転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ

文字の大きさ
68 / 122
第四章 新たな仲間とともに

第13話 奪われた刀

しおりを挟む
「で、銀騎しらきが持ってる可能性が高い萱獅子刀かんじしとうからまず探したいって思ってるんだけど」
 
「そういえば、何回か前の転生で銀騎に奪われたって言ってたな」

 蕾生らいおは記憶を辿りながら、はるかに確認した。
 
「うん。で、リンと銀騎さんに聞きたいんだけど、何か知ってる?」
 
 永がそこで尋ねると、星弥せいやは首を振って答えた
 
「いや、わたしは。萱獅子刀なんて初めて聞いたもの」
 
「ああ、さっきの君の反応でそうかなって思ったけど、やっぱり。リンは?特に御堂みどうの家で」
 
 そう永が言うと、鈴心すずねは少し挙動不審に目を泳がせて探るように口を開く。
 
「御堂の、ですか。ハル様は御堂の関与を疑ってると……?」
 
「鈴心の実家か? 銀騎の分家っていう」
 
「うん。実は前回、銀騎と揉めるついでに御堂とも揉めたんだよねー」
 
 てへへ、と永が笑う。実は、というパターンは今までに何度もあったので蕾生もいちいち驚くのをやめた。
 
「御堂の家では……見たことはありません」
 
「そうかー」
 
 鈴心の答えに残念そうにしながら、永は椅子の背もたれに軽く寄りかかって眉を寄せた。
 
「でも、永は刀は銀騎研究所にあるって思ってるんだろ?」
 
「そうだねえ、その可能性が一番高いとは思ってる。御堂から取り返すのは簡単だろうからね」
 
「刀は一度御堂ってヤツの手に渡ったのか?」
 
 蕾生の疑問に、永は言いにくそうに答えた。
 
「ああ……うーん、なんか成り行きでね。ただ僕らは萱獅子刀がどうなったか見届ける前にぬえに殺されたから、よくわからないんだ」
 
「そうだったのか……」
 
 生々しい表現に蕾生の口調も沈んでいく。
 永は過去のことは何でも知っているのかと蕾生は思っていたが、死の間際のことを覚えていろと言うのは無理だし辛過ぎる。
 今後はそういう話題も増えるだろう。永が辛い過去を思い出す必要性も重要性もわかってはいるが、なんとか緩和できないかと蕾生は考えを巡らせるが、良いアイディアが浮かばない自分に嫌気がさした。
 
 少しの沈黙の後、星弥が少し明るい声音で話し出す。
 
「えーっと、すずちゃんの前で言うのもなんだけど、御堂の家は分家の中でも一番格下で弱い立場なの。もしそんな大事な刀を御堂が手に入れたとして、すずちゃんが見たことがないなら、お祖父様が取り上げたっていうのが私も自然だと思う」
 
「……」
 
 星弥の説明を聞きながら、鈴心は俯いてしまっていた。少し顔色が悪くなっている気もする。
 蕾生は少し気になったが、それを言ったところで上手い説明ができる自信がないので放っておくことしかできなかった。
 
「だとすれば、やっぱり銀騎研究所のどこかに隠してある──っていうのが濃厚な線かな。ちなみに、リンは研究所では見なかった?」
 
「はい。見たことはありません」
 
「そっかー」
 
 御堂について聞かれた時よりも鈴心はきっぱりと答えた。その違いに永は気づいていないようで、むむむと口をへの字に曲げて腕を組み考え込む。
 
「ねえ。さっきから刀のことばかりだけど、お祖父様の懐に入るような行為は今は危なくない? 先に弓を探すとかは?」
 
「ああ、それはもっと難しい」
 
 星弥の問いに永があまりにもあっさり答えるので、蕾生は思わず聞き直した。
 
「なんでだ?」
 
慧心弓けいしんきゅうは──おそらく消失してる」
 
 永はまるで失敗談を話すような深妙な面持ちだった。
 
「ふたつ前の転生の時なんだけど、鵺と戦った時に焼けてしまった……と思う」
 
「言い方が曖昧なのは、結果を見届ける前に死んだからか?」
 
 蕾生がそう聞くと、永も鈴心も瞼を落として悲しそうに答える。
 
「そう。ただ、僕は弓が燃えたのは見た。その後どうなったかは知らないけど、あれはもう……」
 
「……」

 二人は過ぎた過去に思いを馳せて、そこで黙ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...