転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
67 / 122
第四章 新たな仲間とともに

第12話 刀と弓

しおりを挟む
 雨が続く週の半ば。ここ最近の天気は部室に引き篭もるには最高だと言う理由で、コレタマ部の会議が開かれた。
 
「さあて、野外活動も一回やったし、しばらく部室に引きこもっても大丈夫だろう、ということで……これからの本格的な話し合いをします!」
 
 はるかは部長らしくその場を仕切り、クラブ発足人の星弥せいやも笑顔で返事をするなど付き合いの良さを発揮している。
 
 鈴心すずねは背筋を延ばして前のめりで永の言葉を真面目に聞いていた。
 自分の隣でそんな姿勢でいられると少し窮屈さを蕾生らいおは感じる。そもそも部室も机も椅子も、蕾生にはどれもサイズが小さい。
 
「まず何をするんだ?」
 
 蕾生が問うと、永は明るい調子で答えた。
 
「ライくんには少し話したけど、まずは萱獅子刀かんじしとうを探します!」
 
「って言うと、あれか、はなぶさ治親はるちかぬえを退治した褒美にもらったっていう──」
 
「そう、その刀!」
 
 まるでクイズ番組の司会のような仕草で蕾生を指さす永の隣で星弥が首を傾げていた。
 
「カンジシ……?」
 
「漢字ではこう書きます」
 
 鈴心は阿吽の呼吸でノートを取り出し、文字を書いて星弥に見せた。チラと目に入ったノートが小学生の雑誌のおまけでつくような可愛過ぎるもので、それを見た蕾生は思わず目を逸らす。ふと永の方を見ると口を開けて笑いを堪えていた。
 
「へー」
 
 それを買い与えたであろう人物は、何でもないような顔をして鈴心が書いた文字をしげしげと見つめていた。
 
「その刀はなんで必要なんだ?」
 
 ノートをいじっても話題が進まないので、蕾生は余計なことは無視して永に続きを促した。
 
「うん、萱獅子刀の存在は『鵺を退治した』っていう事象の完結を表していてね」
 
「ジショウのカンケツ……?」
 
 今度は蕾生が首を傾げる番になった。その予想はしていたのだろう、永はゆっくりとした口調で説明する。
 
「噛み砕いて説明すると、『鵺を退治した』から萱獅子刀を持ってる──ということは、言い換えれば『萱獅子刀を持つ』ことは『鵺を退治した』ことを意味しているんだ」
 
「全然わからん」
 
 だがそれもむなしく、蕾生には何を言ってるのか理解できなかった。
 
「つまり、『鵺を退治した』という未来をその刀を持つことで引き寄せる──ってこと?」
 
 星弥が言い換えてみせると、永もにっこり笑って答える。
 
「当たり。そういうアイテムを僕らが持つことで鵺の弱体化を図ろうってわけ」
 
「う……ん?」
 
 蕾生が理解に苦しんでいると鈴心も助け舟を出す。
 
「呪術ではよくそういう考え方をします。私達も昔ある方にそう教わって、できるだけ慧心弓けいしんきゅうと萱獅子刀を揃えようとしてきました」
 
「ケイシン、何だって?」
 
 理解する前にもう新しい単語が出てきて、蕾生の頭はさらに混乱した。
 
「リン! いきなり新しいワードを出さないの!」
 
「申し訳ありません……」
 
 シュンとして縮こまる鈴心を他所に、星弥が興味津々で聞く。
 
「キュウっていうと、弓かな? もしかして鵺を射抜いた弓?」
 
「そうそう、さすがは銀騎しらきサマ! 慧心弓は英治親が持っていた弓で、鵺を射抜いたもの。こっちの方がわかりやすいかな?」
 
 永が蕾生に向き直り尋ねる。鵺を最初に仕留めたのは弓矢だったことを蕾生は思い出した。
 
「鵺を倒した武器ってことか? それがあったら倒せるってのはなんとなくわかる」
 
「そうそう。つまりね、鵺を倒した弓と鵺を退治した証の刀、手段と結果を手にすることで、もう鵺は滅ぶしかないよねっていう状況を作ろうってこと」
 
「ふうん?」
 
 どうしてそんなにややこしい言い方をするんだと思うが、自分以外はわかっていそうなので蕾生はわかったような振りを試みる。
 
「──なるほど」
 
 星弥は落ち着いて頷いていた。やはり本物の陰陽師の末裔と、オカルトを聞きかじっただけの一般人とは、天と地ほどの差がある。
 
「ようするに、その弓と刀でもって鵺と戦ったら勝てるってことだな?」
 
「シンプルに言えばそう」
 
「なら最初からそう言ってくれ」
 
 蕾生はなんだかどっと疲れた。その姿を見て永は苦笑いしていた。
 
ただくんの言うことももっともだけど、武器の背景を知ってた方がそれを扱う時の力がより強くなると思うよ」
 
「そういうもんなのか?」
 
「うん」
 
 普通の女子高生に見える星弥が、時折見せる「普通じゃない」雰囲気。それを改めて蕾生は感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...