37 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~夏の章~
【第36話】だからぁ……かっこよかったんだってば……
しおりを挟む全国中学校野球大会県予選一回戦。
その当日――
静の中学は最終回の七回裏を迎えた段階で、二点のリードを奪われていた。
何せ相手は、全国大会を十連覇している強豪校だ。
この点差の試合が、奇跡みたいなものである。
しかし、あっという間にツーアウト。
静の中学はあと一人と追い込まれてしまう。
この試合、静の打席は全て四球。
一度もまともに勝負をさせて貰っていない。
彼女が一打席でもバットを振れていたら、また展開は大きく変わっていた事だろう……。
今、打席に立っているバッターは三番。
このバッターが出塁すれば、一塁が埋まった状態で四番の静に回る。
キンッ!!
結果は――――
「アウトっ! ゲームセット!!」
キャッチャーフライ……。
静の中学野球は、こうして幕を閉じた。
整列し、涙を流す仲間達。
そんな仲間達を、覇気のある声で静は励ます。
「皆泣くな! 全国優勝候補相手に二点差だぞ!? 胸を張ろう! ちゃんとやれる事はやり切ったじゃないか!!」
「でも……静……もうお前とは、一緒に野球出来ないじゃないか」
「っ!!」
エースナンバーを付けているチームメイト――市川冬夜《いちかわトウヤ》が、泣きながら、そう漏らした。
そう……いくら静がこのチームの主軸だったとは言え、静は女だ。
高校野球には女性は参加出来ない。
従って、今のチームメイトと野球が出来るのは、これが最後となる。
「な、何を言ってるんだ冬夜。野球なんて、やろうと思えば草野球でも出来る! 胸を張れ! 帰ろう!!」
「ああ……そうだな……」
冬夜は渋々納得した。
一方……そんな様子をスタンドから眺めていた、万屋一家と姫と大地。
「女の静さんが泣かずにチームメイトを慰めてますよ?」と、大地が言う。
「静ちゃんは……強がりだからね」姫が言う。
「皆の前では絶対に泣かないよ……もちろん、私達の前でもね」
「そうそう」月夜が続いて言う。
「そんで一人の時に、泣くんだよ……。こんな時くらい、強がらなくても良いのにね……」
そんな言葉を聞き、皐月が悲しそうな表情を浮かべる。
「こんな時まで……強がらなくても良いのに……」
「大丈夫だろ」
大丈夫――そう、太陽が言った。
「え?」と、大地達が反応する。
太陽がスタンドの一点を見つめながら、続ける。
「オレ達やチームメイトの前では泣けなくても……――――
好きな人の前では――嫌でも正直になるもんだろ?」
その後。
中学野球最後の別れの挨拶を交わした後、静は一人……河川敷で佇んでいた。
彼女は結局、チームメイト達や太陽達の前では涙を見せなかった。
強がりな姿を……貼り付けた笑みを浮かべていた。
最後まで。
流れる川を、静はぼーっと見つめていた。
脳裏に過ぎるのは、今日の敗北。
悔しい――
ただただ、悔しかった。
叫びたい程に。
発狂してしまいたい程に。
そんな彼女に忍び寄る影が一つ――
「おつかれさま……」
「ひゃっ!」
突然頬に冷たい物を当てられ、驚く静。
冷たい物の正体は、スポーツ飲料である『カポリ』。
そして、静の頬にカポリを当てたのは――――千草だった。
静が想いを寄せる――木鋸先輩だった。
「木鋸先輩……」
「残念だったな。でも、よく頑張ったんじゃない?」
そう労いながら、千草は静にそのカポリを渡し、自分の分の蓋をカシュッと解放させた。
「……ありがとう……」
「ん、カポリの一本くらい、安いもんだし」
「いや……そうではなくてですね……『よく頑張ったんじゃない?』って方です……」
「それくらい、何度でも言ってやるよ」
「……相変わらず……優しいなぁ……木鋸先輩は」
「うるせぇ……」
照れ臭そうな千草。そして、ほのかに微笑む静。
「そっかぁ……木鋸先輩見に来てくれてたんだぁ、そっかそっかぁ…………なら尚更――――勝ちたかった……なぁ……」
ここでようやく……静の目から涙がこぼれ落ちた。
「皆と……もっともっと……野球していたかったなぁ……」
静の涙はもう、止まらない。
「木鋸先輩に……カッコ悪いところ……見せ、ちゃったなぁ……」
ここで。
千草の目が、鋭く変わった。
「カッコ悪くなんて、ないっ!!」
千草が吠えた。
「え?」と、目を剥く静。
「オイラは知ってるぞ! 負けて一番悔しがっているお前が、チームメイトを励ましていた姿を!! あの優勝候補相手に本気で勝とうとチームメイトを引っ張っていた姿を!! 一球一球を、全力で追い掛けていた姿を!! そして…………誰よりも――努力していた姿を!!」
「木鋸……先輩……?」
「そんなお前が――海波静が!! カッコ悪い訳ないだろう!!」
静の目が、更に涙でいっぱいになる。
(ねぇねぇ! 木鋸先輩! 私昨日ホームラン打ったんだぞ! チームも解消したんだ! 褒めて褒めて!!)
(ホームラン? 何それー? オイラ野球知らないもーん)
(おっと、ランニングの続きをしなければ)
(えー、ランニングとかしてんのぉー? 何の為ー? ダイエットー?)
千草は叫ぶ。
「その掌の豆を見てみろ!! 足の裏の血豆を見てみろ!! その鍛えられた身体を見てみろ!! カッコ悪いだと!? いくら本人でも――――静の悪口は、オイラが許さないぞ!!」
「………………」
「オイラが! 絶対に許さないぞ!! 大事な事なので二回――」
トンッ、と……千草の胸元に、静の小さなおでこがあたった。
突然の出来事に、顔が赤くなる千草。
「へ? あ、ちょ……静……?」
「ちょっと汗臭いかも……だけど……許して、ね……」
静が、震える声で、そう言った。すると、とうとう歯止めが聞かなくなる
脳裏に過ぎるのは、今日の敗北。
悔しい――
ただただ、悔しかった。
叫びたい程に。
発狂してしまいたい程に。
「う……うわぁぁんっ! 悔しいよぉ! 勝ちたかったよぉ! 皆と全国へいきだがっだよぉ!! 先輩に……カッコイイ所、見せたかったよぉ!! うわぁぁぁぁあんっ!!」
号泣――だった。
決して人前で泣かない静が、はじめて――
誰かに持たれて流した涙だった。
千草は小さく呟く。
小さく、小さく呟いた。
「だからぁ……かっこよかったんだってば……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
借りてきたカレ
しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて……
あらすじ
システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。
人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。
人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。
しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。
基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる