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エピソード3『万屋太陽と白金愛梨』
【第46話】万屋太陽と白金愛梨③
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店員がチーズケーキを二個運んで来る。
しかし、二人はまだ手を付けない。
月夜が言った。
「見極めた結果、私があんたを兄貴の彼女として認めないって結論だったらどうするの? あんたは、兄貴の事を諦めるの?」
「え?」
「え? って何よ」
「……いや……あの……えーっと……」
「はぁ……その結論が出るとは、全く予想してなかったみたいね……凄い自信だこと……」
「あはは……バレちゃったかぁ……」
「バレバレよ……ったく……」
やれやれ……と、月夜は大きな溜め息をつく。
「そっちがその気なら、私もはっきりと言わせて貰うわよ!」
「うん……」
「私はあんたが嫌い! 兄貴を私から奪って行こうとする、あんたが嫌い!! だから私は認めない!!」
「そっか……なら仕方ないね……」
「諦めるの!?」
「ううん、そんな訳ないじゃない。月夜ちゃんに認めて貰うまで、太陽くんをからかい続けるだけよ。だって――――私の隣にいる人は……太陽くん以外、考えられないもの……」
これまた大きな溜め息を吐く、月夜。
「それ……視野が狭くなってない? 兄貴より良い男なんて、山程いると思うけど?」
「あら? そういう月夜ちゃんには、そう思える人がいるのかしら?」
「……白々しい女……」
「よく言われるわ。本当の私を知っている人から限定だけれど」
「…………」
じろりと、愛梨を見つめる。
「な、何? そんな目で見つめて……どうかした?」
「前々から胡散臭い女だなとは思っていたけど……まさか、こんな本性を隠していただなんて……この女狐め」
「隠していた訳じゃないわ。あなたが……見てくれていなかっただけよ」
「へいへい……私の責任ですかー」
ここでようやく、月夜がチーズケーキに手を付ける。
(美味しい!)と心の声が叫ぶ。
「でしょ!?」と、愛梨がそれに反応する。
月夜が(また心の中を読んだな……?)と睨みつける。
愛梨が苦笑いを浮かべる。
「あはは……つい癖で……ごめんなさい」
「まぁ……美味しいのは、事実だから」
更にもう一口、チーズケーキを食べた所で……。
「……ねぇ……兄貴はさ? あんたにそういう一面がある事……知ってる訳?」
「当然よ……むしろ、私よりも私の事を知ってくれているかも……。だって私は……私自身の事を、まだあまり良く分かってないから……だから、彼が一番の私の理解者だと思うわ」
「…………。ねぇ……兄貴のどこに惚れたの?」
「優しい所、可愛らしい所、バカな所、エッチな所、子供みたいな所……」
「それ、惚れた所? どう考えても最初の幾つか以外は悪口――――」
「私に……
光を当ててくれた所……」
その言葉を聞いて、月夜は理解した。
自分が思っているよりも、遥かに深い次元で――――太陽と愛梨の間にある絆は、強く結ばれているのだという事を。
(静や透士郎達は、ソレをちゃんと理解してたんだ……だから……)
「…………何それ……私がバカみたいじゃん……」
ここでようやく、月夜が薄く笑った。
「月夜……ちゃん……?」首を捻る愛梨。
「私さぁ……あんたの言う通り、あんたの事、あまり見て来なかったね……。てっきり、猫かぶって大事な兄貴を誑かすクソ野郎だと思ってた……」
「凄い誤解されてたみたいね……酷い言われよう……」
「でも……そうじゃなかったのか……兄貴が惚れるのも……分かる気がする……うん、今のあんたは、私――――そんなに嫌いじゃないかも」
「…………っ!! そっか! ありがとう! 私も――――月夜ちゃんの事、大好きよ」
「はいはい。ありがたく、そのお言葉受け取っておきますよー」
「本当よ!? 本当なんだから!」
「分かった分かった……とにかく、チーズケーキに早く手を付けなさいよ」
「あ! そうだった! いただきます!!」
勢い良く、チーズケーキを頬張る愛梨。美味しいのか、顔が蕩けている。
それは月夜が、見た事もないような愛梨の表情だった。
(何よ……嬉しそうな顔しちゃってさ……)
「えっ!? 私今そんなに嬉しそうな顔しちゃってる!? やだっ! 恥ずかしいわっ!!」
「サラッと他人の心読んで、勝手に恥ずかしがらないでくれる?」
「あははっ!」
「……何が可笑しいのよ……」
「いや……その反応が、凄く太陽くんと似ていたから……つい、笑っちゃった」
「……何よそれ……当たり前でしょ。兄妹なんだから」
「うん、そうだね」
チーズケーキを次々と口の中へ運んでいく愛梨。
「………………」
そんな愛梨に、月夜が一言。
「そんなに甘い物が好きならさ……美味しいクレープ屋があるんだけど……今度、一緒に行く……?」
照れ臭そうに放たれた、その言葉を耳にした瞬間……愛梨の目が、大きく見開かれた。
驚いたのだ――まさかの、その誘いに。
「うん! もちろんだよ!! 行こう! 絶対に行こう!!」
「うわっ……凄い圧で返答が来た……」
「いつ行く? いつ行く?」
スマホを触り、ウキウキと予定を確認し始める愛梨。
そんな彼女を見て、月夜は微笑んだ。
「ねぇ……白金……さん……」
「ん? 何?」
「……あー……いや、やっぱ何でもない……」
月夜は、言わんとする言葉を引っ込めた。
その理由は――
(直接言わなくても良いか……だってコイツは勝手に、心を読んでくるんだから……。心の中で言っちゃえ)
「……え?」
そして月夜は――心の中で、その言葉を唱える。
(兄貴を……よろしくお願いします……)
「……月夜ちゃん……」
「………………」
心の中でも……恥ずかしいものは恥ずかしい……。
顔を真っ赤にして頬杖をついている月夜へ、愛梨は満面の笑みで返答する。
「もちろん! こちらこそ、これからよろしくお願いします!」
「…………うす……」
今度は照れ臭そうに、小さく、ちゃんと言葉で返答した月夜だったのであった。
こうして……。
太陽と愛梨が付き合うにあたって、一番の障壁であった月夜との和解は……成し遂げられたのであった。
後は――
太陽の勇気だけだ。
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