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エピソード3『万屋太陽と白金愛梨』
【第45話】万屋太陽と白金愛梨②
しおりを挟む「もしもし……? 皐月姉? ごめん、今日帰るの少し遅くなる……。うん……もちろん気を付けるよ。うん…………晩ご飯は家で食べるから……うん…………分かった……じゃあ、そういう事で……」
月夜は、皐月との通話を切った。
スマホをポケットの中へ仕舞い、テーブルを挟んで座っている愛梨へと視線を向ける。
二人は今、喫茶店に来ていた。
夕食は家で食べるから、デザートならば付き合うという月夜の提案を、愛梨が飲んだ形だ。
そして、『それなら良いお店があるわ』と、愛梨がこの店を紹介した……という運びである。
開口一番、月夜が問う。
「で? 話って何?」
「言わなくても分かっているのでしょう? 私と……太陽くんの話よ」
「……また、私の心を読んだのね?」
「心を読まなくても分かるよ。あなたがバカじゃないって事、私は知ってるもの」
「ちっ……嫌味な女ね……私はね、あなたのそういう所が嫌いなのよ」
イライラが隠せない月夜。
「そう……」と、愛梨は淡々と頷いた。
「でも、こうして二人きりで喫茶店《ここ》に来てくれた……。何より私は、それが一番嬉しいわ」
「それはあんたが――」
「あ、あのぉ……ご注文良いですかぁー……」
険悪なムードをへし折るかのように、店員が話に割り込んできた。
そう……ここは喫茶店なのだ。注文は一番にするべき事柄である。
月夜は渋々、メニューを手に取り、サッと眺めた後「チーズケーキとレモンジュースで」と注文。
「私もチーズケーキとオレンジジュースお願いします」
愛梨もそれに同調すると、月夜が怪訝な表情を見せる。
店員が去って行くのを確認すると、月夜は一言。
「真似しないでよ」
「真似じゃないよ。私、いつもここ来たらチーズケーキを頼むの。美味しいんだよ? ここのチーズケーキ」
「…………あっそ」
「似てるんだね……好み」
「は?」
「ケーキの好みも……好きな人の好みも」
「はぁ!? す、好きな人って! あんたねぇ!!」
「静ちゃんから聞いたわよ。月夜ちゃんは、ブラコンだって」
「あ……あれは! あんたが先に!」
「私が?」
「…………何でもないわよ……」
ここで愛梨が視線を落とす。
「私……もっともっと、月夜ちゃんの事知りたいな」
「あっそ……私は全然、あんたに興味なんてないけどね」
「うん……知ってる」
苦笑いの愛梨。
「……その顔……」
「え?」
「私はあんたのその顔が気に入らないのよ! 【読心】だかなんだか知らないけど! その何でも理解してますって表情が気に食わないのよ!! 私の事知りたいなら! その得意な読心で、私の心も読めば良いでしょ!? そして、あんたは理解するの! 私が……如何にあんたの事が嫌いなのか! 理解するのよ! そうすれば、きっと私に許可を貰おうともせず、兄貴と付き合おうって考えになる筈だから!!」
「あ、心配しなくても、ちゃーんと心は読んでるわよ?」
「この野郎っ!!」
月夜が机を強く叩いた。
「じゃあ何でわざわざ私の元になんて来るの!! 悪口でも言われたい訳!? ドMなの!?」
「ううん……むしろ私はSよ。ドS」
「聞きたかないわ! そんな事!!」
「心を読んだ……だからこそ、よ」
「……え?」
「月夜ちゃんが今言ったように……心の底から私の事を嫌いでいてくれたのなら。こんな事しなくて、良かったのになぁ」
「っ!!」
痛い所を突かれ、押し黙る月夜。そして彼女は深い溜め息をついた。
「……なるほど、やっぱり全てお見通しって事なのね……」
「ええ……何せ私は――他人の心が、読めるから……」
「…………」
「私は今まで……この力で、色んな人を不幸にしてきた……今、あなたにしているようにね……。この一件は、私の人生を大きく左右する出来事に他ならない……。だからこそ、私はあなたと向き合わなくてはならないの……。不幸ではなく……太陽くんを、幸せにする為に……」
「……兄貴を……?」
「そう。ねぇ知ってる? 私が太陽くんを好きなくらい……そして、月夜ちゃんが、太陽くんを好きなくらい……太陽くんも、月夜ちゃんの事が、好きなんだよ?」
「………………」
「そんな太陽くんが、大好きな妹さんが嫌う女性と一緒になって、本当の意味で幸せになれるのかなぁ?」
「……知らないわよ……そんな事……勝手に幸せになればいいんじゃないの?」
「月夜ちゃん」
「何よ……」
「お願いします……。お願いだから……私と、ちゃんと向き合ってくれないかな?」
「…………向き合ってるでしょ? 今こうして……テーブルを挟んで……」
「嘘つかないで、月夜ちゃんだって本当は分かっている筈よね? 私が言っているのは、そういう物理的な話じゃなくて、『心の問題』だよ」
「はぁ? 何言ってんの? 意味分かんないんだけど」
「月夜ちゃん!!」
「っ!!」
突然大声を上げた愛梨に驚く月夜。
「…………知ってた? 私……腹が立つと、こんな風に大声を出したりするんだよ?」
「あ……あんた、一体何を……」
「太陽くんと昔、仲が悪かった頃なんて、ずっと彼に酷い事を言ってきたの……彼の胸を抉るような……エグい事をね。どう……? そういう私を、あなたには――知って欲しいって、言っているの」
「…………」
「私と、ちゃんと向き合って欲しいっていうのは、そういう事」
「………………」
「人ってね……? 上手いのよ、猫を被るのが」
「……知ってるわよ……そんな事……」
「だからこそ……あなたには、本当の私を知って欲しい。その上で、判断して欲しい」
「判断……?」
「そう……。太陽くんの事が大好きで――彼の事を一番見てきたあなたが――――私が、彼の横に居て良い存在であるのかどうかを、見極めて欲しいの」
「…………! 見極め、る……? 私が……?」
「それがあなたに認めて貰うという事……そして、それを問うている、今、この瞬間が――――私の覚悟よ」
「…………っ!!」
月夜は見誤っていた。
白金愛梨という女性の事を……。
今までただただ嫌っていた月夜は知らないのだ……この目の前にいる愛梨という女性の――――執念深いとも言える、頑固な本性を。
「ねぇ……月夜ちゃん? もう一度聞くわよ……? 私と――――ちゃんと向き合って」
愛梨と月夜のバトルは続く……。
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