ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

文字の大きさ
36 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~夏の章~

【第35話】え? 今、何て……?

しおりを挟む

 夏休みも中盤に突入した。
 八月前半に降り続いた雨も、ここ暫くは也を潜めている。
 それ即ち、真夏の太陽さんの本領発揮という事だ。
 朝昼はもちろん、姿の見えない夜にも真夏の太陽はその力を存分に振るう。
 要するに、どういう事なのか?

 暑い、のである。

 そんな暴力的までな暑さの中、火焔剛士は帰路についていた。
 今日も遅くまで塾で勉学に励み、その帰り道。

「暑いな……勉強でただでさえ知恵熱出してるってのに、気候まで暑いとなると、茹でダコになっちまうわ。……ん?」

 ふと目に入る、いつものコンビニ。

「ふむ……勉強頑張ったし、この後頑張る為にも、アイスの一本くらい買っても罰は当たらんだろ」

 そんな訳でコンビニの中へ。
 冷房が効いており、少し生き返ったような気分になる。
 快適な環境を味わいつつ、剛士はアイス売り場へと足を運ぶ。

「そういや……アイス食うの久しぶりだな」

 その久しぶりに食べるアイスを何にしようかと吟味する。
 少し迷った後、「よし、やっぱアイスと言えばこれだよな」と決めたようだ。

 『ゴリゴリクン』というアイスを、購入し、コンビニの外へ。
 再び、生暖かい風が剛士へとまとわりつく。
 それに対抗すべく、ゴリゴリクンの封を切り、モシャッと一口噛じる。

 冷たい、そして甘い、何より美味い。

「夏に食べるアイスって……美味いんだったな。忘れてたよ……」

 これで家に帰ってからの勉強も捗るぞ。と、気合を入れつつ、家への道程に足を運ぼうとした……その時。

「おや! 見た事がある顔だなと思っていたが、火焔先輩ではありませんか!」
「ん?」

 声のした方を振り向くと、そこにいたのは――

「海波じゃないか! 久しぶりだな!」

 海波静だった。
 彼女は軽快に笑い、敬礼ポーズを取りながら返答する。

「お久しぶりです! あの戦い以来でしょうか!」
「だな。元気そうで何よりだよ」
「火焔先輩も、お元気そうで何よりです」
「つーか、こんな所で……こんな時間に何してんだ? お前ん家からここまで結構距離あんだろ? 遊びにでも来てたのか?」
「ちっちっち、火焔先輩ともあろう人が、そんな的外れな事を言うなんて、推理力が落ちたんじゃないですか? この格好を見てください! 一目瞭然でしょう!」

 そう言って、手を大きく広げ、来ている服を見せつける静。

「格好……? ジャージ姿だろ? まさかここまで走って来た訳じゃあるまいし……」
「その通り! 走ってきたんです!!」
「走って来た!? ここまで!? 嘘だろ!?」
「嘘じゃありません! 見てください! この滴る汗を! そしてこの震える足を!! これらが何よりの証拠です!」
「ま、マジか……少なくともここまで、十五キロ以上は……ったく……この暑い中、良くやるぜ。ダイエットか? ……あー……違うな、そういや……が近いんだったな」
「ご名答! 流石は火焔先輩と言った所ですね」

 静は野球部に所属しているのだ。
 男子部員に交じって、一生懸命汗を流している。

「つーか皐月から聞いたぞ、地区予選圧勝だったそうじゃねぇか。最優秀選手にも選ばれたんだってな。男に混じって……すげぇな、お前」
「何の何の、まだまだこれからですよ。県より関西、関西より全国、そして世界! 上には上が、ウヨウヨと山程いますからね! その程度の事で、浮かれている暇はありませんよ!」
「世界って……随分と上を目指してるんだな」
「一先ず、中学では日本一を目指してます。高校に上がったら、女子野球で甲子園まで登り詰めて、その後は女子プロ野球に入ります。それが――私の夢ですから」

 そう夢を語る静の瞳は、キラキラと輝いていた。
 そんな彼女に感服しつつ、剛士は言う。

「お前だったら、なれそうだな」
「ちっちっち、火焔先輩違います。なれ、じゃなくて、。決定事項なんです。そこを間違えちゃいけません!」
「そっか……頑張れよ」
「はい! 頑張ります!! にししっ」
「先ずは中学野球日本一だな」
「はい!」
「試合はいつあるんだ?」
「明日です」
「明日ぁ!? え? お前、明日大事な試合なのに、こんな時間まで膝が震えるほど走ってんのか!?」
「だって、じーっとしてたら不安になるから」
「オーバーワークだろ!? 大丈夫なのか明日の試合!!」
「因みに相手は、全国大会十連覇中の超強豪校です。県大会どころか、全国大会でのバリバリの優勝候補です」
「尚更、万全の状態で戦うべき相手じゃねぇか!! 大丈夫なのかよ……」
「大丈夫です! 私は勝ちます!! 私達のチームは、絶対に負けません!」
「ま……お前が大丈夫って言うなら、本当に大丈夫なんだろうな」
「はい!」
「ったく……」

 剛士は少し微笑みながら、息を吐いた。

「お前見てたら、オレももっと受験勉強頑張ろうって気になれたよ。サンキューな」
「はて? 受験勉強?」
「あん?」
「火焔先輩、留年するんじゃないんですか?」
「するかぁ!! 何て不吉な事言ってくれるんだ!! ちゃんと受験で志望校に受かって! 卒業するわ!!」
「うむ! 良い心掛けですね! 素晴らしい!」
「…………何で上から目線なんだよ……」

 やれやれ……と、肩を竦める剛士。
 すると、少し悲しそうな表情で静は言う。

「卒業か……私達が入学した時にはもう、火焔先輩や皐月先輩はいないんですよね……それを想像すると、何か……寂しくなっちゃいますね」
「……だな」
「なのでお願いします! 皐月先輩と一緒に留年しちゃってください!」
「アホか。する訳ねぇだろ……オレはオレで、『成し遂げたい目標』があんだよ」
「残念……」

 しゅんとする静。

「つーかお前、うちの学校受けるのか? うちの学校、女子野球部なんてないぞ」
「? 質問の意味が分かりませんね。なければ創れば良いだけの話でしょう?」
「お前は大物になれるよ。それをあっさり言えるんだからな」
「私は絶対に先輩達のいる高校に入ります。そして女子野球部を創って、日本一になります」
「そりゃ楽しみだな」
「そして……あの人と、イチャイチャラブラブな青春学校生活を送るんです!」
「あの人……? え? お前まだ、木鋸の事好きとか言ってんのか? やめとけやめとけあんな変態」
「む?」

 ここで、静の目付きが変わった。

「いくら火焔先輩でも、木鋸先輩を馬鹿にする発言は許しませんよ?」
「……冗談だよ、そんな怒んなって」
「何だ、冗談か」
「野球に恋に、上手くいくと良いな。お互いに」
「だな!」

 笑い合う二人……勉強と野球――――種目は違えど、自らを高め目標を達成しようとする道程は同じ……。
 この二人には、通ずるものがあるのだろう。
 だからこそ――分かり合える。

「じゃ、オレも勉強があるから。ランニングの邪魔して悪かったな」
「いやいや、久しぶりに火焔先輩と話が出来て楽しかったです。勉強、頑張ってくださいね」
「お前も明日の試合頑張れよ。優勝候補だろうが何だろうが、ぶちのめしちまえ」
「はい! 絶対勝ちます!」
「その意気だ! じゃあな、応援してるから」
「ありがとうございます! それではまた!」

 こうして、久しぶりに会った二人の会話は終わった。
 最後に静が――

「明日は絶対に勝つ……勝ち続けて、全国を決めたら――――木鋸先輩に、!」

 こんな言葉を残して……。
 剛士は、引き攣った表情を浮かべた。

「え? 今、何て……?」

 しかし、振り返るともう……そこに静の姿はなかった。
 (聞き間違いかな)と、剛士はそう思う事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...