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第二章 離された手、繋がれた手
第12話 初めて女子の家へ
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少し曇り空の日曜日。待ち合わせ時間通りに家から出てきた蕾生に、永は落ち込んで息を吐いた。
「えええー……」
蕾生は、一週間ずっと同じ調子の永に辟易している。さらに今日は不憫な目で見られたので自然と文句がでた。
「お前なあ、ここんとこ毎朝同じ顔してるぞ。そんな顔で迎えられる俺の身にもなってみろ」
「大丈夫? 寝た?」
それでも永は不安そうな表情をやめない。
「寝たよ、大丈夫だよ」
蕾生にとっては言い飽きた台詞だ。ここ一週間は夢も見ることがなく、自分でも驚くくらいに朝起きた時の頭はすっきりしている。けれど永は疑いの眼差しで首を傾げた。
「ほんとかなあ」
「ていうか、昨日は土曜だから、いつもより寝てるからな。それに今日だって早朝ってほどじゃないだろ」
「えええっ、そんな自己管理ができる子じゃなかったのに!」
永は大袈裟に後ずさって衝撃を受けたような顔を見せたが、声が明るいのでふざけはじめたな、と蕾生は面倒くさくなった。
「もういい、行くぞ」
プイとそっぽを向いて先に歩き出す蕾生に、永は慌ててついて行った。研究所は学校と公園を越えた先にあるので、歩く景色はいつもとほぼ変わらない。ただの休日なので若干歩いている人が少なかった。
「あー、めんどくさいなー」
道中の半分を過ぎた頃、永がかったるそうにぼやく。
「え?」
正気かこいつ、と蕾生は怪訝な顔で聞き返してしまった。
「リンのことを探らなくちゃいけないのに、親戚のクソガキの話し相手させられるんでしょー」
「そのクソガキがいたから家に行けるんだろが」
「そうなんだけどさぁ……」
永は口をへの字に曲げたままため息を吐いた。
「まあ、ただ部屋で話すだけじゃ、リンのことなんか探れねえけど、どうするんだ?」
「うん……、例えばその親戚のお子様に取り入って、話を盛り上げて、研究施設見たーいって言ったら見せてくれるかなあ?」
「どうだろうな。銀騎の雰囲気なら頼めば少しは見せてくれるか?」
蕾生は学校での銀騎星弥を思い返す。少し意識を向けるだけで、校内のどこでも彼女の姿を確認することができた。
休み時間は教師の手伝いをしているし、放課後になれば校内清掃をしていたり、蕾生が永に無理矢理押し付けられた監査委員会という死ぬほどつまらない会議にも出席し、一年生の議長までやっていた。
とにかく忙しなく誰かのために動いている。しかも嫌な顔もせず、常に笑顔のままで。彼女なら何を頼んでも快く受けてくれると学校の誰もが思っているようだった。
「だからさ、僕はそのクソガキじゃなくてお子様頑張って洗脳するから、ライくんは銀騎さんを頼むよ」
「ええ!? どうやって?」
永が使った物騒な言葉に蕾生は戸惑った。女子と話すこと自体がほぼ無理なのに、洗脳だなんて月まで飛べと言われる方ができそうだ。
「基本的にはいつも通りのライくんでいいよ。なんか彼女、ライくんのこと気に入ってるみたいだし」
「そんなことねえだろ」
銀騎星弥は誰にでも優しくにこやかに接する。自分だって例外ではないと蕾生自身も疑ってはいなかった。
「んもう、朴念仁はこれだからしょうがない! 口下手なりに一生懸命会話してみ? 多分それで結構いいセンいくと思うな」
人の観察眼にかけて、永より優れた人物に出会ったことはない。永の分析がそう言うならそうなのかもしれない、と蕾生は思い直して自分に向けられた彼女の笑顔を思い出す。
「会話、会話か……」
「頼むよー、自然でいいからね!」
「お、おう……」
ほんとかよ、ついでに揶揄ってんじゃねえだろうなと蕾生は半信半疑だった。だが自分が銀騎星弥と話すしかないのはその通りなので、蕾生はにわかに緊張が増した。
「えええー……」
蕾生は、一週間ずっと同じ調子の永に辟易している。さらに今日は不憫な目で見られたので自然と文句がでた。
「お前なあ、ここんとこ毎朝同じ顔してるぞ。そんな顔で迎えられる俺の身にもなってみろ」
「大丈夫? 寝た?」
それでも永は不安そうな表情をやめない。
「寝たよ、大丈夫だよ」
蕾生にとっては言い飽きた台詞だ。ここ一週間は夢も見ることがなく、自分でも驚くくらいに朝起きた時の頭はすっきりしている。けれど永は疑いの眼差しで首を傾げた。
「ほんとかなあ」
「ていうか、昨日は土曜だから、いつもより寝てるからな。それに今日だって早朝ってほどじゃないだろ」
「えええっ、そんな自己管理ができる子じゃなかったのに!」
永は大袈裟に後ずさって衝撃を受けたような顔を見せたが、声が明るいのでふざけはじめたな、と蕾生は面倒くさくなった。
「もういい、行くぞ」
プイとそっぽを向いて先に歩き出す蕾生に、永は慌ててついて行った。研究所は学校と公園を越えた先にあるので、歩く景色はいつもとほぼ変わらない。ただの休日なので若干歩いている人が少なかった。
「あー、めんどくさいなー」
道中の半分を過ぎた頃、永がかったるそうにぼやく。
「え?」
正気かこいつ、と蕾生は怪訝な顔で聞き返してしまった。
「リンのことを探らなくちゃいけないのに、親戚のクソガキの話し相手させられるんでしょー」
「そのクソガキがいたから家に行けるんだろが」
「そうなんだけどさぁ……」
永は口をへの字に曲げたままため息を吐いた。
「まあ、ただ部屋で話すだけじゃ、リンのことなんか探れねえけど、どうするんだ?」
「うん……、例えばその親戚のお子様に取り入って、話を盛り上げて、研究施設見たーいって言ったら見せてくれるかなあ?」
「どうだろうな。銀騎の雰囲気なら頼めば少しは見せてくれるか?」
蕾生は学校での銀騎星弥を思い返す。少し意識を向けるだけで、校内のどこでも彼女の姿を確認することができた。
休み時間は教師の手伝いをしているし、放課後になれば校内清掃をしていたり、蕾生が永に無理矢理押し付けられた監査委員会という死ぬほどつまらない会議にも出席し、一年生の議長までやっていた。
とにかく忙しなく誰かのために動いている。しかも嫌な顔もせず、常に笑顔のままで。彼女なら何を頼んでも快く受けてくれると学校の誰もが思っているようだった。
「だからさ、僕はそのクソガキじゃなくてお子様頑張って洗脳するから、ライくんは銀騎さんを頼むよ」
「ええ!? どうやって?」
永が使った物騒な言葉に蕾生は戸惑った。女子と話すこと自体がほぼ無理なのに、洗脳だなんて月まで飛べと言われる方ができそうだ。
「基本的にはいつも通りのライくんでいいよ。なんか彼女、ライくんのこと気に入ってるみたいだし」
「そんなことねえだろ」
銀騎星弥は誰にでも優しくにこやかに接する。自分だって例外ではないと蕾生自身も疑ってはいなかった。
「んもう、朴念仁はこれだからしょうがない! 口下手なりに一生懸命会話してみ? 多分それで結構いいセンいくと思うな」
人の観察眼にかけて、永より優れた人物に出会ったことはない。永の分析がそう言うならそうなのかもしれない、と蕾生は思い直して自分に向けられた彼女の笑顔を思い出す。
「会話、会話か……」
「頼むよー、自然でいいからね!」
「お、おう……」
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