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第五章 邂逅
第7話 結界
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一同は皓矢の後に続いて倉庫を出た後、更に自宅から遠ざかるように奥へと歩いていった。すでに道もなく、見た目には雑草の生い茂るだけの場所で、皓矢は歩みを止めた。
「拝眉枢銀座」
何か短い言葉を発した後、皓矢がふっと息を吐く。消え入りそうな声だったため、どんな言葉かもその意味も誰も理解できなかった。だがすぐに目の前で異変が起こる。景色が蜃気楼のように揺らめいてぼやけ始めた。
蕾生は懸命に目を凝らす。なんとなく白く四角い建物があるように見えた。けれどそれはゆらゆらと朧げで、本当にそこにあるのかも判然としない。
皓矢が右手で何かを切るような仕草をすると、ぼやけた建物の中に扉だけがくっきりと現れた。研究所で見たような、白塗りで鉄製の一般的な扉だった。
「!」
その様子を永は硬い表情のまま、目だけを見開いていた。ごくり、と唾を呑んだことがその喉元に表れる。
「まさか、ここが──」
鈴心が驚きを隠さずに言うと、皓矢は振り返って冷たさを帯びた瞳で語る。
「ここは強固な結界が必要だから入るたびに解いているとコスパが悪くてね。入口を緩めるだけで勘弁して欲しい。それとこの場所のことは公言しないでくれ。お祖父様の研究の全てがあるからね。見た目通り敵が多いんだ」
冗談混じりに笑う様もどこか冷徹さを孕んでいて、蕾生がそれまでに抱いていた人となりの良さそうな科学者の銀騎皓矢像はもう感じられなかった。
皓矢の言葉を挑発ととった永は、一昔前の不良がするようなガン付けで乱暴に言う。
「するわけないだろ、なめんなよ」
永の態度に不安を覚えた蕾生はまた永の前に立って、付け足すように言った。
「言ったところで誰も信じねえ」
「ありがとう。では、どうぞ」
二人の様子に少し笑った後、皓矢がドアノブを引く。施錠も認証機能もなく、すんなりと入口が開いた。
それよりも堅牢なセキュリティが外側にかかっているので、ドアに何もしていないのは自信の表れのように思えた。
やな感じ、と思いながら永が先に中に入ると少し開けた玄関ロビーに見たことのある女性が立っていた。
「あ」
小さな顔。大きな丸眼鏡。長い髪を後ろにまとめ、口元には真っ赤なルージュ。白衣が不釣り合いなほど、その赤は鮮烈だった。
「いらっしゃいませ、奥で博士がお待ちです」
その女性は恭しくお辞儀をして一同を迎える。永の反応に気づいた蕾生が問いかけた。
「永、知ってるのか?」
「説明会で司会してた人だよ。──やっぱりね」
そう言われると見覚えがある気もするが、蕾生にはよく分からなかった。だが永は何かを納得して彼女にも警戒しているようだ。
「奥、ですか?」
聞き返した皓矢に、その女性は無表情のまま淡々と答える。
「はい。博士の御命令でそのように、と。簡単ではありますがテーブルと椅子は運んでおきました」
「わかりました、ありがとう。では皆、こちらへ」
そうして彼女を置き去りにし、皓矢が廊下の奥へ四人を促した。
「拝眉枢銀座」
何か短い言葉を発した後、皓矢がふっと息を吐く。消え入りそうな声だったため、どんな言葉かもその意味も誰も理解できなかった。だがすぐに目の前で異変が起こる。景色が蜃気楼のように揺らめいてぼやけ始めた。
蕾生は懸命に目を凝らす。なんとなく白く四角い建物があるように見えた。けれどそれはゆらゆらと朧げで、本当にそこにあるのかも判然としない。
皓矢が右手で何かを切るような仕草をすると、ぼやけた建物の中に扉だけがくっきりと現れた。研究所で見たような、白塗りで鉄製の一般的な扉だった。
「!」
その様子を永は硬い表情のまま、目だけを見開いていた。ごくり、と唾を呑んだことがその喉元に表れる。
「まさか、ここが──」
鈴心が驚きを隠さずに言うと、皓矢は振り返って冷たさを帯びた瞳で語る。
「ここは強固な結界が必要だから入るたびに解いているとコスパが悪くてね。入口を緩めるだけで勘弁して欲しい。それとこの場所のことは公言しないでくれ。お祖父様の研究の全てがあるからね。見た目通り敵が多いんだ」
冗談混じりに笑う様もどこか冷徹さを孕んでいて、蕾生がそれまでに抱いていた人となりの良さそうな科学者の銀騎皓矢像はもう感じられなかった。
皓矢の言葉を挑発ととった永は、一昔前の不良がするようなガン付けで乱暴に言う。
「するわけないだろ、なめんなよ」
永の態度に不安を覚えた蕾生はまた永の前に立って、付け足すように言った。
「言ったところで誰も信じねえ」
「ありがとう。では、どうぞ」
二人の様子に少し笑った後、皓矢がドアノブを引く。施錠も認証機能もなく、すんなりと入口が開いた。
それよりも堅牢なセキュリティが外側にかかっているので、ドアに何もしていないのは自信の表れのように思えた。
やな感じ、と思いながら永が先に中に入ると少し開けた玄関ロビーに見たことのある女性が立っていた。
「あ」
小さな顔。大きな丸眼鏡。長い髪を後ろにまとめ、口元には真っ赤なルージュ。白衣が不釣り合いなほど、その赤は鮮烈だった。
「いらっしゃいませ、奥で博士がお待ちです」
その女性は恭しくお辞儀をして一同を迎える。永の反応に気づいた蕾生が問いかけた。
「永、知ってるのか?」
「説明会で司会してた人だよ。──やっぱりね」
そう言われると見覚えがある気もするが、蕾生にはよく分からなかった。だが永は何かを納得して彼女にも警戒しているようだ。
「奥、ですか?」
聞き返した皓矢に、その女性は無表情のまま淡々と答える。
「はい。博士の御命令でそのように、と。簡単ではありますがテーブルと椅子は運んでおきました」
「わかりました、ありがとう。では皆、こちらへ」
そうして彼女を置き去りにし、皓矢が廊下の奥へ四人を促した。
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