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エピソード1『球乃大地と天宮姫』
【第18話】球乃大地と天宮姫①
しおりを挟む「大地の奴、死んでなきゃ良いけど……」
姫と大地の間で繰り広げられた内容を知らない月夜が、外の景色を見つめながら呟いた。
その横で静も苦笑い。
「そうだよなぁ……相当怒ってたもんなぁ、姫」
「この前だって、皐月姉が本気で治癒能力使ってようやく蘇生出来たって言ってたから……まぁ、今回もそれと同じくらいの被害を与えて帰ってくるんじゃないかなぁ……」
「皐月さんが、全力で能力を……? そりゃ、相当だな……」
「今から皐月姉に連絡入れとこうかな? 念の為……」
月夜は、そう言ってポケットからスマホを取り出す。
「まぁ、それは姫が帰って来てからで良いんじゃないか? 皐月さんだって受験生だから……色々と大変だろうし……」
「皐月姉にそんな心配は要らないわよ……頭良いし、受ける大学に合格間違いなしって太鼓判押されてるくらいなんだから」
「ほえー……凄いな」
「皐月姉より、火焔さんの方が心配。忙しいのはそっちの方じゃない?」
「火焔さんが?」
「……話が逸れたわね。とにかく、皐月姉にそんな心配は無用よ」
「それでも……やっぱ受験生は忙しいだろ? 私達みたいにね」
「……うーん……そうね、それもそうだわ」
ここで、静の目が校庭を歩く女子中学生の姿を捉えた。
「噂をすれば何とやらだ。姫が帰って来たぞ」
「……そうみたいね。流石に、あの頑固大地を連れて来る事は出来なかったか……と、なると……大地がぐちゃぐちゃにされている可能性が高いわ。……話を聞きに行きましょう」
「おうっ」
月夜と静は、姫に話を聞く為に二年生の教室がある二階へと足を運ぶ。
そして、教室の前で彼女を待つ事にした。
しかし、待てど暮らせど姫の姿が現れない。
「……姫、来ないな……」
静が不思議そうに首を捻る。
月夜は、「そうね……」と同意しつつ、ある可能性に辿り着いた。
「何かあった――の、かな?」
「その可能性ある!」
「でも……その、何かって、何があったんだろう?」
「うーん……」
静が考える。
ピーンっと閃いた。
「大地に腹立ち過ぎて、式神で殴るんじゃ気が済まないから、手で殴り殺したとか?」
「……そんな馬鹿な………………でも、有り得ない話じゃないわね……」
「そんで返り血を浴びた手を念入りに洗っている、とか?」
「……考えられるわね……となると、トイレかな? 行ってみましょう……二年の女子トイレに」
「おうっ! 精一杯、宥めてやろうぜ!」
「宥められるかなぁ……? 私達に……」
ウキウキ気分で動き出す静とは対照的に、引き攣った表情で月夜は動き出す。
結論から言うと、女子トイレの中に姫はいた。
いたのだが――
「ひっく……ひっく……うぇぇん……」
思っていたのとは百八十度違う状況だった。
姫が号泣していたのだ。
涙を洗い流す為、何度も顔を洗った形跡が見受けられる。
それでも流しきれていない。
月夜と静が駆け寄り声を掛けるのは必然だった。
「何が……あったの?」
「……ひっく……月夜さん……」
「落ち着け、な?」
「……静さん……うぇ……うぇぇーん……!」
二人の心配そうな表情を見て、余計に泣けてきたのだろう。
号泣しながら、嗚咽混じりに姫が声を落とす。
「ひっく……私じゃ……私じゃダメなんですぅ……」
「……何が?」
月夜が、優しく問い掛ける。
「……私じゃ……大、ちゃんを、助けて、あげられ、ないんですぅ……うぇーん……」
「何言ってんのよ……あなただけでしょ? 大地を――」
「違う!!」
姫は、全てを吐き出すように叫んだ。
「大ちゃんは! 月夜さんの事が好きなんです!! だから――だから!! 大ちゃんを助ける事が出来るのは! 月夜さんだけ……――っ!!」
「ごめん……辛いよね……それ以上は言わなくて良いから……」
月夜は……そんな姫を、思いっ切り抱き締めた。
思いっ切り……強く、強く。
そんな月夜の温かさに、姫は……。
「月夜……さん……うわぁぁん! ごめんなさぁい! うわぁぁん!!」
「良いよ。とりあえず今は……思いっ切り、泣きなさい」
「……うん……でも……もう、大丈夫……」
「そっか」
月夜は体を離し、姫の頭を優しく撫でた。
静が言う。
「どうするんだ? 月夜」
「今の姫に、経緯を聞くのは難しい……だったら――もう一人の方に、直接聞き出すしかないわ」
「え? それって……」
「そ……大地に、私が会いに行く。あいつが大好きだと宣っている――――私が」
そして月夜は言う。
「だけどね? 姫。きっと……私じゃ、大地を学校に連れて来る事は出来ない……それはきっと……あなたしか出来ないの……それだけは、理解してね」
「え?」月夜のその言葉に、姫がキョトンとした表情を浮かべる。
「月夜さん……それってどういう……」
「言葉通りの意味よ。ってな訳で、静、姫を頼んだわよ」
「了解!」
静が敬礼ポーズをビシッと決めるのを確認すると、月夜は歩き出した。
「行って来る!」
大地の家へと……歩き出した。
そして――月夜は、大地の家へと辿り着く。
ピンポンを連打し、声を掛けても返答がない為、月夜は強行手段に出る事にした。
「入るわよ」
と、一言だけ伝え、玄関を通り過ぎ、階段を上り、大地の部屋へと突入。
大地は暗い部屋の中でゲームをしていた。
淡く照らされたテレビ画面が、不気味に光っている。
そんな大地の背後から、月夜が話し掛ける。
「大地、月夜が泣いていたわよ。一体何があったの?」
「…………」
「聞こえてるんでしょ? 返事をしなさい」
「…………わざわざ、月夜さんがこんな所に来る必要ないのに……何で来たんですか?」
ようやく……大地が口を開いた。
心做しか、その口調には怒気が篭っているようだった。
月夜は答える。
「私の可愛い後輩が泣いてるのよ? 今動かないで、いつ動くのよ」
「今でしょ」
「ふざけないで」
月夜もまた、怒気の篭った声色で返す。
大地は「冗談ですよ」と一言。相変わらず、大地の視線はテレビゲームの方へと向いている。
いい加減腹が立ったのだろう……。
「こっちを向きなさい!! 大地!!」
月夜が念動力で、強制的にテレビゲームの電源を切り、大地を振り向かせる。
「あーあ……セーブしてなかったのになぁ……」大地が言う。
「月夜さんはどうせ……姫が泣いた理由を聞きに来ただけでしょう? ならとっとと話すんで、すぐに帰ってくださいね」
「姫が泣いた理由にもよるわね……理由次第では…………あんたをここで、叩きのめすわ」
「おー……怖い。仮にも、あなたに惚れていると言っている後輩男子に向ける言葉ではないですよ?」
「仮に……ねぇ……」
月夜は目を細めつつ、言い放つ。
「言っておくけど……私――嘘吐きな奴大嫌いだから」
「…………なるほど……お見通し、とでも言いたそうな顔ですね。まぁ良いでしょう。ここはボクが振られたという事で納得しておきましょう……ってな訳で、さっさと姫が泣いた理由を説明しますんで、そそくさと帰っちゃってください」
「だからさっきから言ってるでしょ? さっさと帰るかどうかは、理由次第って」
「……そうですね」
そして大地は語った。
大地と姫の間に交わされた……仲違いをする事になった、その会話の流れを……一部始終。
「自己満足……ですって?」
月夜の身体が、怒りに震える。
「あんた! 姫がどんなつもりで、あんたを!!」
「あいつがどんなつもりだろうと関係ないんですよ。何も知らない姫が、何も考えずに馬鹿な事をしでかそうとしていたんですよ? カッとなって、ついつい本音を喋っちゃうのは、無理もない話でしょう……」
この言葉に……月夜が完全にキレた。
念動力を発動し、部屋の中にある棚や勉強机、ベッド……あらゆる物を浮き上がらせる。
「覚悟しなさい……! あんたみたいなカス野郎は……ここで私が――」
「因みに――何も知らないのは、月夜さん、あなたもですよ?」
「え?」
大地から、その言葉が放たれたと同時……月夜の頭に登っていた血が、ストンっと冷めた。
その言葉と……そして、大地の――悲しそうな笑みをみてしまったら、怒りなど……引っ込めざるを得なかったのだ。
「大地……あんた……一体何を考えて……」
「強いて言うなら、これで良いんですよ」
「は?」
大地は強調して言う。
「このままの方が、良いんですよ」
月夜は……何も返答する事が、出来なかった。
「だからこのまま……ボクと姫の関係については――そっとしておいてください。これが、あなたの事を好きだと宣っていた馬鹿な後輩の……たった一つの、お願いです」
大地のこの言葉に締め括られる形で……月夜は去って行ったのだった。
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