転生帰録スピンオフ──皓矢と名探偵ルリカ

城山リツ

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事件簿① 二本の矢盗難事件

サスペンスのセオリーなんだよ!

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「えーっとぉ、まず被害にあったブツの情報を整理つるわよ」
 
「はあ……」
 
 ルリカはどこから持ち出したのか、小さなメモ帳とボールペンを器用に持っていた。
 
「行方がわからなくなったのは、翠破すいは紅破こうはっちゅー矢だったモンのやじりらね?」
 
「そうだねえ」

 息抜きの休憩のつもりで皓矢こうやはこの茶番に付き合うことにした。だから返事は自然と気の抜けた感じになる。
 
「こいつはあれでしょ?ぬえの亡骸から出てきたんだったね」
 
「翠破はね。紅破の方は鵺化した蕾生らいおくんが吐き出したんだ」

 皓矢が説明すると、ルリカはまたペッと唾を吐く真似をしながら言った。
 
「あー、あのクソガキね。いっちょ前に金色の鵺なんかになりおっていまいまちい」
 
「あれは凄かったよねえ」
 
「その事でこーやにおはなちがあります」
 
「うん?」

 ルリカは急に真面目な顔になったと思ったら、次の瞬間には湯沸かし器のように興奮してまくしたてた。
 
「あのね!あのクソガキが金色でも、あたちは勝ったから!それを勝手に降参なんかちて!」
 
「いやあ、どうかなあ……?」

 皓矢が目を泳がせながら言うと、ルリカはずいと顔を近づけてヤンキーのように睨む。
 
「はあん!?金色だろうがうんこ色だろうが、よゆーだったから!」
 
「ルリカ、レディがそんな言葉を口にしてはいけないよ」
 
「あら、おほほ、いけない。あたちとしたことが──ってあたちに性別なんかないから!式神だから、鳥なんだから!」

 ノリツッコミができる式神は全国探してもルリカだけだろう。そのことは誇らしいと皓矢は思っている。
 
「鳥扱いすると怒るくせにぃ」
 
「式神扱いすればいいんだろーが!刺してねじるよ!?」
 
「それは痛そうだ」

 終始のんびりにこにこしている皓矢にルリカは毒気を抜かれた。
 
「……まあ、いいわ。あたちは過去は振り返らない女なの」
 
「自分から振り返ったよね?性別ないんじゃなかった?」
 
「慣用句でしょうが!揚げ足とってんじゃないよ!こーやのくせに!」
 
「はーい」

 皓矢はすっかりセルフエンタメとして楽しんでいる。
 
「ったく、これだから人間の相手は疲れるわ」
 
「それで?どこから調べるんです?名探偵さん」
 
「そうらね、まずはげんばけんしょーとしょーげんを集めるわ!」
 
「おお、本格的」

 皓矢が拍手でもって称賛すると、ルリカもまんざらでもなく胸を張った。
 
「昨日、再放送の刑事ドラマでやってた!おじさん二人のやつ」
 
「ああ、なるほど」
 
「そんで、こーや。翠破と紅破を最後に見たのはいつ?」
 
「えっ?……そうだなあ、えーっと」

 皓矢が迷っていると、ルリカはキラリと視線を光らせてカッコつけた。
 
「めーかくに答えないと重要参考人でしょっぴくからね」
 
「僕は被害者では?」
 
「最初の被害者とか、第一発見者とかが一番犯人の可能性があるんだよ!」
 
「よく見てるんだねえ、サスペンス」

 皓矢が感心していると、ルリカは更にのけぞらんばかりで得意になっていた。
 
「ふふん、あたちのヒマな一日を舐めてもらっちゃ困る。その気になればチャンネルを駆使して再放送が一日中見れるから!」
 
「マイブームなんだねえ」
 
「さあ、最後に見たのはいつ!?」

 ルリカがずい、と迫ると、皓矢は天井を見つめながら懸命に思い出そうとした。
 
「ええっと、昨夜かなあ?遅くまで調べものしててここで寝落ちしたろう?目が覚めてからは見た記憶がないかも……?」
 
「なるほどぉ、敵はゆうべ、こーやが寝静まったのを見計らって犯行に及んだのか……」
 
「いや、侵入者がいたらさすがの僕も気づくけどね?」

 皓矢のつっこみはルリカには聞こえていない。


 
「よーし!次は現場ひゃっぺんなんだよ!」







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お読みいただきありがとうございます
もし良かったら本編「転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ」も読んでみてください!

続編二部「転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔」は5月27日から公開です!
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