転生帰録スピンオフ──皓矢と名探偵ルリカ

城山リツ

文字の大きさ
8 / 8
事件簿① 二本の矢盗難事件

やっぱりあたちは有能なんだよ!

しおりを挟む
 ルリカは青いカラス型式神である。すなわち、青ざめてもよくわからない。しかし、今日に限って言えば、ルリカは青ざめていることがよくわかった。

「参ったな……」

 そして皓矢こうやも頭を抱えていた。何せ、あのやじりは借り物で、大口叩いて詐欺まがいに言いくるめて入手したものなのだから。

「あ、あたち……腹をかっさばかれる!?」

「いや、さすがにそれはちょっと」

「じゃあ、逆さまに吊るされて吐き出すまで叩かれる!?」

「叩きはしないけど、イイ線だね」

「ひいぃいぃ!いぃやあぁぁ!」

 ルリカはパニくってその場をバッサバッサ飛び回った。動揺しているため抜け羽が激しく散る。

「ル、ルリカ落ち着いて。冗談だって!」

「ちぃぃっ!れも、れも、あたちから鏃は取り出さないといかんれしょ?」

 散々横柄な態度で皓矢を馬鹿にしまくっていたが、急に弱気になって瞳をウルウルさせている様はどうにも哀れだ。

「うーん、なんとか吐き出せないかな?」

「ちいぃ、いやだよぉ、逆さまはいやだよぉ」

「あっ!掃除機で吸いとるってどうかな?」

「正月に餅つまらせた老人ぢゃねえぞ!」

 怯えながら怒るルリカは忙しない。そして相反する感情の波に翻弄される。

「う……罪悪感とストレスで気持ち悪くなってきた」

「さすがルリカ、高次元の感情を備えてるね」

「まずい!さっき食べた草もちが出ちゃう!」

「た、大変だ!エチケット袋!」

 しかしそんなものがあるはずもない。皓矢は仕方なくルリカの嘴下に自らの両手を添えた。

「ルリカ!しっかり!」

「う、うう……コッ、コッ、コケッ!」

 鶏の真似ではない。猫とかが毛玉を吐き出す時のアレである。

「コケッ、コケッ、コケェッ!!」

 コロン、コロン

 ルリカは硬い何かを吐き出した。

「ああ!草もちが消化されきって、石みたいになっとる!」

「いや、違うよ、ルリカ」

「へ?」

「これこそ、翠破すいは紅破こうはだよ!」

 皓矢の手の中には本物の鏃が二つ戻ってきていた。

「よ、よがっだぁあ!」

 ルリカは感涙の涙を流す。
 しかし、皓矢の表情は暗かった。

「ああ……一時的とはいえ式神の体内に取り込まれたんだ。変質していないかもう一度調べないと……。まずは霊子レベルでスキャンして、それからルリカの霊力パターンを抽出して……」

「こ、こーや……?」

 ルリカが恐る恐る声をかけると、皓矢は少し白い顔で力なく笑った。

「ルリカは疲れたろう。休んでいいよ……」

 そう言って皓矢は先に部屋を出ていった。

「こーや……」

 ポツンと残されたルリカは己の過ちを悔いるのだった。



 
 十数時間後。

「ルリカ!ルリカ!!」

 皓矢が研究室に戻ってくると、ルリカはめったに入らない鳥籠の中で項垂れていた。

「ルリカ?どうしたんだい、そんなところで」

「……何も言わないでくだちゃい。あたちは反省中なんれす。あたちは所詮古いだけの式神なんれす……」

 ルリカはすっかりしょげかえって卑屈モードになっていた。

「何言ってるんだい!お手柄だよ、ルリカ!」

「ぺ?」

「ルリカが飲み込んでくれたおかげで、鏃の中のキクレー因子配列が鮮明になったんだ!」

「……つまり、どういうことれすか?」

 皓矢は興奮したまま早口で説明した。

「ルリカは鵺探知特化型式神だろう。君の中にはあらゆる配列のキクレー因子サンプルが記録されているんだ。翠破と紅破の記録ももちろんあった!経年劣化して不鮮明だった因子の配列がルリカの体を経て蘇ったんだよ!」

「ぽ?」

「すごいよ、これで鏃の能力を活性化できる!さすがルリカだね!」

 まぢで?

 まぢで、あたち、すごい?

「ああ、良かった!きっとこの鏃ははるかくんの役に立つだろう!」

 ぱらららーん

「ルリカ、復活!なんだよ!」

 急に元気になったルリカは鳥籠の入口を蹴破った。

「ほーっほっほ!やっぱりあたちはすごいんだよ!全部こうなるってわかってたんだから!」

 ルリカにしょんぼりは似合わない。

「こーやもあたちに感謝するといいよ!」

 調子が良くって、おだてに弱くて、憎めない。



「それがあたちなんだよ!!」



 皓矢と名探偵ルリカ 事件簿①二本の矢盗難事件 解・決!







==============================
お読みいただきありがとうございました
もし良かったら本編「転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ」も読んでみてください!

続編二部「転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔」は5月27日から公開です!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

カウントダウンは止められない

ファンタジー
2年間の「白い結婚」の後、アリスから離婚を突きつけられたアルノー。 一週間後、屋敷を後にするが……。 ※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

処理中です...