転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
59 / 122
第四章 新たな仲間とともに

第4話 コレタマ部

しおりを挟む
 蕾生らいお星弥せいや、二人だけの部員に向かって、はるかが仰々しい口調で切り出した。
 
「では、コレタマ部の活動を始めます!」
 
「コレタマ?」
 
 星弥が首を傾げると、待ってましたと言わんばかりに永が説明した。
 
「これからの地球環境を考える──略してコレタマ部ね」
 
「……」
 
 星弥が無反応なので蕾生は渋々捕捉してやった。
 
「あれからずっとそのあだ名考えてたんだと」
 
 蕾生が目撃したのは午後の授業中、永がノートのはじに何かを書いては頭を捻っていた姿だ。
 授業が終わる頃、やっといくつか書いた単語の中のひとつに花丸をグリグリと書いた様を後ろから見ていた蕾生は、何とも言えない気持ちになった。
 
「そうなんだ、か、可愛いと思うよ」
 
「まあ、俺はなんでもいい」
 
 どもりながら目を逸らす星弥と無関心の蕾生。
 二人の否定的な反応にもめげずに永は続けた。
 
「ふ、ヒラ部員は黙らっしゃい。ンン、初日の今日はとても重大な議題があります」
 
 咳払いで空気感を変え、神妙な面持ちで言えば、つられて二人も固唾を呑んで永の言葉を待つ。
 
「リンをこの場にどうやって呼ぶのか? ──であります」
 
 改まったわりに想像の域を出なかった議題に、蕾生も星弥も緊張を解いて唸った。
 
「あー、それな」
 
「そうなんだよねえ……」
 
「一番簡単なのはリモート参加だけど、銀騎しらき家の携帯電話やパソコンは無理でしょ?」
 
 永がそう言うと、星弥も即座に頷く。
 
「だねえ。電波を傍受されてたら、クラブ作った意味がなくなっちゃう」
 
鈴心すずねはこの時間だと何やってるんだ?」
 
 続いて蕾生が質問すると、星弥は小首を傾げながら答えた。
 
「うーんと、多いのは勉強かな。兄さんが毎日パソコンに課題を送ってくるから、それをやってると思う。ここ数年は研究で忙しくてマンツーマン授業ができなくなったんだよね」
 
 それを聞いた永が前のめりになって尋ねる。
 
「ふうん。じゃあ、以前よりもリンは自由なんだ?」
 
「そうだね、活動範囲は自宅と研究所だけなんだけど、好きな時に勉強したり、読書したりしてるみたいだよ。研究所も顔パスでどこでも入れるし」
 
「それは普通に軟禁状態だろ」
 
「まあ……」
 
 蕾生の冷ややかな指摘に星弥は苦い顔をしてみせた。
 
「ふむ。やっぱり研究所の敷地より外には出られない感じ?」
 
 永が問うと、星弥は頷きながら答える。
 
「難しいと思う、お祖父様から禁止されてるし。わたしから兄さんに頼んでみることも考えたけど──」
 
「怪しまれるだろうな」
 
「うん……急にそんなこと言い出したら、ね」
 
 蕾生の的確な言葉を肯定して、星弥は困った表情で眉を寄せた。
 
「せめてあそこから出られたらなー。その後こっちの学校に忍び込むくらいはリンなら簡単なんだけど」
 
 永もぼやくけれど、良い考えは浮かびそうにない。
 
「アナログだけど、交換日記くらいしか思いつかないかなあ」
 
「そうだねえ、メールやメッセージアプリは危険だから、手書きのノートでやり取りするのが一番秘密は守れる」
 
 星弥と永のやり取りを聞いて、蕾生は少し苛立って反応した。
 
「──めんどくせえな、タイムラグもかなり出来るし」
 
「でも、それくらいしか……」
 
「思いつかないよねえ……」
 
 結局この日は良いアイディアが出る事はなく、とりあえず星弥がノートを買っておくことだけが決まって散会となってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...