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第三章
3-20 健気
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「葵くんはいつからお札を飲んでるんですか?」
「え、えっと……」
鈴心が今度は葵に尋ねると、葵はうまく言葉が出ず、代わりに藍がスラスラと説明する。
「二年前。そいつがうちに来るようになって、そしたら伊藤のおじさんが新しい修行だよって持ってきた」
「二年間、毎日?」
「うん」
「藍ちゃん、君は飲んでるの?」
永が聞くと、藍は少し俯いて首を振った。
「あたしは──飲んでない。お母さんには無視されてるから」
その反応を見て、鈴心は少し躊躇いながら言葉を選びながら尋ねてみた。
「あの、違ってたらすみません。今日着ている服、一昨日も着てましたよね?一日あれば洗濯して乾くとは思うんですが……」
「お洋服はこれしか持ってない」
「──」
藍の回答に、さすがの鈴心も言葉を失っていた。
「おい、永……」
「うん。これはかなり深刻だ」
重度の育児放棄を連想した蕾生と永を他所に、梢賢が会話に割って入る。
「藍ちゃんよ。君の状況はわかった。けんど、今の所君らは菫さんと暮らすしかない。わかるな?」
「ちょ、梢賢!」
戸惑う鈴心を制して梢賢は藍に顔を近づけ瞳を見据えて言う。
「もうちょっとだけ我慢してくれるか?菫さんはオレ達が必ずなんとかする」
「そんなの信じない」
「できるだけ早く菫さんが正気に戻るように、オレ達が頑張るから」
「……」
疑惑の眼差しを続ける藍に、梢賢も少し力を抜いて本音で接した。
「まあ、そら何ともならんかもしれん。そん時は、君らはオレの家に来たらええ」
「お母さんは、どうなるの?」
葵が純真な顔で聞くのに梢賢は少し心を痛めた。本当に最悪の場合は言える訳がない。優しい嘘が正しいかなんてわからない。けれど梢賢は今はそうするしかなかった。
「そうやな、菫さんも一緒に来たらええよ。優しい普通のお母さんになってな」
「お前を父親とは認めないぞ」
「ええっ!?やだ!そういう意味じゃないのにっ」
藍に言われた言葉に梢賢は努めてコミカルに照れた。その気持ちが伝わったのか、藍も渋々と頷いた。
「まあ、考えてやってもいい」
「そうか、あんがと。絶対に助けるからな」
藍と葵の頭に手をおいて笑ってみせる梢賢の姿は健気だった。永達は改めて梢賢の胸の内を思いやる。
「よし、じゃあ送ったるから帰ろ。一緒に謝ったる」
「あたしは悪いことなんかしてない」
「わかったわかった。オレが謝ったるから」
藍と梢賢のやり取りの中、永の携帯電話が軽快な呼び音を立てた。
「うん?」
「どうした永?」
「皓矢からメッセージだ。調べがついたから電話して欲しいって」
「おう、ちょうどええわ。オレは二人を送って、ルミ御所望のタルト買ってくるわ。その間に電話したらええ」
梢賢は既に藍と葵と手を繋いでいた。
「いいの?」
「里では出来んやろ。オレもいない方がよさそうやしな」
「わかった。じゃあ、後で」
「おう、後でな」
そうして梢賢は二人の手を引いて公園から出て行った。
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「え、えっと……」
鈴心が今度は葵に尋ねると、葵はうまく言葉が出ず、代わりに藍がスラスラと説明する。
「二年前。そいつがうちに来るようになって、そしたら伊藤のおじさんが新しい修行だよって持ってきた」
「二年間、毎日?」
「うん」
「藍ちゃん、君は飲んでるの?」
永が聞くと、藍は少し俯いて首を振った。
「あたしは──飲んでない。お母さんには無視されてるから」
その反応を見て、鈴心は少し躊躇いながら言葉を選びながら尋ねてみた。
「あの、違ってたらすみません。今日着ている服、一昨日も着てましたよね?一日あれば洗濯して乾くとは思うんですが……」
「お洋服はこれしか持ってない」
「──」
藍の回答に、さすがの鈴心も言葉を失っていた。
「おい、永……」
「うん。これはかなり深刻だ」
重度の育児放棄を連想した蕾生と永を他所に、梢賢が会話に割って入る。
「藍ちゃんよ。君の状況はわかった。けんど、今の所君らは菫さんと暮らすしかない。わかるな?」
「ちょ、梢賢!」
戸惑う鈴心を制して梢賢は藍に顔を近づけ瞳を見据えて言う。
「もうちょっとだけ我慢してくれるか?菫さんはオレ達が必ずなんとかする」
「そんなの信じない」
「できるだけ早く菫さんが正気に戻るように、オレ達が頑張るから」
「……」
疑惑の眼差しを続ける藍に、梢賢も少し力を抜いて本音で接した。
「まあ、そら何ともならんかもしれん。そん時は、君らはオレの家に来たらええ」
「お母さんは、どうなるの?」
葵が純真な顔で聞くのに梢賢は少し心を痛めた。本当に最悪の場合は言える訳がない。優しい嘘が正しいかなんてわからない。けれど梢賢は今はそうするしかなかった。
「そうやな、菫さんも一緒に来たらええよ。優しい普通のお母さんになってな」
「お前を父親とは認めないぞ」
「ええっ!?やだ!そういう意味じゃないのにっ」
藍に言われた言葉に梢賢は努めてコミカルに照れた。その気持ちが伝わったのか、藍も渋々と頷いた。
「まあ、考えてやってもいい」
「そうか、あんがと。絶対に助けるからな」
藍と葵の頭に手をおいて笑ってみせる梢賢の姿は健気だった。永達は改めて梢賢の胸の内を思いやる。
「よし、じゃあ送ったるから帰ろ。一緒に謝ったる」
「あたしは悪いことなんかしてない」
「わかったわかった。オレが謝ったるから」
藍と梢賢のやり取りの中、永の携帯電話が軽快な呼び音を立てた。
「うん?」
「どうした永?」
「皓矢からメッセージだ。調べがついたから電話して欲しいって」
「おう、ちょうどええわ。オレは二人を送って、ルミ御所望のタルト買ってくるわ。その間に電話したらええ」
梢賢は既に藍と葵と手を繋いでいた。
「いいの?」
「里では出来んやろ。オレもいない方がよさそうやしな」
「わかった。じゃあ、後で」
「おう、後でな」
そうして梢賢は二人の手を引いて公園から出て行った。
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