118 / 122
第七章 エピローグ
第6話 義理
しおりを挟む
「雨都に跡取りの男子が産まれない呪いなんてかけてさ。ヤだよねー、根が暗いんだよねー」
嫌味たっぷりの永の説明に、星弥が言葉を失くしていると、見かねた鈴心がフォローに回る。
「その呪いは楓が解きましたから過去の話ですよ、星弥」
「そうなの? 楓さんって人、すごいんだね」
「そうですね、とても行動力のある人でした」
だから雨都梢賢は自らを「待望の跡取り息子」と言ったのか、と蕾生はあの軽薄な笑顔を思い出す。
今の所胡散臭さしかないが、単身で銀騎の敷地に乗り込んできたことを考えると、彼にも行動力があることは窺える。
「雨都の人達は元々活発な人柄なんだ。僕らも随分助けてもらった。……そのせいで、何人も犠牲になった」
永が自嘲するように結んだ言葉の意味は、蕾生にも理解できる。
「それで、ある時に嫌気がさした?」
「……だと思う。雨都に対しては僕らも銀騎も同罪だよ。だから、彼らが困ってるなら何をおいても助ける義理が僕らにはある」
協力してくれている相手が常に傷つくことは、どうしようもない運命なのかもしれない。
そんな負い目があるから、雨都が再び姿を見せたことに永も鈴心も驚いたし、姿を見せたということは何か要求があるんだろうと永が考えたのは当然のことだった。
「もちろん銀騎も協力は惜しまない──僕達の介入をあちらが望めばだけど。それで、雨都に今一体何が起きてるんだい?」
皓矢にも贖罪の気持ちはある。
それを確認した後、永が続けた。
「それが、はっきりとは教えてくれなかったんだよねえ。とにかく実家に来て欲しいってだけで」
「さすがに、うちの敷地内では言えない、か……」
皓矢が勘繰るが、そんな戦略的な考えを持っているようには蕾生には見えなかった。
ただ彼は土下座した後ヘラヘラしながら自分の連絡先を永に渡して、「じゃ、そういうことで」なんて、まるで言い逃げするようにその場を去っていったのだから。
「とりあえず僕ら三人で行ってみるよ。もうすぐ夏休みだからね。それで、やっぱり翠破と紅破を返して欲しいんだけど」
示された住所に行くにはちょっとした小旅行になりそうだった。雨都のトラブルの大きさはわからないけれど、それなりの期間をとらなければならないだろうと永は考えている。
嫌味たっぷりの永の説明に、星弥が言葉を失くしていると、見かねた鈴心がフォローに回る。
「その呪いは楓が解きましたから過去の話ですよ、星弥」
「そうなの? 楓さんって人、すごいんだね」
「そうですね、とても行動力のある人でした」
だから雨都梢賢は自らを「待望の跡取り息子」と言ったのか、と蕾生はあの軽薄な笑顔を思い出す。
今の所胡散臭さしかないが、単身で銀騎の敷地に乗り込んできたことを考えると、彼にも行動力があることは窺える。
「雨都の人達は元々活発な人柄なんだ。僕らも随分助けてもらった。……そのせいで、何人も犠牲になった」
永が自嘲するように結んだ言葉の意味は、蕾生にも理解できる。
「それで、ある時に嫌気がさした?」
「……だと思う。雨都に対しては僕らも銀騎も同罪だよ。だから、彼らが困ってるなら何をおいても助ける義理が僕らにはある」
協力してくれている相手が常に傷つくことは、どうしようもない運命なのかもしれない。
そんな負い目があるから、雨都が再び姿を見せたことに永も鈴心も驚いたし、姿を見せたということは何か要求があるんだろうと永が考えたのは当然のことだった。
「もちろん銀騎も協力は惜しまない──僕達の介入をあちらが望めばだけど。それで、雨都に今一体何が起きてるんだい?」
皓矢にも贖罪の気持ちはある。
それを確認した後、永が続けた。
「それが、はっきりとは教えてくれなかったんだよねえ。とにかく実家に来て欲しいってだけで」
「さすがに、うちの敷地内では言えない、か……」
皓矢が勘繰るが、そんな戦略的な考えを持っているようには蕾生には見えなかった。
ただ彼は土下座した後ヘラヘラしながら自分の連絡先を永に渡して、「じゃ、そういうことで」なんて、まるで言い逃げするようにその場を去っていったのだから。
「とりあえず僕ら三人で行ってみるよ。もうすぐ夏休みだからね。それで、やっぱり翠破と紅破を返して欲しいんだけど」
示された住所に行くにはちょっとした小旅行になりそうだった。雨都のトラブルの大きさはわからないけれど、それなりの期間をとらなければならないだろうと永は考えている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる