転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
55 / 122
第三章 君を取り戻す

第17話 邂逅の予感

しおりを挟む
「ね? 皓矢こうや、貴方がしょっちゅう家に帰ってきてくれたら、星弥せいやが男の子を連れて来たって私も安心できるのよ?」
 
「──わかりました。いっそうの努力をします」
 
 苦笑して言う皓矢の反応を窺い見ても、特に変わった所はない。だが皓矢はポーカーフェイスが得意だし、星弥はこの兄の本心がわかるような場面に遭遇したことがなかった。
 
 自分にとっては優しい兄であるし大好きなのだが、研究者として、または陰陽師としての皓矢がどんな風なのかは星弥にはわからなかった。
 いや、今まで意識してわかろうとしてこなかったのかもしれない。そこに踏み入れることは祖父の不興を買うことになるからだ。
 
鈴心すずねも彼らに会ったのかい?」
 
 話題が終わるかと思ったら、あろうことか皓矢は黙って食べるだけの鈴心にそれを振った。
 星弥は心臓が飛び出る思いで鈴心の反応を見守る。
 
「……少し」
 
 さすがに星弥より冷静な鈴心は、ただ一言呟いただけだった。
 だが皓矢はそれでも食い下がる。
 
「どんな感じだった? 星弥にとっていい友人だったかな?」
 
「よくわかりません。星弥がいいなら良いのでは」
 
「そうだねえ。星弥が選んだ人なら、僕は応援したいな」
 
 一刻も早くこの話題を終えるには自分がピエロになるしかないことを悟った星弥は顔を赤らめて少し高い声を上げる。
 
「もう、兄さん! そういうんじゃないってば!」
 
「ははは」
 
 星弥の態度に騙されてくれたのか、皓矢は笑ってそれ以上は言わなかった。すぐに母親から別の話題が提供されるので久しぶりの団欒はつつがなく続くのであった。


 


◆ ◆ ◆

 
 
 家の者が寝静まったのを確認した後、皓矢は自室でパソコンを立ち上げる。しばらくすると祖父からリモートの要請が届く。
 それを承認すると暗い画面の中に険しい表情の銀騎しらき詮充郎せんじゅうろうが映った。
 
「何かわかったか?」
 
「星弥と鈴心に接触した人物がいます。例の二人です」
 
「──確かか?」
 
 皓矢が短く報告すると、詮充郎は片眉だけ動かしてしわがれた声を出した。
 
「監視カメラで確認しましたが、お祖父様のおっしゃる通りの容貌でしたので間違いないかと」
 
 すると画面の向こうの詮充郎は顔を歪めて高らかに笑う。
 
「く、く、くははは! そうか! もう転生してきたか!!」
 
「先日の侵入者もおそらく彼らでしょう」
 
「結構! 相変わらず行動力が旺盛で大いに結構! つまらない見学会でも開いてみるものだ!」
 
「では、しばらくは様子見でよろしいのですか? 星弥も巻き込んでいるようなので心配で……」
 
 皓矢の不安をよそに、詮充郎は吐き捨てるように言う。
 
「星弥が増えたところで、奴らの助けになるとは思えん。寧ろあの子には奴らの情報を引き出してもらおう」
 
「もしも星弥が人質にされたら……」
 
「そんなことはせんよ。奴らの弱点は何だと思う?」
 
「さあ……僕はあの時四歳でしたから……」
 
 皓矢が控えめに首を傾げると、詮充郎は少し得意気に演説ぶって答える。
 
「奴らは年齢を重ねた経験がない。九百年という年月を経ていても、子どものままだということだ。甘いのだよ、基本的にな」
 
「そうですか──」
 
「ふ、ふ。まだ私に機会が残されていたとは! 今夜は久しぶりに良い気分だ。ケモノの王よ! 今度こそその身を頂く!」
 
 すでに詮充郎は皓矢に話してはいない。自身のみで完結して笑い続けた後、通信は一方的に切れた。


 
 今まで滔々と語られてきた、皓矢にとってはその夢物語が、まさか現実として目の前に現れるとは思わなかった。
 だが、すでにそれは起きようとしている。星弥と鈴心は無事でいられるのだろうか。皓矢はそれだけが気がかりである。
 
「……」
 
 傍らに置いた、自分と同い年の父親の姿に視線を移した後、皓矢は自らの掌に意識を集中させる。
 
 青く、輝かしい羽を携えた鳥が皓矢の周りを飛び回った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...