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第六章 鵺が啼く空は虚ろ
第6話 父の技術
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「もちろんだ。星弥と鈴心が研究所のキクレー因子実験体だと言うことは聞いたね?」
そう切り出した皓矢に、永はぶすっとしたまま頷いた。
「まあ、簡単にはね」
「この計画、我々はウラノス計画と呼んでいるが、始まったのは二十年以上前──君達の前世においてお祖父様といざこざがあった後だったと聞いているのだけど、覚えていることはあるかい?」
前世と言うと、前回の転生のことだろう。蕾生は前回に何があったのかは全く聞かされていない。永の様子を伺うと、少し逡巡した後ぶっきらぼうに答えた。
「そりゃ、前回にあったことぐらいは覚えてるけど、この件に関しては全然知らなかったね。リンの魂をお前達が誘拐してその実験に使ったなんてのはさっき聞いたよ」
「そうかい。さぞ憤慨したんだろうね。僕はその頃四歳で、当時のことは何も見ていないのだけど、君の仲間の魂を奪取したお祖父様と亡き父に代わって謝罪するよ。すまなかった」
「形式的な謝罪はいい。その先の説明をしろ」
突っぱねる永に皓矢は苦笑しながら話し始めた。
「手厳しいね、わかった。この実験は当初お祖父様と父が、父の死後は佐藤という研究員がお祖父様を手伝って進められた。僕が具体的に関わったのは、すでに星弥も鈴心も生を受け、さらに星弥は不適合と判断されたずっと後だから、正直言ってわからないことが多い」
「なんだよ、頼りないな」
「それでも、実験記録はお祖父様から全て見せてもらったから、頭ではおおまかなことはわかっているつもりだ」
「ふうん、それで?」
素っ気ない永の態度を気にする風もなく、皓矢は淡々と説明を続ける。
「簡単に言うと、星弥の体内にはキクレー因子とそれを活発化させる術式が組み込まれている。これは父の術式で、化学と陰陽術……というか父独自の呪術を融合させた、ある意味常識外れの技術だ」
「なるほど。息子は天才だって、そう言えばジジイが自慢してたな」
星弥と皓矢の父。蕾生は前に見かけた写真立ての人物を思い出した。それは以前同様に奥の棚にひっそりと飾られている。あの時、永は「よく知らない」と言っていたけれど、まだ蕾生が鵺化の事実を知る前だったので、余計な情報は黙っていたんだろうと蕾生は心の中で結論付けた。
「ああ、君達は父にも会っているんだね。父は銀騎が始まって以来の超天才陰陽師だった。同時にお祖父様から化学者としても育てられたハイブリッドな人だったんだよ」
「お前もそうなんだろ?」
永が意地悪く言うと、皓矢は自嘲するように笑っていた。
「どうかな。確かに銀騎の次期当主ではあるけど、能力はごく普通で父には遠く及ばないし、化学者としてもお祖父様の足元にも……」
その皓矢の言葉は蕾生には謙遜としかとれなかった。自分も永も手玉にとってみせた能力がありながら、遠く及ばないなどと言わせる程の実力をその父親は持っていたことになる。
そんな相手と対峙したのならば、前回はどれだけ壮絶なことが起こったのだろう。永が詳しく言いたがらないのはそこに理由があるかもしれないと蕾生は思った。
そう切り出した皓矢に、永はぶすっとしたまま頷いた。
「まあ、簡単にはね」
「この計画、我々はウラノス計画と呼んでいるが、始まったのは二十年以上前──君達の前世においてお祖父様といざこざがあった後だったと聞いているのだけど、覚えていることはあるかい?」
前世と言うと、前回の転生のことだろう。蕾生は前回に何があったのかは全く聞かされていない。永の様子を伺うと、少し逡巡した後ぶっきらぼうに答えた。
「そりゃ、前回にあったことぐらいは覚えてるけど、この件に関しては全然知らなかったね。リンの魂をお前達が誘拐してその実験に使ったなんてのはさっき聞いたよ」
「そうかい。さぞ憤慨したんだろうね。僕はその頃四歳で、当時のことは何も見ていないのだけど、君の仲間の魂を奪取したお祖父様と亡き父に代わって謝罪するよ。すまなかった」
「形式的な謝罪はいい。その先の説明をしろ」
突っぱねる永に皓矢は苦笑しながら話し始めた。
「手厳しいね、わかった。この実験は当初お祖父様と父が、父の死後は佐藤という研究員がお祖父様を手伝って進められた。僕が具体的に関わったのは、すでに星弥も鈴心も生を受け、さらに星弥は不適合と判断されたずっと後だから、正直言ってわからないことが多い」
「なんだよ、頼りないな」
「それでも、実験記録はお祖父様から全て見せてもらったから、頭ではおおまかなことはわかっているつもりだ」
「ふうん、それで?」
素っ気ない永の態度を気にする風もなく、皓矢は淡々と説明を続ける。
「簡単に言うと、星弥の体内にはキクレー因子とそれを活発化させる術式が組み込まれている。これは父の術式で、化学と陰陽術……というか父独自の呪術を融合させた、ある意味常識外れの技術だ」
「なるほど。息子は天才だって、そう言えばジジイが自慢してたな」
星弥と皓矢の父。蕾生は前に見かけた写真立ての人物を思い出した。それは以前同様に奥の棚にひっそりと飾られている。あの時、永は「よく知らない」と言っていたけれど、まだ蕾生が鵺化の事実を知る前だったので、余計な情報は黙っていたんだろうと蕾生は心の中で結論付けた。
「ああ、君達は父にも会っているんだね。父は銀騎が始まって以来の超天才陰陽師だった。同時にお祖父様から化学者としても育てられたハイブリッドな人だったんだよ」
「お前もそうなんだろ?」
永が意地悪く言うと、皓矢は自嘲するように笑っていた。
「どうかな。確かに銀騎の次期当主ではあるけど、能力はごく普通で父には遠く及ばないし、化学者としてもお祖父様の足元にも……」
その皓矢の言葉は蕾生には謙遜としかとれなかった。自分も永も手玉にとってみせた能力がありながら、遠く及ばないなどと言わせる程の実力をその父親は持っていたことになる。
そんな相手と対峙したのならば、前回はどれだけ壮絶なことが起こったのだろう。永が詳しく言いたがらないのはそこに理由があるかもしれないと蕾生は思った。
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