ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

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終幕へのプロローグ

【第92話】最低だね……私……

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 三月四日――

 遂に、太陽の誕生日を翌日に控えたこの日。
 愛梨は苦悩していた。

『楽しみだなぁー!』
『ワクワクしてきたぁー!』

 昨日、太陽の心の声を聞いてしまったが故に、その期待が重くのしかかってしまう。
 これなら……最後まで、誕生日の事を忘れて貰っていた方が楽だった。
 変に期待をさせ、ハードルを上げてしまっただけだ。

 作戦が裏目に出てしまった結果となる。

(きっと……バチが当たったのだろうね……。カンニングを試みようとした……私への……)

 しかし、嘆いてばかりはいられない。
 太陽が気付いてしまった以上、誕生日を知らなかったという嘘は使えない。
 従って――愛梨は今日中に、百点満点のプレゼントを選定し、購入しなければならないのだ。

(……太陽くんが……今、欲しがっている物は何だろう……?)

 そんな訳で彼女は今、昨日太陽と一緒に訪れたデパートに、今日は一人で訪れていた。
 昨日の記憶を頼りに、プレゼント選定を開始する。

(思い出せ……欲しい物を具体的に知る事は出来なかったけれど……一緒にあちこち店を回ったのは事実なんだ。彼が一番反応をした物は……? 必ずヒントはある筈!)

 愛梨は、縋るように『過去』にヒントを求めている。
 あくまでも、彼女の中心にあるのは――『太陽が欲しい物を贈りたいだった。
 百点満点のプレゼント。

「何としても……見付けてやるんだから!」

 しかし――

 記憶を辿っても……店を回っても……答えは出せない。
 時間だけが……過ぎて行く。

(どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……! 何も思い浮かばない! 何を贈れば良いんだろう……? 分かんない……どうすれば……)

 休憩用のベンチに座り、必死に思考を巡らせる。
 刻々と過ぎて行く時間への焦りから……その思考は――――

「あ……そういえば太陽って……エッチな物……好きだったよね……?」

 暴走していた。

「そうだ! この間、CHINGAとかいう物を月夜ちゃんにブラジルまで飛ばされたって嘆いていたわよね! それを贈れば喜んでくれるんじゃ……!」

 暴走していた。

「よし! そうと決まれば、早速行動ね! 時間ないもの! 何処に売っているのか検索検索!」

 スマートフォンで検索を掛ける。
 『CHINGA 販売店』――――ヒットした。
 ズラリと、十八禁の店舗名が並んでいる。

「こ、これは……分かっていたけど……一人で入るのはキツいなぁ……一番近くて……入れそうな店を……あ、ここなんて良いんじゃない? 『シコシコ堂』名前も何か可愛いし! ちょっと遠いかもだけど、ここへ行こう! うん! そうしよう!」

 という訳で、暴走状態の白金愛梨は、『シコシコ堂』という如何わしい店へと、誕生日プレゼント選びに走り出したのだった。

 電車に乗り、三十分……。

 目的の『シコシコ堂』に到着。
 外観からして、明らかに如何わしいお店だったが、勇気を出して突入。

 全ては――――太陽の為だ。

 「いらっしゃいませー」という店員の声が愛梨を迎える。
 少しの間、店の中を回るものの、目的のCHINGAは見当たらない。

(どこにあるんだろう……?)

 店員さんに訪ねようかと思ったその時……エッチなグッズが立ち並ぶ棚の中に、それらしき物を見付けた。
 (おや……?)と思い、手に取る。
 その箱にはCHINGAと書かれていた。

(あった! 見付けたー!)

 興奮する愛梨。

(よしっ! 後はコレをプレゼント用に包装してもらって……)

 しかしここで、周囲の客の声が耳に入って来た。

「お……おい……あの子、めちゃくちゃ可愛くねぇか?」
「芸能人か何か……? でも、CHINGA握り締めて嬉しそうにしてるぞ?」
「え? ひょっとして使うの? あの見た目で男なのか?」
「違うだろ? 彼氏に贈るんじゃね?」
「彼氏に? 何で?」
「知るかよ……そういう趣味なのか。誕プレなのか……何じゃねぇーの?」
「ぷぷっ、誕プレにCHINGAは有り得ねぇだろ……」
「だよなぁー……」

 「…………」そのヒソヒソ話を耳にし、愛梨は顔を真っ赤にしながら、手に持っていたCHINGAをそっと棚に戻した。
 そのままそそくさと『シコシコ堂』の外へ。
 外に出て、両手で真っ赤な顔を覆いながら、心の中で叫んだ。

(ですよねぇーーーーっ!!)

 危うく大きな間違いを犯してしまう所だった愛梨は、既の所で踏みとどまったのであった。
 『シコシコ堂』の住人に感謝である。

(ど、どうかしていたわ……誕プレにCHINGAは流石に有り得なかったわね……そんな物渡していたら、百パーセントドン引きされちゃってた……助かったぁ……)

 どうやら、思考が正常に戻ったようで……。

(でも……方向性《エロ》は間違ってないと思うのよね……)

 いや、まだ暴走は続いているようだ。

(例えばエロ本とか……いや、エロ本は今更感があるから……エロDVDとか……高画質で見れるブルーレイでも……。シスコンだから、妹モノとか姉モノなら喜ぶんじゃ……。でも、月夜ちゃんや皐月さんの目の前で渡す展開も有り得るから……その場合を考えたら……うーん……)

 すると、ここで愛梨は閃いた。

(……何も……じゃなくても……良いんだよね……?)

 顔を赤く染めながら……閃いた。

(例えば…………コレ、とか……)

 そう言いながら、愛梨は自分の胸に触れた。

(そ……そうよ……私達は……高校生なんだもの……この機会に、私のをあげたら……きっと彼も……………………………………………………………………………………って!


 アホか私はぁぁあぁああぁあー!!)

「いやいや! 喜ぶだろうけど! 喜んでくれると思いたいけれども! そもそもまだ早いから! あーもうっ! 何考えてるのよ私はっ! そもそもこの方向性が間違っているんだわ! そもそも何よ! 誕生日プレゼントにエロって……頭が悪いにも程がある!! こんなの太陽くんと同レベルじゃないのよ!!」

 暴走から解き放たれる代償として、ディスられた太陽であった。

 冷静になった愛梨は溜め息を吐いた……。

「……とりあえず……デパートへ戻ろっか……無駄な時間を……使っちゃったなぁ……はぁ……」

 そんな訳で、来た道を戻り、再びデパートへ戻る。

 戻って、再びあちこちの店を回る。
 しかしプレゼントが決まらない。
 見当すらもつかない。

 時間は刻一刻と過ぎて行き…………。



 店内に……閉店を告げる音楽が、流れ始めた……。

「え!? もうこんな時間!?」

 愛梨の焦りがピークに達する。

(どうしようどうしようどうしよう!! もう時間が……何か……何か何かは買わないと!! 悩んでる場合じゃなかった! もう百点満点のプレゼントなんて言ってられない!! でもでもでも! 私は……太陽くんに――――)

「お客様」

 店員に声を掛けられた。

「閉店の時間ですので……」
「……あ……はい……そう……ですよ、ね……」
「またのご来店お待ちしております」


 そして……三月四日が終わり。
 朝が来る。

 ――――

 三月五日――


 万屋太陽の誕生日――当日をむかえる。




 放課後――太陽は下校していた。
 学校を休んでいた……愛梨の身を案じながら……。

(愛梨の奴……大丈夫なのか? こんな日に体調崩すだなんて……メールにも返信がねぇし……相当悪いのか……? お見舞いに行った方が…………)

 悩む太陽……。
 そんな彼の前に……。

「太陽……」

 体調を崩し……学校を休んでいた筈の、彼女の声が聞こえた。
 顔を上げると……そこに――

「愛梨……?」

 白金愛梨の姿があった。

「お前……何でここに……? 体調崩してたんじゃ…………あっ、ひょっとして、体調回復したのか? だからサプライズでオレに会いに!? それならそうとメールぐらい返してくれよー。心配したじゃ……」
「ごめんなさい……」
「……へ?」

 出会って早々、深々と頭を下げた愛梨。
 ごめんなさい――その声が震えている事に太陽は気付いた。

「え? な、泣いているのか……?」
「…………ごめ……んな、さい……」
「ど、どうしたんだよ!? 何かあったのか!?」
「……プレ……ゼント……選べ……な、かったの……」
「ぷ、プレゼント? それで、泣いてるのか? 良いって! 気にすんなって! 別にそれくらい――――」

「良くないよっ!!」

 その愛梨の叫びに、驚く太陽。

「何っにも!! 良くない!!」

 彼女がここまで取り乱した姿は、久々に見る。

「愛梨……お前……」
「本当に……ごめんなさい……大好きな彼氏の誕生日に、プレゼントの一つも贈れないような……駄目な彼女で……


 ごめんなさい……」


 幸せは……些細な出来事から……崩れ去る。

「私は……私、は……! 『答え』がないと……何も出来ない……情けない、女なの……これが…………どう……? 幻滅しちゃった……? しちゃったよね……? 嫌だよ、ね……? こんな、馬鹿みたいな彼女……最低だね……私……」
「お……おい……愛梨……。一体何を……」
「別れよう……」
「……え?」
「その方が…………太陽……あなたの、為だよ……」

 この一言から始まった……。
 白金愛梨と万屋太陽――――この二人の、『本当の物語』が。


 最後の青春後日談――――いざ、開幕。


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