異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!

城山リツ

文字の大きさ
144 / 226
Meets05 優しいバーサーカー

34 進むしかない

しおりを挟む
 反乱の首謀者、ルードがミチル達を連れてループス邸を出ようとした頃、早馬が伝令を持ってやって来た。
 先行していた部下達により、ルードの到着を待たずにあっさり役所の奪取に成功。あっという間に役人全員を捕縛したと言う。

 それを聞いたイケメン達は拍子抜けしてしまった。
 ならず者とは言え一般市民が押し寄せただけで、普通そんな事にはならない。
 派遣されているアーテル帝国の役人達がいかに腐敗し堕落していたか。ラーウスの民達がいかに怒っているかの結果であった。

「いいねえ。まずは第一段階成功だな。それじゃあセイソン様を伴って役所に入りますかね、厳かにな!」

 ルードが高らかに宣言すると、待機していた部下達数人が金銀ちりばめた旗を持って隊列を組んだ。残る部下達でミチルの乗る輿を持ち上げる。その先導はルード。装飾された鞍の馬に乗って悠々と進み始める。イケメン達は分厚いローブを目深にかぶったまま用意された馬に乗った。ミチルの乗る輿の周囲を守るように進む。

 チーン
 ドーン
 シャーン

 途中から合流したのは数人の楽士。銅鑼だの鈴だの太鼓だのを軽快に鳴らして、ルードの隊列を賑やかしていた。

「おいおい、すでに戦勝パレードみたいじゃねえか」

 民衆がこちらに向ける応援と歓喜の声を、馬の上から浴びたエリオットは少し呆れたように呟いた。

「それだけ帝国のやり方が腹に据えていたのだろうな」

 ジンもまた、マグノリアから聞いた役人の惨状を憂いていたため、そんな感想を漏らす。

「いや、どうもそれだけではないようだ」

 注意深く民衆を観察していたジェイは、いつになく冴えた見解を示した。

「路肩で声援を送る人達の視線は、ミチルのいる輿にある。ルード殿が事前に漏らしたのかもしれない。中には深々祈っている人も見えた」

「どういう事だ? この辺はチルクサンダー魔教会が幅きかせてんだろ? セイソンはチルチル神教の聖人なのに、ありがたがるのか?」

 エリオットがそんな疑問を口にすると、ルークが小声で説明した。

「チルクサンダー魔教、ラーウスでは新しい宗教。うちのような特殊な事情がなければ、帰依する人、少ない。それに、最近は帝国役人との癒着が目立ってきていて、不信感のある人、増えました」

「ふうん……なるほどね」

「だからこそ、今が反乱の好機という訳か」

 一を聞いたら十を知ることができるエリオットとジンは納得して頷いていた。
 つまり、チルクサンダー魔教会は帝国との繋がりだけで、ラーウスにのさばっているに過ぎない。
 実態としては現地人の信者は少なく、ループス家のような金持ちをそそのかして献金させるような事しかできない、宗教としては脆弱なものなのだ。いや、それなら宗教と呼べるものでもないかもしれない。せいぜい新興宗教がいいところなのに、帝国と癒着しているために権力だけは持っている。だから民衆から反感を買っているのだろうとは、輿の中から話を聞いたミチルにも想像できることだ。

「ようするに、チルクサンダー魔教会はラーウスに教えを広げるのを失敗してるんだな?」

 アニーがそう確認すると、エリオットはニヤニヤと愉快そうに笑っていた。

「へっ、民意がこっちにあるならボロいな。とっとと魔教会に乗り込もうぜ」

「王子、血気に逸るな。我らはあくまで後方。彼らの為す反乱とやらを傍観する立場に過ぎない」

「そうだぜ、俺達まで戦いに参加したら誰がミチルを守るんだよ」

 ジンだけでなくアニーにも嗜められて、エリオットは舌打ちしながら肩を竦めた。

「なんだよ、つまんねえな」

 作戦前は冷静だったのに、湧き上がる民衆の声と、勇ましい反乱ムーブに、精神年齢がショタのエリオットは興奮してしまったようだ。暴れたい欲求と戦って体がウズウズしている。
 そんな会話をしているうちに「セイソン様御一行」の行列は役所に到着した。


 
「ハッハッハ! アーッハッハッハ!」

 役所前の広場に反乱軍と民衆を集めて、ルードは大音声で笑っていた。その傍らには父マグノリアも立っている。
 なんでそんなに声が通るんだろう。これも魔法の力なのかもしれない。
 輿の中からでも十分に聞こえる声に、ミチルはそんなことを考えていた。

「同志諸君! 我々は悪政蔓延るこの庁舎をついに取り返した! 帝国の役人どもは一人残らず投獄済みである!」

 ウオォオオ……!

 ルードの演説に煽られて、仲間の反乱軍だけでなく、その周りの民衆も声を上げた。

「アロニア区はラーウス独立の足がかりとして立ち上がった! 帝国からの腐敗政治を退け、今こそ正しい指導者を、我々の中から正しく選ぶべきである!」

 選挙でもするんだろうか。だとするとかなり民主的で近代的だとミチルは思った。
 それがうまくいくかどうかはミチルの手が及ぶところではないけれど、とりあえずルードは落選した方がいいと思う。

 破天荒な英雄は、国を治めるべきではない。維新を成し遂げた洗濯屋さんのように。
 とは言え、それもミチルの気にするべきことではない。

「そのためにはもう一つ、取り除かねばならないものがある。チルクサンダー魔教会! 奴らこそ、邪悪な思想を広める帝国の先鋒。魔教会を追い出してこそ、我々の真の独立は為るのである!」

 そんな事をして、この土地は大丈夫なのか!?
 魔教のカミから罰が下らないのか!?

 民衆の輪からそんな声が口々に叫ばれた。もちろん、ルードの仕込みである。

「心配するな、諸君! 先般、我が弟ルークの元に聖なる存在が降り立った。その方こそ、チルチル神教では聖人とされるセイソン様。我が弟はセイソン様の伴侶、カリシムスとしての啓示を受けたのだ!」

 オォオオオ……!

 さらに興奮のるつぼと化す民衆。反乱軍であるルードの部下達も大袈裟に騒ぐ。
 その喧騒を縫うように、ルークが顔を晒し、一歩前に進み出た。

「ルーク!?」

 カリシムスは顔を晒さない約束だったのに、イケメン達は驚いてその背中を追った。
 だが、ルークは彼らを制止して静かに笑う。

「大丈夫、ぼく、兄さんの身内だから仕方ない。皆さんは、どうぞそのままで」

「確かにセイソンもカリシムスも誰も顔を見せないとなると、士気に関わるか……」

 ジンは眉をひそめながら唸っていた。その胸中は複雑だ。
 ルークが素顔を見せたことで、首謀者の一人だと見なされたら、その身の危険が増す。
 だがカリシムスとして姿を見せた以上、セイソンミチルの側を離れられない。ミチルにも危険が及ぶかもしれないのだ。
 第五の男であることは間違いないとして、まだルークの武器も、力も見えてこない。そんな最弱の者が目印になってしまうことに、ジンは率直に不安を抱く。

「儂の心配した通りになってしまった……」

 悔しさに歯噛みするジンを他所に、ルードは弟の肩を抱く。一歩下がって息子達を見るマグノリアが先んじて拍手をし始めた。それを受けてルードは演説のボルテージを上げていった。


 
「我が弟の他にも四人のカリシムスがセイソン様のもとに降臨している! つまり、我々の土地にはチルチル神教からの強力な加護がおわすのだ! チルクサンダー魔教会などここから一掃してしまおう!」


 
 ──オオオオオオッ!!


 
 今までで一番の歓声が上がる。それは地響きのように砂漠の土地を揺らした。
 砂煙が舞う。それは湧き上がった民衆の熱を運んでいた。

「さあ! 腕に覚えのある者は我々に続け! セイソン様の加護がある限り、我々の勝利は揺るがない!!」


 
 大きな波が押し寄せる。民達の叫びの波だ。
 それは大きなうねりになって、自由への到達点ゴールを目指す。


 
 ミチルも、ルークも、イケメン達も。
 そのうねりに巻き込まれながら、前に進むしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

異世界転移した先は陰間茶屋でした

四季織
BL
気が付いたら、見たこともない部屋にいた。そこは和洋折衷の異世界で、俺を拾ってくれたのは陰間茶屋のオーナーだった。以来、俺は陰間として働いている。全くお客がつかない人気のない陰間だけど。 ※「異世界に来た俺の話」と同じ世界です。 ※謎解き要素はありません。 ※ミステリー小説のネタバレのようなものがありますので、ご注意ください。

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

処理中です...