、目の前のベスティアが憎くて、何もできない自分が情けなくて、単純に怒っただけだ。
「へえ、そう……二回目なんだ」
うん? なんかアニー落ち込んでる?
しかしミチルはすぐにアニーの左手に注目してしまった。
「アニー、そっちには何持ってんの?」
「あ、ああ……」
アニーは左手を掲げて、それを月明かりに照らした。拳大の青い石だった。
「ナイフの側に落ちてたんだ。この森のものじゃないと思うな……」
「うん、なんか、ナイフが光った時の色に似てるね」
「確かに。でも、俺、もっと前に似たようなのを見た気もするんだよなあ……」
二人でしげしげとその石を眺めていると、夜風が強くなった。
「う、寒っ!」
ミチルは思わず身震いをする。それを見てアニーは笑った。
「そうだね、屋敷に戻ろう。今夜は俺が温めてあげるよ、たっぷりと……ね」
「──!!」
えええ、ナニナニ。なんでそんな甘い声出すの!
ナニなの!? ナニするの!?
ミチルがまた動悸でドキドキしていると、更に強い風が吹いた。
「──!!」
急に突風が吹いた。ミチルは驚いて立ち止まる。
「雪……?」
空から白いものが降ってきた。
ふわふわと舞い踊るそれは季節外れの風花かと思った。
「羽……?」
よく見るとそれは鳥の羽だった。
さては上空で大きな鳥が喧嘩したんだなと思った。
「!」
しかし、その羽はミチルの周りをふわふわと取り囲み、次第に数が増えていく。
ヤベエエエエ!!!
また出たアアアアア!!
恐怖のコピペええええっ!!
「……ミチル?」
アニーが異変に気づく。しかしミチルの周りにはすでに無数の羽根が飛び交っていた。
「アニー! 助けて!」
「ミチル!」
ミチルは手を伸ばす。
アニーもまた駆け寄った。
無数の白い羽は、ミチルの鼻先をくすぐる。
元々花粉症のミチルはむず痒さをすぐに感じた。
「ハ、ハックション!」
思わずくしゃみをしてしまった後、周りの羽に異変が起きた。
真っ白だった羽が、ひとつ残らず青く染まっていく。ミチルの視界も青く染まった。
「──あれ?」
マリーゴールドが後ろを振り返ると、二人の姿がなかった。
「おーい、アニー? ボウズー?」
「どうした、マリー?」
「ボス、あいつらがいねえ」
するとボスは豪快に笑って言った。
「ほっとけ、盛り上がってシケこんだんだろう」
「マジか、若いっていいなあ」
そうしておじさん二人は屋敷へ戻っていった。
後には、青く光る羽根が一本。ふわりと舞って消えた。
「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」
〈ホスト系アサシン編〉──了
次回からは〈幕間 ぽんこつナイトVSホストアサシン〉をお送りします!
どうぞお楽しみにっ!!
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