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第六章
6-8 月に問う
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「じゃあ、一生懸命なリンにご褒美だ」
「?」
永は持て余す感情を胸の奥にそっとしまって、主君然とした笑みを浮かべて隠し持っていた包みを手渡した。
「もうすぐ誕生日だろ?」
「ご存知だったんですか」
「当然。変態妹から聞き出すの苦労したよ。さらにあの人の目の届く所で渡すと面倒だから、今渡しとく」
この現場を星弥が見たら嫉妬でとち狂うかもしれない。そんな想像をしてしまった鈴心は笑った。
「そうですね。開けてもいいですか?」
「もちろん」
鈴心は丁寧に包み紙を開けていく。紙の小袋にはネイビーのレースをあしらったサテンのリボンが一組入っていた。
「リボン……クリップですね。落ち着いた色でとても可愛いです」
「銀騎さんはさあ、ピンクとか真っ白のフリフリー!って感じのリボンをお前につけたがるじゃん?だからたまには大人っぽいのがいいかなって」
「……リボンが既に大人っぽさとは離れている気もします」
「えっ!気に入らなかった?」
慌てる永に、鈴心はまた笑う。
「冗談です。ありがとうございます」
「二度目にお前に会った時、まさかのツインテールだったから結構ビックリしたんだよ?」
「ですよねえ」
銀騎の家で星弥に紹介された時の事を思い出す。必要以上にゴテゴテ飾られた様だったので鈴心は苦笑した。
「でも少し嬉しかった。いつも長い黒髪を伸ばし放題で気にしなかったのに、今回は身なりを整えてくれる人がいるんだって」
「あれは整え過ぎですけどね」
「──似合ってるよ、ツインテール」
真っ直ぐにそう言う永の表情に、鈴心は少し照れてしまった。
「あ、ありがとうございます……」
「さあ、そろそろ寝ようかな!おやすみ!」
急にソワソワし出した永は立ち上がって、鈴心の頭をポンポンと軽く叩いてそそくさと去っていった。
「おやすみなさい……」
その背に向かって鈴心は親愛の情を込めた。
辺りはまた静寂に包まれた──訳ではなかった。
「デバガメが出てこないなら殺します」
「ひいい!ごめんなさいっ!」
鈴心が低く冷たい声で言うと、庭木の裏から梢賢が飛び出した。その姿めがけて猛禽睨みをきかせると、梢賢はヘラヘラと笑っていた。
「ま、まあまあ、ええ雰囲気やったやないのぉ!とても主従には見えんかったで!」
「邪推は許しません」
「ピッ!」
鈴心の更なる冷たい声に梢賢は縮み上がった。それでやっと溜息混じりで鈴心は態度を緩和させる。
「何か用ですか?」
「用っちゅーか、なんちゅーか、確認やねんけど……」
梢賢は相変わらず軽い口調だったが、目はいつも以上に真剣だった。
急に夜風が舞う。
それにつられて放たれた言葉がやけにハッキリと聞こえた。
「鈴心ちゃんは、今回はちゃんと転生したやんな?」
「──」
鈴心は大きく瞳を見開いて立ち尽くしていた。
「……」
様子を伺う梢賢を冷静に見定めて、鈴心はいつも通りの淡々とした顔で言った。
「当たり前でしょう。何が言いたいんです?」
「いやあ、オレも言っててよくわからんのよ」
うへへ、と笑いながら頭を掻く梢賢は飄々としている。
「……」
鈴心が身構えていると梢賢は一人で頷いて踵を返した。
「まあええわ。君らの感じやと心配することもあらへんやろ。単なる老婆心でした!おやすみぃ」
そうして梢賢はあっという間に縁側を上がって、自室の方向に去っていった。
「……」
鈴心はもう一度月を見上げる。
月は、何も教えてはくれなかった。
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「?」
永は持て余す感情を胸の奥にそっとしまって、主君然とした笑みを浮かべて隠し持っていた包みを手渡した。
「もうすぐ誕生日だろ?」
「ご存知だったんですか」
「当然。変態妹から聞き出すの苦労したよ。さらにあの人の目の届く所で渡すと面倒だから、今渡しとく」
この現場を星弥が見たら嫉妬でとち狂うかもしれない。そんな想像をしてしまった鈴心は笑った。
「そうですね。開けてもいいですか?」
「もちろん」
鈴心は丁寧に包み紙を開けていく。紙の小袋にはネイビーのレースをあしらったサテンのリボンが一組入っていた。
「リボン……クリップですね。落ち着いた色でとても可愛いです」
「銀騎さんはさあ、ピンクとか真っ白のフリフリー!って感じのリボンをお前につけたがるじゃん?だからたまには大人っぽいのがいいかなって」
「……リボンが既に大人っぽさとは離れている気もします」
「えっ!気に入らなかった?」
慌てる永に、鈴心はまた笑う。
「冗談です。ありがとうございます」
「二度目にお前に会った時、まさかのツインテールだったから結構ビックリしたんだよ?」
「ですよねえ」
銀騎の家で星弥に紹介された時の事を思い出す。必要以上にゴテゴテ飾られた様だったので鈴心は苦笑した。
「でも少し嬉しかった。いつも長い黒髪を伸ばし放題で気にしなかったのに、今回は身なりを整えてくれる人がいるんだって」
「あれは整え過ぎですけどね」
「──似合ってるよ、ツインテール」
真っ直ぐにそう言う永の表情に、鈴心は少し照れてしまった。
「あ、ありがとうございます……」
「さあ、そろそろ寝ようかな!おやすみ!」
急にソワソワし出した永は立ち上がって、鈴心の頭をポンポンと軽く叩いてそそくさと去っていった。
「おやすみなさい……」
その背に向かって鈴心は親愛の情を込めた。
辺りはまた静寂に包まれた──訳ではなかった。
「デバガメが出てこないなら殺します」
「ひいい!ごめんなさいっ!」
鈴心が低く冷たい声で言うと、庭木の裏から梢賢が飛び出した。その姿めがけて猛禽睨みをきかせると、梢賢はヘラヘラと笑っていた。
「ま、まあまあ、ええ雰囲気やったやないのぉ!とても主従には見えんかったで!」
「邪推は許しません」
「ピッ!」
鈴心の更なる冷たい声に梢賢は縮み上がった。それでやっと溜息混じりで鈴心は態度を緩和させる。
「何か用ですか?」
「用っちゅーか、なんちゅーか、確認やねんけど……」
梢賢は相変わらず軽い口調だったが、目はいつも以上に真剣だった。
急に夜風が舞う。
それにつられて放たれた言葉がやけにハッキリと聞こえた。
「鈴心ちゃんは、今回はちゃんと転生したやんな?」
「──」
鈴心は大きく瞳を見開いて立ち尽くしていた。
「……」
様子を伺う梢賢を冷静に見定めて、鈴心はいつも通りの淡々とした顔で言った。
「当たり前でしょう。何が言いたいんです?」
「いやあ、オレも言っててよくわからんのよ」
うへへ、と笑いながら頭を掻く梢賢は飄々としている。
「……」
鈴心が身構えていると梢賢は一人で頷いて踵を返した。
「まあええわ。君らの感じやと心配することもあらへんやろ。単なる老婆心でした!おやすみぃ」
そうして梢賢はあっという間に縁側を上がって、自室の方向に去っていった。
「……」
鈴心はもう一度月を見上げる。
月は、何も教えてはくれなかった。
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