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第一章 夢見るケモノは呪われている
第8話 所長の圧がすごい
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「ではこのプログラムの最後に、予め録画しておいたものにはなりますが、銀騎詮充郎博士よりお集まりの皆様にメッセージがございます」
銀騎皓矢のその言葉を合図に、ステージが再び暗くなりプロジェクターの可動音だけが会場内に響き渡る。
少しの沈黙の後、白い画面が浮かび上がり老齢の白衣を着た男性が映った。深い皺が刻まれた痩せ型の姿は、見ている者に畏敬の念を抱かせるには充分の鋭い眼差しをしている。
まるで静止画のようにしばらくピクリとも動かなかったが、ようやく開いた口から出てくる声は身もすくむほど威圧に満ちたものだった。
「……銀騎詮充郎で御座います。本日は当研究所にお越しいただき、厚く御礼申し上げる。私は自らの探究心に従い、この世界の真理というものを追いかけ続けている。一般民衆の諸君、疑問に思ったことを放棄するべきではない。何故ならそこには必ず矛盾があるからだ。考えることを止めるな。考え続けることだけが、我々人間に与えられたただひとつの武器なのだから」
一方的にまくしたてながら動画が終わる。観客達はそれまでの浮かれた熱が一気に冷まされたように静まり返った。
「あ、し、失礼しました! 祖父は研究のことしか頭にありませんで、自分の研究理念を端的に申し上げたつもりなのですが、ご覧の通りの強面なので……」
会場の空気を察してか、銀騎皓矢が焦った声で援護すると、「強面」の部分で何人かが笑った。
すると緊張がとけて、拍手が起こる。
壇上の銀騎皓矢はほっとした表情を浮かべ、ペコペコと頭を下げた。先程までは副所長としての威厳を感じるような振る舞いだったが、今の彼にはそれが見当たらない。
もしかしたら、こちらの方が素顔なのかもしれないと蕾生は思って苦笑した。
「ではこれからいくつかのグループにわかれて、研究所内をご案内いたします。誘導する職員がお声がけするまでそのままお待ちください」
司会の女性がそう言うと、銀騎皓矢はステージを去り、会場内も明るくなったので客達は思い思いに雑談をし始める。
「さっきのさ……」
不意に永が口を開いた。随分と久しぶりに声を聞いた気がする。それだけ講和にいつの間にか集中していたのかと蕾生は不思議な気持ちになった。
「銀騎博士のこと、どう思った?」
そう尋ねる永の表情が心なしか強張って見え、忘れていた違和感を思い出す。
「どうって……なんかこえーし、空気読めないジジイだなってくらいしか」
蕾生の答えに永は吹き出して笑った。
「ジジイって……! めっちゃ偉い博士なのに……っ」
「でも圧が凄くて、あんまり会いたくないタイプのジジイだ」
「ハハ! そうだね、写真で見るくらいがちょうどいいよね」
永はひとしきり笑った後、諦観めいた顔をしてボソリと呟いた。
「できるなら、二度と会いたくなかったなあ……」
会ったことがあるのかと言いかけて、蕾生は口を噤んだ。掘り下げてはいけない話題のように感じたからだ。
「周防様、唯様、いらっしゃいますか?」
職員らしい男性の声に、永も蕾生も思わず立ち上がった。
「呼ばれたから行こっか」
そう言う永の表情はもう元の通りだった。
「さ、楽しいオリエンテーリングの始まりだね」
十五年の付き合いの中で、こんなに不安定な永を見るのは初めてだ。
この研究所に何があるというのか。できれば気のせいであって欲しい蕾生だが、頭の奥では警報が鳴り響いていた。
銀騎皓矢のその言葉を合図に、ステージが再び暗くなりプロジェクターの可動音だけが会場内に響き渡る。
少しの沈黙の後、白い画面が浮かび上がり老齢の白衣を着た男性が映った。深い皺が刻まれた痩せ型の姿は、見ている者に畏敬の念を抱かせるには充分の鋭い眼差しをしている。
まるで静止画のようにしばらくピクリとも動かなかったが、ようやく開いた口から出てくる声は身もすくむほど威圧に満ちたものだった。
「……銀騎詮充郎で御座います。本日は当研究所にお越しいただき、厚く御礼申し上げる。私は自らの探究心に従い、この世界の真理というものを追いかけ続けている。一般民衆の諸君、疑問に思ったことを放棄するべきではない。何故ならそこには必ず矛盾があるからだ。考えることを止めるな。考え続けることだけが、我々人間に与えられたただひとつの武器なのだから」
一方的にまくしたてながら動画が終わる。観客達はそれまでの浮かれた熱が一気に冷まされたように静まり返った。
「あ、し、失礼しました! 祖父は研究のことしか頭にありませんで、自分の研究理念を端的に申し上げたつもりなのですが、ご覧の通りの強面なので……」
会場の空気を察してか、銀騎皓矢が焦った声で援護すると、「強面」の部分で何人かが笑った。
すると緊張がとけて、拍手が起こる。
壇上の銀騎皓矢はほっとした表情を浮かべ、ペコペコと頭を下げた。先程までは副所長としての威厳を感じるような振る舞いだったが、今の彼にはそれが見当たらない。
もしかしたら、こちらの方が素顔なのかもしれないと蕾生は思って苦笑した。
「ではこれからいくつかのグループにわかれて、研究所内をご案内いたします。誘導する職員がお声がけするまでそのままお待ちください」
司会の女性がそう言うと、銀騎皓矢はステージを去り、会場内も明るくなったので客達は思い思いに雑談をし始める。
「さっきのさ……」
不意に永が口を開いた。随分と久しぶりに声を聞いた気がする。それだけ講和にいつの間にか集中していたのかと蕾生は不思議な気持ちになった。
「銀騎博士のこと、どう思った?」
そう尋ねる永の表情が心なしか強張って見え、忘れていた違和感を思い出す。
「どうって……なんかこえーし、空気読めないジジイだなってくらいしか」
蕾生の答えに永は吹き出して笑った。
「ジジイって……! めっちゃ偉い博士なのに……っ」
「でも圧が凄くて、あんまり会いたくないタイプのジジイだ」
「ハハ! そうだね、写真で見るくらいがちょうどいいよね」
永はひとしきり笑った後、諦観めいた顔をしてボソリと呟いた。
「できるなら、二度と会いたくなかったなあ……」
会ったことがあるのかと言いかけて、蕾生は口を噤んだ。掘り下げてはいけない話題のように感じたからだ。
「周防様、唯様、いらっしゃいますか?」
職員らしい男性の声に、永も蕾生も思わず立ち上がった。
「呼ばれたから行こっか」
そう言う永の表情はもう元の通りだった。
「さ、楽しいオリエンテーリングの始まりだね」
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